森と花の国の王子

あーす。

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決戦

現在の情勢を見せてもらう一行

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「…なるほど…。
男を犯そうとかする、野郎が居る場では。
そのテで逃げられるのか…」

その呟きを聞き、オーガスタスも振り向いたけどロットバルトも背後に振り向く。

斜め後ろ、テリュスとレジィ、そしてエリューンがこちら向きのソファに腰掛けていて。
テリュスが頬杖ついて、呟いてた。

テリュスらの座るソファの、向かい合わせのソファには。
エディエルゼとミラーシェン、スフォルツァとラウールが、背を向けて座っていて。

皆一様に顔を下げ、テリュスの言葉に頷いていた。

レジィが、長い金の髪を振り、可愛らしい顔を上げて口開く。
「じゃ、僕も…」
言いかけると即座にエリューンが
「ダメです」
と釘を刺し、テリュスがため息交じりに呻く。
「お前、王子だろう…。
そんな下品な言葉覚えたら、エウロペが泣くぞ」

レジィはいっぺんに顔を下げると
「…僕…王族だから気ままに喧嘩出来ないって言う…ディングレーって人の気持ち、凄く分かる…」
と呟き、ミラーシェンまでもが
「僕も…」
と顔を下げて呟いた。

横のエディエルゼは焦りきって
「君が元気になって来てるのは嬉しいが!
ここに居続けると、とんでもない知識までどんどん入り、下劣に成り下がりそうで!
私はとっても心配だ!」
と叫んだ。

けれどミラーシェンは兄王子を見上げ
「でも…。
ゼイブンも、バルバロッサ王も…下品だったからこそ、嫌な目から逃げられたんだよね?」
と尋ねるので、とうとうエディエルゼは言葉に詰まった。

ラウールが、ぼそり…と呟く。
「…確かに…あの過酷な紅蜥蜴ラ・ベッタの拠点で。
シュトラーゼみたいな…凄い美少年ながらも下品でタフだった者は、逞しく対処してましたね…」
そう言った後、顔を上げて尋ねる。
「ファントール大公に捕らわれていた美少年や美少女らは…保護されたんですよね?」

横のスフォルツァが、直ぐシュアンを呼び出す。
“シュアン?
助け出された美少年、美少女らの中に…”

言いかけると、直ぐ察したエドウィンが返答する。
“ええ。
シュトラーゼ…さん…と良く似た特徴の方は、いらっしゃいます。
それにアースルーリンドからさらわれた子も二人、見つけました。
けれど…他のアースルーリンドからさらわれた子達は、凄い高値が付いて貴重で…。
あちこちの王族や金持ちの有力者に、売られちゃってます” 

ラウールが、ぼそり…と呟く。
「シュトラーゼが側に居れば、同じ体験、同じ場所にいたし…。
もしかするとミラーシェンももっと、元気になるかも…。
私も彼に、かなり慰められたから…」

スフォルツァが、労るようにラウールを見つめ、尋ねる。
「…そんなに…タフなのか?」
ラウールは、頷いた。
「かなり美しい赤毛で…青い瞳で。
珍しい美形で。
どれだけ酷いお遊びに付き合わされても、めげない鋼の精神してた。
みんな…食欲無い時でも。
一人だけ、ちゃんと食べてた。
みんな…希望を無くしても…一人だけ…ここからいつか出られて自由になれる。
って…信じてた」

「実際、そうなった」

スフォルツァが悼むようにそう告げると、ラウールは顔を上げ、頷いた。

エドウィンがラステルに、それを告げたのか。
別室に居るラステルが声挟む。
“今は到底無理ですが…間に敵が多すぎて。
けど落ち着いたら、必ずこちらにシュトラーゼさんを寄越します”

けれどそを聞いたみんなが、顔を下げる。
オーガスタスが、代表で尋ねた。
“今、バルバロッサ王が城を襲撃してるが。
もし攻め落とせたら、どれだけ敵勢力が削げる?”

