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ローフィスの部屋に集う面々が太鼓判押す、シェイルの新たな武器

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 ギュンターは夕飯を掻き込むと、トレーを所定位置に戻し、直ぐ出て行く。

皆、疾風のように大食堂内を駆け抜け、たった今扉の向こうに消えたギュンターの背を見送り、一斉に沈黙。

ダベンデスタは三年がほぼ全員詰め込まれてる大食堂が、静まり返るのを不審に思った。

一人が
「…おかしいと思ったんだ…」
と口開くと、後に声が続く。
「あの、オーガスタスがいっくら美貌だろうが、ガサツで大食漢のギュンターにオチるなんてな…」

その後、あちこちから深いため息が聞こえる。
「俺、昨夜浮かんだんだけど。
あの二人のベッドシーン」
言われた相手が頷く。
「…で、途中から赤毛のデカい獅子と、金色の豹の…牙剥く戦いに変わった?」
相手は黙して頷いてる。

ダベンデスタが、叫ぼうとした。
けどそれより先に、平貴族での筆頭と言えるデラロッサが叫ぶ。
「だが俺達が慕うオーガスタス像はそのまま!
オーガスタスは変わらず、男においては潔癖!
これは、誤解が解けて喜ぶべき事だ!」
と叫ぶと。
三年のほぼ全員は、一年の頃からガタイのデカい上級に絡まれた時。
いつもオーガスタスの背に庇われ、代わって喧嘩を買って出てくれた恩があったので。
一斉に
「ぅおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!」
雄叫おたけぶ。

ダベンデスタも『教練キャゼ』に入りたての自分が、四年のデカい男に絡まれた時。
当時まだ二年だったオーガスタスが、さっ!と間に入り、怯えて竦み上がる自分を背に庇い、凄まじい殴り合いをしたのを思い返す。

背の高さでは負けてないオーガスタスは、最初の一発を顎に食らいながらも、長い腕を思いきり振り切ってゴツい四年をブチのめし、背後に振り向き…。
そして、言った。
「…まだ、居たのか?
どうして逃げない?」
ダベンデスタは小声で言葉を返した。
「勝つと、信じてたし、礼も言いたかった」

オーガスタスは口の端から血を流してたけど。
けれど太陽のように朗らかに微笑わらった。

太陽を背に、高い背の、陽に透けた赤毛を散らし笑う、オーガスタスの勇姿が今も、目に焼き付いてる。

ついいつの間にか拳を握り、ダベンデスタは皆と一緒に
ぅおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!
と叫んでた。


 ローフィスは最近、シェイルが夕食後、怖がってた四年宿舎にヤッケルに付いて来て貰わず、一人でやって来ては、合同補習の様子を頬染めて嬉しそうに話してる愛らしい顔を見つめ、思う。
「(…よっぽど、嬉しかったんだな)」

シェイルはみんなが笑顔を見せたこと。
ギュンターが、シュルツとスフォルツァを煙たがらず、二人を頼りにし、二人がとても喜んでる事。
を、楽しそうに報告する。

「…監督生がギュンターに代わっただけで、ミシュランとの落差、そんなにあるのか?」
ローフィスの問いに、シェイルは頷く。
「だって…シュルツはいっつも怒鳴られて、スフォルツァは睨まれて。
二人とも、ちゃんと言うべき事言ってるのに!
言えば言うほど扱い酷くなって。
もう庇われた子も、凄く落ち込んで。
その繰り返しで、どんどんみんなから、笑顔が消えてたけど。
今は、いっぱい笑ってる!」

“笑ってるのは、お前だ”
ローフィスはシェイルが、あんまり頬染めて愛らしい笑顔を披露するから。
思わず顔を寄せてキス、しかけた。

「…ヤバい…」
戸口からディングレーの声がして、ローフィスが咄嗟振り向く。

逃げ出そうとしたディングレーの襟首掴み、止めたのはオーガスタス。
「邪魔するぞ」

ローフィスは思い切りため息吐くと、項垂れて言った。
「ああ…。
ホントに、邪魔だけどな」

オーガスタスは気にせず、ディングレーの襟首掴み引っ張りながらズカズカ入って来る。
「…シェイルも居るなら、丁度良い。
俺とギュンターがデキて無いと示したのは良いが、グーデン配下がギュンターを狙い始めてる」

シェイルは一瞬呆け
「それ!
言おうと思って、忘れてた!」
と大きなグリンの目を見開き、叫ぶ。

ローフィスはシェイルを見た後、オーガスタスの背後で姿を隠すように背を向けてる、ディングレーをチラと見る。
「その報告を。
先にオーガスタスにしたのか?」
ディングレーは今だ襟首オーガスタスに掴まれ、背を向けたまま、頷く。

オーガスタスはローフィスのキスの邪魔し、気まず過ぎて振り向けないディングレーを見つつ、ローフィスに説明する。

「…こいつ、目ざとく自分のグループに居るグーデン配下の一年、ドラーケンが。
怪我したアスランを伴い、こいつの私室に送っていこうと中鍛錬場を出て行くギュンターの事を、外で見張ってた三年グーデン配下に、合図送って知らせてるのを見つけて。
その後ドラーケンを、見せしめに剣の練習装って、激しく叩いたんで。
一・二年のグーデン配下は抜け出せず、三・四年がギュンターとアスランを待ち伏せたらしい」

