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自分の立場を改めて自覚させられるオーガスタスと、驚愕のギュンターの告白

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 食後、ローフィスと屋外共同浴場に出かけたオーガスタスは。
早々に食事を自室に確保し、気づいて後に付いてくるリーラスと共に、だだっ広く月明かりだけの仄暗い温泉に浸かると。
湯の中でリーラスから、現在のニ・三年らの噂を披露された。

「…ともかく、現在ギュンターはオーガスタスだけに絞ったと、奴ら噂してる」
愉快そうに両腕を湯の縁の岩の上に乗せて言うリーラスは、俯き加減のオーガスタスの表情を見て、慌てて聞き直す。
「…噂だよな?
事実じゃないよな?
ギュンターってどう見ても…こっち側の人種だろう?
確かに顔だけじっくり見りゃ、美麗だが。
だが中身は俺らと同じ、女と見りゃヨダレ垂らすどスケベ人種なんだろう?!
………ちがうのか?!」

「…違わない。
みんな…そんな暇なのか?」
オーガスタスにぼそり…と言われ、横のローフィスが呻く。
「まぁ…無理無いよな。
なんだかんだ言ってお前って下級に慕われてる。
そのお前が。
初めて『教練キャゼ』内で、クィーンを迎えたとなりゃ…」

リーラスも陽気に頷く。
「誰でも気になって仕方無いだろうよ!」

オーガスタスが、ジロリとリーラスを見る。
「…四年まで、信じてないだろうな?
その噂」
リーラスは真顔になる。
「俺らが連んでる面々は笑い飛ばしてるが…。
そっちの趣味があって、ギュンターにちょっかいかけようと狙ってた奴らは…全員、お前ともしかして…と疑って、未だに行動に出てない」

「…ギュンターは…ありがたいだろうな」
ローフィスの呟きに、オーガスタスが顔を振ってローフィスに視線送る。
「…そうか?
あいつ、喧嘩したくて仕方無い、暴れん坊だぞ?」
リーラスは、気の毒そうに囁く。
「…なら逆に、残念だな。
最近、グーデン一味ですら。
迂闊にギュンターに絡んで、お前が出て来たら。
と、ビビって控えてるらしいぜ?
ディングレーとは終わった。
って噂も出たが。
もし、ディングレーまで出て来たら。
とビビリまくってるんだろうな。
お前とディングレー敵に回したら。
グーデンに頼る以外、『教練キャゼ』ではやっていけないしな」

「…三大勢力みたいに、言うな」
オーガスタスのセリフに、ローフィスもリーラスも顔上げる。
「自覚、無いのか?」(ローフィス)
「今まではディアヴォロスの一大勢力だったが、彼が卒業した今。
空いたディアヴォロスの椅子にディングレーが座り、『教練キャゼ』のボスはお前。
お前とディングレーは『教練キャゼ』の二大勢力で、注目の的」(リーラス)

オーガスタスは、大きなため息吐く。
「…そうか…ディアヴォロスが消えたから…。
それまで彼の陰に隠れ、うんと小物の二番手扱いだった俺とディングレーが、いきなり脚光浴びたのか…」

リーラスが、大きく頷く。
「忘れるな」
ローフィスも言った。
「肝に、命じとけ」

オーガスタスは素晴らしい体躯の、広い肩幅と胸。
がっしりした首に赤毛を垂らし、引き締まりきった腹を湯から上げた『教練キャゼ』のボスに相応しい、迫力の裸体で項垂れるから。

思わずローフィスとリーラスは、顔を見合わせた。


 ディングレーは一年美少年ら、三人の部屋の扉をノックし
「どうぞ」
と返答するマレーの声の後、扉を開ける。

「…明日の話だが…」
見るとアスランの寝台に、ハウリィが乗ってアスランを慰めている様子。

「あ…」
言いそびれてると、ディングレーの横に立つマレーが、そっと長身のディングレーを見上げ、囁く。
「アスランは父親が亡くなって突然『教練キャゼ』に来る事になったから…。
乗馬はほぼ初めてで、剣も…握った事無くて…。
それで…」

ディングレーは気づいて、項垂れる真っ直ぐの黒髪の、アスランを見る。
横では綿飴みたいな明るい栗毛の、愛らしいハウリィまで、一緒に項垂れていた。
 
アスランは戸口のディングレーに顔を上げて尋ねる。
「あの…僕みたいに…落ちこぼれでも、ここでやっていけます?」

ディングレーは顔を揺らす。
大抵、綺麗なだけで非力な美少年はグーデンの愛玩に属し、講義はほぼ免除をグーデンが強引に講師に取り付け、情事の相手するだけで、ここを卒業できる。
グーデンの逆鱗に触れたり、飽きられたりしない限り。

