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ギュンターとディングレー、噂の実情

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 ディングレーが三人の美少年を送り届け、三年宿舎の階段を登りきった時。
背後からギュンターが、凄い勢いで駆け上がって来る。

ディングレーは最上段で、気づいた。
平貴族大食堂に朝食をとるため、続々と入って来る生徒らが。
異様な眼差しで、自分と今にも背後に追いつく、ギュンターを一斉に、見上げてる様を。

ディングレーはスフォルツァに突っかかれ、精神的に消耗していたので。
さっ!と先に、一階からは隠れる、大貴族食堂に続く短い廊下へと歩を進めた。

ギュンターが階段を上がりきって、突っ込んで来るから、ディングレーは振り向いて言った。
「もう三人と朝食も済ませ、一年宿舎に送り届けたぞ?」
ギュンターは項垂れて言葉を返す。
「…悪かった。
あんたに全部させて。
俺、夕べ遅くてすっかり寝過ごして…」

が。
背後食堂に居る取り巻きの大貴族らまで。
揃ってなんとも言えない視線を向けているのに気づき、ディングレーはギュンターの腕を引くと、だかだか食堂を抜け、自室までギュンターを連行した。

人目を避けるのは自室が一番。
扉を閉めて、腕を掴んだままのギュンターに、振り向く。
「…マズかったか?
なんか」
先にギュンターに尋ねられ、ディングレーは尋ね返す。
「なんかって、なんだ?」
「…あんたに分からないのに。
俺に分かる訳、無いだろう?」

ディングレーは、がっくり。と首垂れた。
「気づかなかったか?
なんか異様に注目されてる」
ギュンターは首を横に振ると『参った』と言う表情で告げる。
「毎度、そうだ。
いい加減、見慣れてくれたらいいと思う。
…俺の顔って、そんな珍しいか?」

真正面で聞かれ、ディングレーはマジマジと、金髪巻き毛を首に巻き付けた、そこらではお目にかかれない優美な美貌と珍しい紫の瞳を見返し、一瞬言葉に詰まったが、言った。

「…珍しい」

今度はギュンターが、がっくり。と首を落とす。
「…あんたやオーガスタスはたいしてジロジロ見ないのにな。
いつも気づくと、大抵誰かにジロジロ顔を見られてる」

ギュンターが項垂れてるので、ディングレーは白状した。

「…………俺は普段、あまり顔を観察しない。
主に、性格で付き合ってるから、顔を詳しく描写しろ。
と言われても、出来ない」

この告白は“ぼんくら”と思われても仕方無い覚悟だった。
が、ギュンターは同意して頷く。

「俺も、ここんとこ立て続けに連んでるオーガスタスが、昨日椅子に座ってるのを見下ろした時。
初めて“男前で整った顔してる”と気づいた」

ディングレーは思わず、同類に安心しきってぼやく。
「野郎なんて普通、そうだよな?」
ギュンターも、頷いて言う。
「女もそんな調子なら。
男としてヤバいけどな」
が、ディングレーは顔下げてまた、白状した。
「…………俺は、寝た相手でも顔覚えて無くて、胸しか記憶に無かった事がある」
「…それ、シラフの時に?」
「いや。
深酒して、いつ寝る事になったのか。
その導入部すら、記憶が無かった時だ」

ギュンターは、大きく頷く。
「俺も、かなり酔った時はそうだ」

ディングレーはやっぱり。
ギュンターに好感持ちまくった。
「…普通、そうだよな?」
普段“王族”と仰ぎ見られてるディングレーにとって、滅多に言えないセリフだった。
が、ギュンターは頷いた。
「だよな?」

そのタメ口の同意が、やたら嬉しくて。
ディングレーはにこにこして言った。
「一人分くらいの食事なら、直ぐ用意できるが、食ってくか?」

ギュンターはため息交じりに呟く。
「アスランをあんたに押しつけた形になった上、あんた一人に送り届けさせてるのに。
ホントにそこまで、世話になって良いのか?」
ディングレーはもう召使いを呼び出すベルを手に取り、鳴らしながら言った。
「気にするな」

ディングレーにとって、ローフィス以外初めて、地で話して言葉の通じる男。
ギュンターと一緒だと、疲れない。

それで召使いに直ぐ食事の用意を頼み、テーブルにギュンターを促し、自分は向かいに腰掛ける。

間もなく給仕が皿をギュンターの前に置くと、朝っぱらからの手の込んだご馳走を目にし、ギュンターは一気にフォークを取り上げる。

「そう言えばお前、スフォルツァとアイリスはデキてる。
と言い切ってたろう?」

ギュンターは口に運ぶ手を休ませず、もぐもぐしながら言い返す。
「どう…見たってそうだ」
「…スフォルツァは…俺がマレーと寝てると。
お前から見ても、そう見えるか?」