皆、ラステルの返答を無言で伺う。

ラステルは、少しトーンを落とした口調で囁く。
“多数の勢力が寄り集まった敵は、現在ベラとか言う総指揮官の元、一応まとまっている。
が、総指揮官が倒れ、分裂すれば…。
各々おのおのの勢力が、王子を一人でも捕らえようと動き出す。
そうなると、一勢力の数は減るものの、動きが読みづらくなる。
…とにかく、今は持ち応える事が肝心。
こちらも…数を集め、一斉にこの地目がけ、集結し始めてる。
彼らが到着すれば…こちらも数で対抗出来る”

レジィがぼそり…と囁く。
“うん…。
シャーレが必死に空から、援軍見つめてる…。
オーデ・フォール中央王国からは、森の道が全部、大木とか岩で通れないけど…。
みんな必死に退けてる。
東のドナステラ宝飾職人の国国からも…険しい崖下って、大勢進軍して来てる…。
西の国からも、ラステル配下の人が兵を集めて…樹海の方の広い道路を進軍してきてる。
レクトール男爵…?
って人が、指揮してる…。
でも…でもこの機会に、オーデ・フォール中央王国に攻め込もうと企む大臣が居る…。
ラウールの国の、シャロナス公国。
アッカマン侯爵…って人が、宮廷警護から離れて、こちらに駆けつけないかって、伺ってる”

直ぐ、ラステルが介入してきた。
ドナステラ宝飾職人の国が進軍?!
オーデ・フォール中央王国王家は、彼らの国の宝飾を多数購入する、一番のお得意様ですからねぇ。
動いてくれましたか!
レクトール男爵は樹海方面からなら…かなりの遠回りですね。
けど木や石退ける事考えたら…逆に、早いのかも。
アッカマン侯爵と話したいんですけど…あ、いいです?話しても。
シャロナス公国シャロナス公の国がこの機に進軍しそうだから!
王都から、絶対離れないで下さいね!”

直ぐ、アッカマン侯爵から返答が届く。
シャロナス公国シャロナス公の国に、進軍させないため直ぐ牽制入れます”

皆その素早い即答に、感心しきった。

けれどアッカマン侯爵は、心配げに囁く。
“けどそっちは、本当に大丈夫なんです?”
ラステルは即答する。
“配下が圧倒的不利を感じ、直ぐアールドットの王に口利いてくれて。
今彼の城にお世話になってるから、当分は平気”
“エルデリオン様は?”
“…デルデが負傷したから。
心配で、べったりひっついてる”
“デルデロッテ殿が負傷?!”
“アースルーリンドの魔法使いが治療してくれてるから、全然安心。
そう、国王と王妃にお伝えして”
“そうします。
お二人とも、たいそう心配なさってますから”
“…だ、ろうね…。
幾度も危機はあったけど。
情勢は良くなってきてる。
油断は出来ないけど”
“…この声を伝えてくれてる魔法使いに。
ラステルを必ず守って欲しいと、お願いしたいんですけど…”

アッカマン侯爵が呟いた途端、オーレが呻いた。
“俺は魔法使いじゃ無いし。
しかも戦闘向きじゃ無い。
が、ここには大事なオーガスタスが居る。
『光の国』の神とも呼べる光竜は、オーガスタスを絶対見捨てないし。
オーガスタスは、ラステルと君達の大切な人を見捨てない。
安心しろ”

アッカマン侯爵は、暫し沈黙した後。
“…つまり、大丈夫。
って事で、いいんですよね?!”
ラステルが苦笑いして頷いた。
“そういう事”

その後、ラステルは
“レジィ、シャーレにお礼言っといて!”
と、付け足した。

レジィは暫く覗った後
“シャーレ…疲れて寝ちゃった”
と呟く。

オーレが直ぐ
“能力の使い方分かってないから、エネルギー配分、出来ないんだな”
とぼやいた。

けれどラステルの、明るい声が響く。
“これでアッハバクテスの軍が南東から進軍してきても。
北東から駆けつけて来てくれる、ドナステラ宝飾職人の国が迎え討ってくれそうですね!”

けれどその時、オーレが脳裏に叫んだ。
“ヤバい…!
ザットンに乗っ取られたヤツらが、侵入して来てる!”

シュアンが聞き返す。
“ザットン?!”
エドウィンが、沈んだ声で囁いた。
“我々から気配を感知されない能力を持つ、『影』の名前だ…”
シュアンがそれを聞き、訪ね返す。
“感知出来ないのに、なんでオーレに分かったの?!”
オーレが直ぐ様、叫び返す。
“剣持って、駆け込んで来てるから!
オーガスタス!!!”

その直後。
広間の扉が、バタン!と音立て、大きく開いた。
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