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念願ドラーケンとの対戦に挑むアイリス

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 アイリスはすっ。と視線を次の対戦相手、ドラーケンに向ける。
静けさをたたええた濃紺の瞳で。

ドラーケンは一瞬、微笑に包まれたその美少年の瞳が、笑って無くて気圧けおされたように感じ、微かに身が震った。

スフォルツァは隣のラッツが、項垂れるように俯くのも見た。
アッサリアはラッツが、幾度も練習で勝ちを取られた好敵手。

同等…。
もしくは負けるかもしれない。
そう思ってる相手。

そのアッサリアに、アイリスは勝った。
この本番の場で。
見た事のない戦法で。

ラッツの中に疑問が沸き上がっても、無理は無い。
もしかしてアイリスはわざと自分に、勝ちを譲ったのか?と………。

スフォルツァも俯いて吐息吐く。
確かに…確かにアイリスは、足を使った揺さぶりに弱い…。

自分と打ち合ってた時でも、大きく揺さぶると必ず体勢を崩し、隙を作った。
が…。

多分それでもアイリスは、打ち崩されない手を、隠し持ってる。
そんな気がして、ラッツに取りなせなかった。

が直ぐ次の対戦が始まっていた。

ドラーケンの激しい剣が再び、今度はアイリスを襲っていた。
足を使い激しく揺さぶって奇襲を掛けるドラーケンの戦法は、アイリスが先ほど負けた相手、ラッツと同じ。

その上ドラーケンは力も強く激しい。
アイリスは今度こそは、勝てないだろう。

誰もが皆そう、思った。
が二人が打ち合い始め、数秒だった。

講堂内で試合を見守る皆が、その目を疑った。
一瞬の出来事で、動きの激しいドラーケンが固まったように静止し、アイリスがその胸元に剣を突き付けている姿が、見つめる誰もの視界に飛び込んで来た。

見ているのにまだ、訳が分からなかった。
物語のページが突然数十ページ飛んで、いきなり結末になってる。

そんな印象だった。

フィンスが横のローランデに顔を寄せる。
「持ち替えたな?
確かに剣を、右から左に」

シェイルもヤッケルも見ていると、ローランデは静かに頷いた。
「大変巧みに、それと気づく間すら無く」

オーガスタスは横のローフィスが、とんでもない喜劇を目にしたように愉快そうに、身を前後に揺すって笑いこけるのを、呆れて見た。

くく…くっ…!

「…楽しそうだな?」
聞いてやるとローフィスは、笑いまぬまま告げる。
「あんな小技を大貴族の…しかも学年筆頭が。
大層優雅にやって見せるのを、初めて見た…!
王道が大好きな偉そうな大貴族は、ああいうやり方を軽蔑するのが普通なのにな…!
だがああ優雅に素早くやられちゃ、誰も文句を付けられまい…!」

くくっ…くっ!

オーガスタスは大きく肩を、竦めた。
つい、三年の最前列に座るディングレーを見るが、ディングレーは予想はついてる。とばかり腕組んで、俯いて吐息を、吐き出していた。

アイリスは、こらえていたものの上がる息を、必死で整えた。
正直ドラーケンの重く激しい剣を二度、止めたから腕がぶるぶると、剣と腕に付けた重しの重みで震えていた。

もう息切れが限界で、腕も限界だったから剣を咄嗟に持ち替えた。
がそれが功を奏し、持ち替えた瞬間気づいた隙に剣を、突き出した。

ただ、それだけだったがドラーケンは動きを止めた。
顔を見ると、息が止まりそうなくらい、驚いていた。

こっちも予想外のラッキーだったから、当人がびっくりするのも無理も無い。
こっそり講堂の外から伺い見ているシェイムに、思い切り笑いかけたい気分だった。

講師が
「其れ迄!」
と叫ぶ声も、固まったドラーケンを溶かす事は出来ないみたいに。
アイリスが剣を下げてもまだドラーケンは、そのままの姿勢で動かない。

が下げた剣を持ちドラーケンから離れながら顔を上げた時、講堂中の視線もドラーケン同様、固まったままだった。

次第に氷が溶け出したように、どよどよとざわめきまくる。
「何だ!あれは…!」
「どうなったんだ?お前、見えたか?!」
「どうして………!」

「何でアイリスが、勝ってる?!
押してたのは、あっちだろう?!」
「いつの間に、アイリスが勝ったんだ?!」

けたたましく皆が、事の子細を探ろうと周囲としゃべりまくる。

が、アイリスが顔を上げてオーガスタスを見た時、彼の横の友人が笑いこけ、オーガスタスはその友人を呆れ混じりに見つめながら、見てる自分に気づくと、にやり…!と笑顔を送った。

“オーガスタスには、お見通しだったんだな”
アイリスは少し俯き、肩を竦めた。

が本番はこれからだった。

敗者組で一番に成ってしまったから、次の勝者組の、一番の敗者と四番目の地位を争う事になる。

ともかくアイリスは、真ん中から避けて端に移ると、腰を下ろし休んだ。
息切れで死にそうだったから、この休憩は本当に、有り難かった。
講師が寄って来て
「まだやれるか?」
と伺う。

正直もう、負けてもいい相手ばかりだったから、ここで辞退しても構わない。
が………。

腕が鎧の重みで痺れ、感覚が無くなり始めてる。
腿にも鎧を付けていたから、この後戦うとヘタしたら、足がもつれる。

だから顔を上げ、言った。
「大丈夫です」

思い切りやっても勝てないだろう…。
ならせめて…やれる所まで自分を試すのも、いいだろう。

窓の外を見ると、シェイムと目が合った。
微笑ってやると、シェイムが呆れ混じりの表情で、肩を、竦めた。
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