ギュンターは肉の塊をごっくん。と飲み干し、次のポテトを口に放り込んで、頷く。
ハーブの香り付きの、洒落たポテトの味に、ギュンターは目を見開いた。
肉ですら、食べた事の無い美味いソースが、肉の味を引き立ててた。

「…どの辺が?」
ディングレーの問いに、ギュンターは顔を上げて目を見開く。
「アスランと違って親密だし。
あんたと居る時の、マレーの反応もそうだ。
一発で、“寝た”って分かる雰囲気、丸出しだぞ?」

ディングレーはため息吐いた。
ここはどうやら、ギュンターは自分の“同類”じゃない。

「それだけ見抜けて…なんで俺とアイリスが寝てるって、誤解できるんだ?」
独り言だった。
が、ギュンターはディングレーを見る。
「アイリスは、性悪だ。
寝てない相手とも、意識して寝てるように振る舞える。
アイリスに親密にされ、あんたが焦って引き剥がそうとしたら。
“仲を隠そうとしてる”
な誤解を、相手に与える。
あいつアイリススフォルツァと寝てる癖に、自分にのぼせ上がってるスフォルツァを、遠ざけたがってる風だよな?
俺はここは詳しく無いが。
そんなに…男と寝てる。
とバレると、色々マズいのか?」
「女役、やってるヤツがな。
大抵、迫り倒される。
ああ男役の方は、奪い取りたい相手に、喧嘩売られるな」

「…つまり男でも。
女役やってる男は、女扱いか」
「もっと過酷だ。
女には手加減しても、男相手は手加減無用。
とかって勘違いする乱暴者は、多い」

ギュンターは、フォークの手を止めて、皿を見る。
「…なんで、区別する?
男だって酷く扱われたら、酷い事になると。
どうして想像付かない?」

ディングレーは頬杖付きながら、目を見開く。
「…俺に聞かれてもな。
兄のやってる事はずっと理解不能で、血が繋がってる事を毎度、疑ってる」

ギュンターは最後の肉を口に放り込んだ後、フォークを止めて気づく。
「そうか…最悪なヤツが、実の兄貴だっけ」
が、ギュンターがディングレーに同情を見せたのは、ほんの一瞬。
直ぐ
「これ、おかわりしていいか?」
と聞く。
背後に立ってた給仕は、空の皿を背後から手を伸ばして下げ
「直ぐ、お持ちします」
と言って、空の皿と共に、下がった。

果実水のグラスを取って口に運び、ギュンターはディングレーに言う。
「悪いな」
「好きなだけ食え。
ここの良い所は、人目気にせず気軽に出来ることだ」
ギュンターは、ディングレーを見た。
「…俺はいつも人目なんて、気にした例しがないが…。
そうか、王族だったな。
色々見られたら、不都合なことがあるのか?」
ディングレーは、即答した。
「当然だろう?
みっとも無い所は極力、見せられない」
「イメージ・ダウンになるから?
だがあんた、マジかっこいいぞ」
「お前に褒められてもな…。
正直言って、気味悪い」
「二度と言わない」
が、ディングレーは聞いた。
「…本気で、格好いいと思ったのか?」

ギュンターは、項垂れた。
「王族として、別格だとは思ってる。
が正直、本気で格好いいと心から思ったのは、デルアンダーだ」

ディングレーは、頷きながら、ため息交じりに言葉を返す。

「…そうだろうな。
俺でも時々、思うからな。
女の居る場であいつが側に居たら、王族伏せると俺は多分、負ける」
「…だな。
あいつ、格好良さと男らしさと、女受けしそうな雰囲気、全開だもんな」
「お前はその美貌だ。
女受けじゃ、デルアンダーを上回るだろう?」

ギュンターは、眉寄せた。
「俺の場合、女達は綺麗な人形にキャーキャー言ってるのと、変わらないだろう?
騎士として、男っぽく格好いいって意味では俺も、デルアンダーに負ける」

二人は顔を見合わせ、ほぼ同時にため息を吐いた。

こんな色気の無い時間を、二人は過ごしていたので。
平貴族、大貴族それぞれの食堂で今現在。

二人が絡み合ってる淫らで猥褻ひわいな妄想が飛び交ってるなんて、二人共が欠片かけらも、思い浮かばなかった。
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