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難しい判定

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 講師らが学年別に座る、階段状の長椅子へと散り、騒ぎまくる講堂内の、それぞれの学年生徒達に向かい、怒鳴る。
「誰か!
見た者はいるか?!」

「ローランデの剣がすっぽ抜けたのは、見た!」
叫ぶ二年に、講師は二年席に近寄り、ほっとしたように尋ねる。
「で?
それはオーガスタスの剣が折れる、前か後か?」

が、問われた二年は、首を捻った。
「オーガスタスの剣が、折れた所を見ていない」
講師はそれを聞き、目をまん丸に見開いた。

ざわざわざわ…………。

問われて応えるものの、みんなそんな調子だった。
オーガスタスの剣が、折れたのは見た。
けどローランデが折れたのはいつか、分からない。

つまり結局、どっちかが折れた場所しか見ていず、どっちが先が、知る者はいなかった。

ディングレーは腕組んだまま、俯き吐息を吐き出し、中央でローランデと一緒に判定がつかず困ってるオーガスタスを、チラ…。と上目使いで見た。

オーガスタスは真っ先に、ローフィスを見た。
言え!と顎をしゃくる。
が、ローフィスは両手を横に、首を竦める。

オーガスタスは
『嘘つけ!見てたろう?!』
ともう一度顎をしゃくる。
が、ローフィスは眉間寄せ
『見ていない!』
と五月蝿い周囲に、口だけ動かしオーガスタスに抗議した。

が、すっ…と、オーガスタスが三年席、最前列に座るディングレーを見つめる。

ディングレーは腕を組み、俯いていた。
そしてチラ…と目線を上げると、オーガスタスと目が合い、慌てて視線を逸らす。

が…もう一度顔を上げ見ると、オーガスタスの猛獣のような黄金の瞳に睨まれ、ようやく近くを回り
「誰か!
本当に誰も見てないのか?!」
と叫ぶ講師を、じっ…と見た。

講師は直ぐ気づき、ディングレーに駆け寄り目前で呟く。
「見たのか?!」

問われてディングレーはもう一度、思い切り深く顔を下げ、吐息を吐く。
が、静まり返る周囲を不審に思い、顔を上げた時。
一斉に固唾かたずを飲むように全校生徒に見つめられてるのに気づき、心底ぎょっ!とした。

狼狽うろたえそうに、なったがつとめて王族の威厳いげんを保ち、口を開く。

「…オーガスタスの、腹を狙った剣をオーガスタスが弾き、その数秒後剣は床に落ち、ほぼ同時にローランデの、咄嗟に振った右の剣先がゆっくり、滑るように床に落ちていった。
が、床に付いたのはオーガスタスの折れた剣が先だった」

講師が眉間を寄せ、ディングレーに詰め寄る。
「確かか?!」

「派手に音立てて床に落ちたのはオーガスタスの剣で。
その音がした時、ローランデの剣は滑るように垂直に、床に滑って落ちて行くのを俺は、見た。
つまり音がした後、ローランデの剣はまだ僅かだが、宙にった」

講堂中が、水を打ったように静まり返った後。

どっ!

と一斉に、そこら中で物議をかもしだす怒鳴り合いが、始まった。

講師がディングレーに身を寄せ、外野の五月蝿さに耳元で呟く。
「どっちが先に折れた。と言う時点では、どうだ?」
「そんなの、解るかよ。
床に付いたのはどっちが先か。しか、解らない。
折れたのもすっぽ抜けたのも、ほぼ同時だったろう?
…多分。
が、オーガスタスの剣は真っ直ぐ真上から下に落ちたが、ローランデのは横に垂直に、滑るように落ちた。
だから差が、生まれた」