シェイルが、大きく頷く。
「ローランデが機転きかせて、ギュンターの後を追って…。
ディングレーの部屋は待ち伏せされてるから、自分の部屋へ裏口から入って。
無事、アスランを保護したんだ」

ローフィスが怒り顔で呟く。
「…お前オーガスタスが、家に居座る詐欺師追い出し。
ミシュランからギュンターに監督生代わって、怪我はしててもアスランは元気、取り戻したばっかなのにな!」

シェイルも頷く。
「酷いよね?
それでローランデがギュンターと鍛錬場戻った時、背後からダランドステ達がやって来て。
“怪我してるから捕まえやすい”
って言って、ギュンター怒らせて。
ギュンター、四年相手に喧嘩売るところだったって。
ローランデ、必死で“多勢に無勢だから”
って止めたんだ。
ローランデが必死に止める。
なんて…相当で。
それは後でローランデから聞いた話だけど。
ギュンターが鍛錬場に戻りたてで、ディングレーと話してた時も、同様に思って…。
ディングレーが場を外した後、僕思わずギュンターに言っちゃった」

オーガスタスも目を見開いたけど。
背を向けてたディングレーも振り向いて、聞いた。
「…なんて?」

シェイルはちょっと俯いて。
けど、ぼそりと言った。
「“ディングレーがさじ投げるなんて相当だ”
って言ったらギュンターが
“ナニが相当だ?”
って聞くから。
つい…“あんたの馬鹿さ加減”
って」

シェイルの言葉を聞いた途端。
オーガスタスはくっくっくっ…と体揺すって笑い始め、ディングレーはぽかん。
と口開く。

「お前な。
一見楚々とした美少年に見えるから、通常のヤツが言うより、ずっとキツく聞こえるんだぞ?!」

ディングレーの意見を聞いた途端、シェイルはブスっ垂れる。
「…つい…あんたと話してた後だったから。
あんたのつもりで話しちゃった」

ディングレーは呆れる。
「俺は慣れてる。
ってか、無理矢理慣れたが。
だがギュンターは…きっとびっくりしたと思う」
「でも表情、変わらなかった」

シェイルの意見に、オーガスタスは笑いながら呟く。
「あいつ、表情には出さない。
かなり驚いても。
むしろあんまり驚くと…」
後の言葉を、ローフィスがかっさらった。
「逆に固まって、表情に出ないんだろ?」

オーガスタスは、頷く。
そしてディングレーに振り向いて聞く。
「…お前いっつも、シェイルには言いたい放題されてたのか?」

オーガスタスの問いに、ディングレーは項垂れて頷く。

「…ローフィスにくっついてると、必然的にシェイルとも時間を過ごすことになって…。
最初は手足は華奢だわ、見た事無い位綺麗で可愛いわで。
ナニ話したらいいのか、困ったが。
口開くと、ローフィス並にキツい。
…ってか、ローフィスに言われるよりうんと、ぎょっ!として胸に突き刺さる」

シェイルはびっくりする。
「…そんな、体格良くて立派なのに。
初めて会った時だって、背が高くていかにも身分高いですって、偉そうですましてて。
…で、僕の言葉が胸に刺さってたの?」
聞いた後、シェイルはローフィスに、顔向けて問う。
「…ディングレー、冗談言ってる?」
ローフィスは、俯き加減で首を横に振る。
「言ってない。マジだ」
シェイルは俯くローフィスを、首を傾げて覗き込み、尋ねる。
「…それも、冗談?」
ローフィスは再び、首を横に振る。
「…だから、マジ」

オーガスタスとディングレーが見てると。
シェイルととても綺麗な顔で沈黙してる。

「…………………………………」

その後、やっと顔上げてディングレーを見る。

「…ホントにそんなに…」
シェイルの言葉途中で、ディングレーは即座に首を縦に、思い切り振って答えた。
「突き刺さる」

ローフィスですら、俯いてため息吐く中。
オーガスタスだけが朗らかに笑い
「良かったな。
新しい武器が出来て。
王族のディングレーと、顔に不似合いな暴れん坊のギュンター、黙らせるほどの威力だ!
誇っていい」
と言うと、シェイルが目を、ぱちくりさせる。

ローフィスは俯いたまま
「焚きつけるな。
調子に乗られると、しかばね累々るいるい
その内お前にも、害が及ぶぞ?」
と釘刺した。

シェイルが愛らしい顔で、ローフィスに素で問う。
「…それ、僕の事じゃ無いよね?」
「…………………」

ローフィスが、どう誤魔化そう。
と思い悩み口を閉じてると。
オーガスタスがダメ押しした。

「…話の流れからいって、どう聞いてもお前のことだと思うぞ?」

ローフィスが、オーガスタスを睨もうと顔を上げると。
そこにシェイルの睨み顔を見つけ、再び顔を下げ、黙して誤魔化した。
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