森と花の国の王子

あーす。

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決戦

ザムル城、一階書斎にて。麗しの赤い魔女とご対面

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 オーレが脳裏で叫ぶ。
“右曲がった先の扉!
ベラは地下室から、上がってきている!”

バルバロッサ王が広い廊下を右へと曲がり、正面扉目指し駆け込むと。
両横の細い廊下から、敵が飛び出し、扉の前に立ち塞がる。

ざっしゅっ!

前から突っ込んで来る敵に、バルバロッサ王は素早く剣を振り下ろす。
王の左側へとギュンターは飛び出し、左側から飛び込んで来る敵を、俊敏に間を詰め一気に剣振りきって斬り捨て。
直ぐ身を屈め、倒した敵の背後から剣を振り被り突進して来る敵の腹に、剣を下から回し振る。

ざすっ!

エウロペがギュンターとほぼ同時。
王の右側へと突き進むと、進む王に右横から剣を振り被る敵の腹へ、剣を突き刺し一瞬で引き。
その敵の直ぐ横から現れ、自分を斬ろうとする敵の剣を身を屈めながら避け、真横をすり抜け様、敵の後ろ腰へと剣を突き刺す。

どすっ!

エウロペとギュンター、二人が敵二人を一気に斬り倒し、襲い来る敵の気配が途絶え、屈めた身を起こした時。
王が真正面で進路を塞ぐ敵を、豪快に剣を振り切り、斬り裂いていた。

ざっしっ!!!

ラフォーレンは、王が剣振り被る敵と対峙したその一瞬。
敵が動きを止め、硬直するのを見た。
剣を振り下ろすタイミングが遅れ、その間に王は一瞬で剣を振り下ろす。

結果…敵は斬られ、王の足元に転がった。

“殺気で威嚇してる…?”
内心ラフォーレンは呟いたけど。
シュアンかエドウィンが、皆の脳裏に知らせてしまった。

けど横のゼイブンは、持ち上げかけた短剣を下げ、満面の笑み。
「頼りになる仲間がいると、短剣節約出来るぜ!」

僅か開いてた扉を、王は蹴って大きく開く。
赤毛の美青年は窓辺に背を向け、侵入して来る王を、目を見開いて見た。

“ゼイブン!”

脳裏にオーレが叫ぶ。

ゼイブンは簡略化した神聖神殿隊騎士呼び出し呪文を、室内に飛び込み様、咄嗟叫ぶ。

「ラッカ・ダッハ、ブリアステンデル!!!」

衣服の下に付けていたペンダントが、かっ!!!と透けて光り、突然ゼイブンの頭上に、黄金の光が。

ゼイブンは尚も叫ぶ。
「麗しの赤い魔女だ!!!」

光はうねりながら広がるものの、中からぼそぼそと話し声がする。

王は剣下げ、ゼイブンに振り向き。
ギュンター、エウロペは王の横に詰め、ラフォーレンはゼイブンの背後を護り、敵が来ないか、確認のため、後ろに振り向く。

赤毛の美青年は、目前で歩を止め背後に振り向く侵入者達を見、そろり…と窓辺へ。
窓を押し開け縁に足かけ、窓から外へ、飛び出そうとし始めるので、とうとうゼイブンは短剣投げ
「急げ!!!」
と怒鳴った。

かっっ!!!
短剣は逃げようと背を向けた青年の、真横の窓枠に突き刺さる。
青年は目を見開き、振り向いた。

その時やっと、うねってた光の中から一人が顔を出し、光の中から飛び出し宙に浮く。

王はまるで黄金の獅子のような、金の長い髪を靡かせた威厳あるその男を見上げ、見惚れた。

鈍い黄金の地色の衣服に、金飾り。
そして飾り模様の入った、瞳の色と同色の、青地のはためくマント。

雄々しく神々しい…素晴らしく威厳溢れる美男。

「アースラフテス!!!
長のあんたがわざわざ?!」

ゼイブンの問いに、アースラフテスと呼ばれた金髪碧眼の美男は微笑むと
「麗しの赤い魔女と、戦った経験者が見つからなくてね」
言いながら、下げた両手から光を湧き出し、赤毛の美青年が逃げ出そうとしていた窓と、青年の間を光で包み始める。

青年は背後の窓に光が満ち始め、退路を断たれ。
一度顔を下げたが、きっ!と顔を上げ、アースラフテスと対峙した。

アースラフテスが囁く。
“強引に、弾かれたいか?
それとも自主的に、出てくるか?”

赤毛の美青年は唇を噛む。
“おのれアースラフテス!!!
我が存在を、感知したか!!!”

赤毛の美青年から、すうっ!と透けた姿が浮かび上がる。
透けてはいたが、真っ赤な髪と豊満な胸の、素晴らしい美女。

バルバロッサ王もギュンターも、エウロペもが。
そのあまりに美しい美女の魔物を、目を見開いて見つめた。

ラフォーレンは尚も背後から、敵が入って来ないか。
チラ見しながら素晴らしい透けた美女を見、ため息吐く。

ゼイブンもが。
光る右手を後ろに引く、アースラフテスを見た途端。
大きなため息を吐き出した。

咄嗟、アースラフテスが右手を前に突き出す。
光の電撃が走り抜け、魔女にブチ当たる。

“ギャアァァァァァァァァァァァ!!!”