ディングレーは…自分はそういうやり方を一切してなかったし、ここでは実力を磨く事を周囲にも言い渡してる。

「…補習も…ついて行けないのか?」
アスランは、こっくり頷く。
「面倒見てるスフォルツァに、いつも迷惑、かけてます…。
僕もう、スフォルツァに悪くて…」

ディングレーは、ため息吐いた。
「あいつの、役割だ。
つまりスフォルツァは、自分の役目を放り出さず、しっかりやってる。
…と言う事だ」

アスランは、顔を上げる。
泣きそうな表情で、慰めるのが苦手なディングレーは、内心『泣かれたら…!』
とビビった。

が、あえて言う。
「確か、シェイルが同じグループだろう?
あいつも小柄。
だが小柄でも、戦いようはある。
剣はあいつに教えて貰え。
それと…明日は自宅に帰る気なんだろう?」

アスランはぽろっ。と頬に涙を伝わせ、か細い声で言う。
「…アンネスに会いたい…。
けど…きっとゼダンが…アンネスといつも一緒で、あんまり二人きりになれないと思うし…」

ディングレーはため息吐いた。
「いいから、帰れ。
明日俺の部屋に付き添いが来る。
そいつと一緒に戻れば、そいつがゼダンとか言う男の相手するから、お前はアンネスと一緒にいられる」

アスランは、ぱっ!と明るい表情で顔を上げる。
「ホントですか?!
良かった…!
父の亡くなった後、ゼダンが父親代わり…って家に入り込んでから…凄く仲の良かったアンネスと、あんまり居られなくて…」
言いながら、アスランはどんどん顔を下げる。
「…それで僕…寂しかったけど、ここに来て。
同年代の子がいっぱいで、嬉しくて。
でも…………」

ディングレーはため息吐くと、寄って行く。
「いいからグーデンは気にするな。
いずれ決着も付けるし、ヤツにもう手出しさせないよう、俺達が戦う」

王族のディングレーにそう言われ、アスランは凄く嬉しそうに顔を上げて、思いっきり頷く。
「はい!」
「…だからお前は。
苦手だろうが、出来るだけ頑張って、剣と乗馬をこなせ。
参謀候補とか…剣と乗馬以外の、他の才能のあるヤツは、剣や乗馬があまり出来なくても卒業できる。
だがまるっきり出来ないのは、ダメだ。
…分かるな?」

アスランは…けれど目を見開いて希望を貰ったように表情を輝かせた。
「はい僕…頑張ります!」

茶色の瞳をきらきら輝かせるアスランを見て。
ディングレーは心から、ほっとした。

そして横の、ハウリィに視線を送る。
「お前はアイリスが付き添う。
母親に…会いたいんだろう?」

言った途端、顔を上げたハウリィの表情が、みるみる凍り付くのに。
ディングレーは胸を痛めた。

「…大丈夫だ。
暴挙は決して、受けない」
「でも…あの…」
「信頼しろ。
絶対、嫌な思いはしない。
だから明日、アイリスが迎えに来たら。
一緒に自宅に戻って、母親に会え。
…いいな?」

ハウリィは暫く呆然として、青く大きな瞳を見開く。
「あの…ローフィス様じゃ無く…アイリスですか?」

ディングレーはため息交じりに告げる。
「ローフィスが、付き添う予定だった。
だが彼は…びっしり用事が詰まって身動き取れず…。
君と行きたがってたが…」

それを聞いて、ハウリィは顔を下げる。
「最近、お見かけしませんが…お忙しかったんでしょうね…」

ディングレーは、ハウリィに悪戯するアンガスの監禁、調教で忙しかった。
とも言えず…頷く。
「だがお前が自宅に帰っても。
危険が無いよう手配していたのは確かだし。
本当に、嫌な目に合う事は無い。
俺が、請け負う」