言って、見つめる講師にディングレーは付け足した。
「多分」

講師は尚もディングレーに囁く。
「お前なら、どっちを勝ちにする?」
ディングレーは怒鳴った。
「判定者は、あんただろう?!」

怒鳴られて講師は顔を上げ、がまた、ディングレーに顔を寄せた。
「…グリフォン像は一つしか、用意されてないんだ」

ディングレーは顔を離し講師を見つめ、また顔を寄せて囁く。
「…だったら大至急、二つ用意するしか、無いんじゃないか?」

講師は吐息と共に顔を離し、ディングレーを見る。
「オーガスタスを負けにしたら、お前でも異論を唱えるか?」
ディングレーは即答した。
「当然だろう?!」

が講師がとうとう、怒鳴った。
「言ったように像は一つしか無いし!
その称号も一人だけなんだ!」

ディングレーも腕を上から下に、派手に振り下ろし怒鳴り返す。
「だったら試合の、やり直ししか手は無いだろう!」

ざわざわざわ…………。

判定を巡って講堂中がざわめく中、中央のオーガスタスが、怒鳴る。
「判定は、決まった!」

講師達は集って論議を戦わせていたから、オーガスタスの言葉に、ぎょっ!とし、揃って顔を上げた。

オーガスタスは講堂中の注目を自分に集めた後、にんまりと笑い、更に怒鳴る。
「俺もディングレーに言われて思い出したが、チラと視界に、俺の剣の音が響いた後、ローランデの剣らしき銀色の棒がゆっくり床へ、滑って落ちて行くのを目にしてる!
ゆえに!」

そして隣の、ローランデの手首を掴み、さっ!と上げる。
「勝者は僅差きんさで、ローランデだ!!!」

四年席で、悪友達が一斉に、ブーイングを始める。
「何いい子ぶってんだ!」
「どうして!
俺の剣が後に折れたに決まってる!
と押し切らない!!!」
「床にどっちが先に付いたか。じゃないだろう?!判定は!
どっちが先に、剣から離れたかだろう!!!」

講師がまた顔付き合わせ
「確かに、そうだ」
「四年の、オーガスタスを立てるか?」
と囁き始めた。

が、とうとうローフィスが叫んだ。
「いい加減にしろ!
オーガスタスにとっちゃ小柄な二年に、対等に戦われた。
それだけでもう、負けなんだ!
友達ならそれぐらい、察してやれ!!!」

ローフィスは悪友共に、叫んだつもりだった。
が、腕組んで目を開けると、講堂中の視線が自分に集まり、一・二年を除くほぼ全員が。
無言で睨み付けてる。

そんな中、オーガスタスだけが、ほがらかに笑った。
「さすが親友。
俺の言いたい事が良く、解ってるな!」

ローフィスはディングレーをチラと見、シェイルをも見たが二人共
『馬鹿…』
と言う情けない表情を自分に、向けていた。

「勝者、ローランデ!」

講師は叫んだ。
が、講堂内はまだ、皆が判定について怒鳴り合い、騒ぎは更に大きくなっていた。

「拍手が、無いぞ!」

オーガスタスに吠えられ、ようやくぱちぱちぱち………。
とまばらな拍手がわいた。
が、二年達だけは自分達の英雄を褒め称え、揃って盛大な拍手を、ローランデに降らせた。

が当のローランデはとても困っていて
『それでいいんですか?』
と言う視線をオーガスタスに向ける。
が、見上げられたオーガスタスは
『黙ってろ』
と睨み脅し、ローランデを黙らせていた。

「表彰は一週間後、全校生徒の前で執り行われる!
判定に付いては、一切異議を認めない!
以上!!!」

叫んだ講師は大ブーイングを予測するように顔を下げ、そそくさと背を向けその場を去る。

怒号が、沸きかけたが、講師は判定を告げた仲間を庇うように、各学年生徒達に
「すみやかに退場しろ!」
と怒鳴り続け、講堂内はまだ大騒ぎで怒鳴る者が大勢いる中、講師らは必死に生徒達を乱暴に出口に、ど突いて押し出し続けた。

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