凄まじい叫び声と共に魔女は光に包まれ、黒い影が光の中、のたうちまわる様子が伺えた。
途端、ゼイブンもラフォーレンもが、揃って顔を背ける。

光が消えた後。
現れたその姿は…顔中デカいイボだらけ。
顔の形は溶けたように崩れ、左目が鼻の横まで垂れ下がり、口は裂け、変な風に歪んでる、凄まじいご面相へと変わっていた。

が、体はそのまま。
豊満な、盛り上がる二つの白い胸の、素晴らしいナイスボディ。

エウロペは、ゼイブンの言ってた事が、実感出来て顔を下げる。
バルバロッサ王に至っては、口を大きくあんぐり開けたまま。
目を見開いて、凄まじい醜女しこめとなった魔女を見てる。

ギュンター、ダケは表情を変えなかった。
脳裏に呻く。
“灯りを全部消せば…なんとか、イけるかな…”

即座にゼイブンが脳裏にがなる。
“お前のゲテもの平気、限界ナイのか?!
あれで勃つなんて、絶対異常だ!!!”

ラフォーレンはゼイブンの背後で後ろを向いたまま、同意に頷いた。

けれど麗しの赤い魔女は笑う。
“アタシの素顔を見たね~?!
見ちゃったのね~?!!!!”

突然、高らかに笑い始める。
“ふ…はははははは!!!
あーっはっはっはっはっはっ!!!”

が、笑いはピタリと止む。
“…な…何をした?!!!!”

バルバロッサ王は思わず、頭上で宙に浮く、黄金の獅子のような誇らしげな男を見上げた。

魔女の周囲が、突然キラ…と光る。
それはまるで、氷の欠片のよう。
次第に魔女は、霜で白く覆われ始め、両手上げ、白くなっていく自分の手を見つめ、震え始めた。

“お前が素晴らしい美女に化け、人の視線を釘付けるのは分かってる。
その後正体を現し、醜く変わった自分の姿を見せ、隙見て“障気”で包みこむ事もな!”
アースラフテスの言葉に、魔女は叫び返した。
“前はアタシの姿を見…アタシの“障気”に包まれ、逃げ出したのに!”

アースラフテスは笑う。
“人は学ぶもんだ。
覚えとけ”

魔女は霜が伝い、一気に白く変わると、固まり始め。
ついにはカチンコチンに凍り付き、その後粉々に崩れ去った。

パッキーン!!!

キラキラと白く細かい、氷の欠片が振り注ぎ、後には声が。
“なんてことするの!!!
なんてこと…。
これじゃ当分隠れてないと、『影の国』で他の『影』に食われちまう!!!
『闇の第二』様、お守り下さい。
どうか…どう…”

けれどそれを機に、ぱったり…と声は途切れ。
魔女が消えた途端、赤毛の美青年は優しげな美青年に戻った。
青年は背を向けていた窓枠に両手付き、床へと崩れ落ち始める。

「…あ…」

エウロペも振り向いたが、ギュンターもゼイブンに振り向く。
ゼイブンに代わり、頭上のアースラフテスが囁いた。
“支えて大丈夫。
彼は我に戻ったから”

ギュンターとエウロペが同時に美青年に駆け寄り、両側から腕を掴んで、床にへたり込む美青年を支える。

バルバロッサ王が見ていると、出て来た光へと戻ろうとするアースラフテスは、振り向いて王に言い諭した。
“あ、その赤毛。
染めてるから、地毛じゃない。
ある王国の、行方の知れずの王子になりすまし。
王子とかたって、王国を乗っ取るため、染めたらしい”

バルバロッサ王が
“どこの国だ?!”
と叫ぶ。
が、アースラフテスは
“光切れだ。
他に聞け”

そう言い捨てると、光の中に戻って行った。

バルバロッサ王はぽかん。と、ゼイブン頭上の光を見つめる。
が、その光も間もなく小さくなって、消え去った。

「あれは誰だ?!」

王に怒鳴られたものの、ゼイブンはくたびれ切り、よろけたところを背後からラフォーレンに、右腕と背を支えられ呻く。
「…神聖神殿隊騎士のおさ、アースラフテス。
神聖騎士に並ぶ、大物だ…。
お陰でこっちは、三日間酒飲み続けた二日酔いより、もっと酷い疲労だ…。
もっと小物の神聖神殿隊騎士だっ…て…払えたはず…なのに”

ラフォーレンが倒れ込むゼイブンを支えきれず、叫ぶ。
「ギュンター!!!」

が、ゼイブンの左腕を、がっし!と王が掬い支える。

「ご苦労!」

ゼイブンは王の言葉に頷くと、がっくん。と首を垂れ、支える二人の腕の中に倒れ込んだ。
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