ハウリィは顔を上げる。
そして、頷いた。
「信じます」

ディングレーはその後、マレーを見る。
マレーは寂しげに俯き、首を横に振る。
「…僕は帰れません」

ディングレーは理知的で感情を殺す、マレーのヘイゼルの瞳を見、悲しげに囁く。
「ここに残って、俺に付き合ってくれ」

マレーがこっくり。と頷き、ディングレーはマレーを慰める為に週末を使うと。
心に決めた。

ギュンターがガウン姿で、デザートのワゴン押して入って来る。
「…一緒に、食わないか?」

ディングレーは給仕が、大食いのギュンターの為にあるだけのデザートをワゴンに乗せてるのを見て、呆れた。

直ぐ、アスランとハウリィが、ワゴンに寄って来る。
ディングレーが促すと、マレーも皿を取る。

間もなくギュンターは大皿を膝に乗せ、ちゃんとフォークで口に運び、言う。
「…いいか。
一度ぐらいは相手が男でも、平気だ。
好きな女を喜ばせるのに、どうすればいいかが分かるからな?」

マレーはびっくりして、聞く。
「ホントですか?!」
ディングレーはフォークで口に放り込んだばかりの、リンゴの甘煮を喉に詰まらせかけ、水のグラスに手を伸ばした。

ギュンターは全く気づかず、言葉を続ける。
「…ああ。
俺もうんと餓鬼の頃、二度ほどあった。
まあ…悪くは無いが…押し倒す快感を覚えて以来、押し倒されるのは無理になった」

「ごぼっ…ぼっ…」
とうとうディングレーは咽せて、マレーに背をさすられた。

ギュンターはチラと視線を向け、がお構いなしに続ける。
「…一度は未遂だった。
叔父貴とはぐれ、盗賊に捕まって…」

聞いた途端、アスランが叫ぶ。
「え?!
国外に、売られちゃう…?!」

ギュンターは頷いて言う。
「売られてたら、今ここにいない」

それを聞いて、ハウリィもマレーも頷く中。
アスランだけは、ほっと胸をなで下ろした。

ギュンターはそれを見ながら、説明を続ける。
「…俺は暴れなかったから、扱いは結構親切だった。
だが可愛げが無さ過ぎると頭領に言われ、少しは可愛げが出るように、調教される事になった。
当然、俺は隙を見て逃げ出す気だった。
が、調教相手が
『俺にされると凄く良くて、された相手はその後、凄い床上手になって、性奴隷だろうが凄く良い扱いをされる』
と大口叩くから…。
『どんだけいいんだ』
と楽しみにしてた」

ディングレーはそれを聞いて、真っ青になって顔を下げた。

「確かに、抱きしめ方だとか手の動きで半端なく気持ち良くは、なった。
が…いかんせん、めちゃくちゃ悪臭の、臭い酒が好きで。
その酒を飲んだ直後で、息が最悪に臭くて」

アスランもハウリィも、マレーもが。
目をまん丸に見開いた。

「…それでどうにも臭さに我慢出来ず…確かにテクは良かったんだが…最高にヨくなる前に、我慢の限界で無意識に思い切り、蹴っちまった。
調教相手はふっ飛んで気絶して、揺すっても起きないから。
それで仕方無く、俺は逃げ出した。
今でも思うが……」

顔を上げると、ディングレーは俯ききっていた。

「あの時、シてたら…きっと女イカせる時。
もしかして別次元の、極上快感に連れて行けたかも。
とつくづく、残念に思う」

「…でも女性相手と…その、男の場合は違うんじゃ…?」
「だが突っ込まれた時。
どんな風に感じるかは近いだろう?
それが分かってると、より繊細に女相手の時、感じさせられる」

ハウリィもアスランもマレーも。
びっくりしたみたいに、目を見開いて呆け、マレーがぼそり。
と呟く。
「…そんな風に、考えた事、無かった」

ギュンターはその美貌の、紫の瞳をきらりと光らせて言う。
「別に、男にされるのが好きなら、それでいい。
…だが俺は性格上…攻められてると、まだるっこしくなって…。
最初俺を組み敷いてた男を、気づいたら押し倒して突っ込んでたから。
それ以来、俺は“受け”は、絶対無理だと悟った」

ディングレーは俯いたまま…とうとう、真っ青になった。
「…つまりお前を押し倒すと。
突っ込む前に、押し倒されて…」

ギュンターは頷く。
「…立場、逆転になるな」
「もし相手がオーガスタスなら?」
「…あいつ絶対、無理だろう?
『好き』に近い言葉を言っただけで。
野郎から言われた事が気に障って、気持ち悪そうにしてたから」

ディングレーは頷く。
「けどかなりの手練れなら?」

ギュンターは、ため息交じりに言い切った。
「…多分情事で無く。
派手な殴り合いに移行するな」

『…だろうな』
ディングレーは言葉に出せず、項垂れきった。
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