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助けを叫ぶゼイブンと仕方無く加勢するオーガスタス

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 ギュンターが周囲を、目がハートの女性達に取り囲まれ、空の皿を次々積み上げる快進撃を続ける中。
オーガスタスとローフィスは酒とつまみの料理にありつきつつ、カウンターで飲んでると。

一つのテーブルから、華やかな歓声が上がる。

振り向くと、ギュンター同様女性に取り囲まれたゼイブンが。
唯一テーブルに座る男として、喋りながら陽気な笑顔を振りまき、色とりどりのドレスをまとった可憐な女性達を笑顔にしていた。



リーラスが寄って来て、オーガスタスに囁く。
「あいつ最近、ギュンターが来ないんで代わってモテまくってるらしいぜ?」

ローフィスが、ついリーラスを見る。
「…不満か?」
「…別に。
あいつやギュンター取り巻くのはせいぜい、顔が綺麗なチャラい男に騒ぐ、バカ女ばっかだ」

オーガスタスとローフィスは内心、リーラスに寄って来る女達の方が、よっぽどバカ女だと思っていたけど、沈黙をつらぬいた。

けれど口説いてた女がとうとう、男の手を振り払ってゼイブンのテーブルに行ってしまうと。
男と、男が座っていたテーブルの野郎達は一斉に、ゼイブンを睨み付ける。

「…見ない顔だな…」
オーガスタスがその男達を、チラ見する。

親父は料理の小鉢をオーガスタスの前に、置いて言う。
「女目当てで最近出入りする、新顔でタチの悪い奴らだ。
あんたがあんまり、顔出さないから。
ここでデカい顔、し始めてる」

リーラスも、頷く。
「…ロッティが最近、奴らとブツかって喧嘩寸前だったそうだぜ?」
親父も同意して頷く。
「ここで喧嘩されちゃ、モノが壊れて俺が困るから、どっちも追い出した。
だが次も、その手が通じるかどうか」
そう言って、更に料理の乗った皿を、オーガスタスの前に置いて呟く。

「ローフィスの分も、タダにする」

オーガスタスは顔下げた。
「俺に、意見しろって?」

親父とリーラスは、同時に頷きまくった。

けれどその時、男はゼイブンのテーブルに行くと、隣の女押し退けてゼイブンの胸ぐら掴み、テーブルから引きずり出して、拳握る。
「てめぇのチャラけた顔。
俺が粉々にしてやるぜ!!!」

けれど直ぐ、ギュンターが女達押し退けて、通路に素早く立つ。
オーガスタスは、喧嘩の加勢に入る気満々のギュンターに、ぎょっ!!!とした。

ゼイブンは拳振り上げられ、胸ぐら掴まれたまま、それでも怒鳴り続ける、男の顔を見た。
…凄く、ゴツい。

「女、独り占めしやがって!!!
てめぇの鼻折れても、女が寄って来るかどうか、試そうか!!!」

ギュンターは一応、様子見してる風だった。
が、男が拳振る瞬間、突進しそう。
それを見て、男の仲間達が次第に椅子を立ち、テーブルを離れギュンターと男の間に、立ち塞がり始める…。

「…大事になりそうだな…」

リーラスが呟いた途端。
ゼイブンは叫んだ。

「分かってるのか!!!
お前ら知らないだろうが、今日はが来てる!!!
お前らみたいなはぐれ者は知らないだろうが、オーガスタスの名を聞いて、ここらで震え上がらない者はいないぞ?!!!!」

名を叫ばれた途端、オーガスタスは思わず、顔下げる。
ギュンターがオーガスタスに振り向き、なおも叫ぶゼイブンの声を聞いた。

「俺の顔を粉々になんてしたら!!!
オーガスタスはお前の背骨を、粉々にするぞ?!
殺されなかったら、めっけものだ!!!
いいか絶対、後悔するから拳を下ろせ!!!」

男は顔を、周囲に振る。
皆、しん…として、彼を見てた。

「…その、ってどこに居る?
…嘘つくんじゃねぇ!!!」

「ここに居る。
とっとと放してやれ」

背後から突然声がし、男は振り向くが、そこには胸元が。
思わずもっと顔を上げると、うんと背の高いデカブツが立っていて、男はいっぺんにゼイブンの胸ぐらを放した。

ゼイブンは咳き込みながら、オーガスタスに叫ぶ。
「思い知らせてやってくれ!!!
この酒場、仕切ってるのは俺で、余所者はデカい面するなと!!!」

けれどこのゼイブンの叫びには、酒場の他の男達からも、同意の歓声が上がる。
「そうだ!!!」
「頼むぜ大将!!!」
「やってくれ!!!そいつら、ウザくてたまらん!!!」
「嫌がる女にやたら絡んで、酒をまずくする!!!」
「そうよ!!!最低よ!!!」

オーガスタスは顔を下げたくなってきたが我慢し、脅す。
「ここに顔出すんなら、他人に拳は上げるな。
聞けないんなら、俺が相手する。
が、ここでお前をブン投げると、テーブルが壊れるから店の外に出よう」

男は竦みきって、目を見開き、口も開いた。
「あ…」

オーガスタスは、のし掛かるように屈み込んで訪ねる。
「あ?」

男はビビリきって、背を反らし震え出した。

ギュンターの前に立ち塞がっていた男の仲間達も。
オーガスタスの体格に怯え、こそっ…と元いた席に、戻って行く。

「…あ…いつ…が………。
毎度、俺の女を奪…うか…ら」
「から?」
「悪いのは、あいつで…。
た…しかに、拳握ったのはマズかったが…。
俺は、悪者を成敗しようとしただけだ」

オーガスタスは、ゼイブンを見た。
ゼイブンは首を横に振り、オーガスタスの加勢を得て、大声で吠える。
「女の方から寄って来たのを、奪うと言うんなら、俺のせいかもな!!!
…が、果たして本当に、俺が奪ったことになるのか?!!!」
と、周囲を見回し、酒場の男達に訴えかける。

周囲の男達は、普段はゼイブンにいい顔してなかった。
が、余所者の方がよっぽどタチが悪かったので、ゼイブンに味方し、一斉に首を横に振った。

「…お前の味方はどうやら、あのテーブルの男達、ダケのようだ」

オーガスタスが、男の仲間らのテーブルに、顔を振る。
テーブルの男達は一斉に顔を下げ、仲間じゃないフリをした。

ギュンターがテーブルに寄って行き
「なんだ、戦意喪失か?」
と尋ねるが、上目使いで睨むものの、オーガスタスと視線を合わせまいと、顔は下げ気味。

オーガスタスはギュンターが、喧嘩する気満々なのを感じ、指さして怒鳴る。
「いいからお前は!!!
とっとと食って、女達が『教練キャゼ』に押しかけて来ないよう、満足させろ!!!」

ギュンターはオーガスタスに怒鳴られ、不満げに腕組むと、テーブルに戻って行った。

オーガスタスは男に振り向くと、のし掛かり気味に顔を寄せて、脅す。
「女が勝手について行くのを、お前は“奪う”と言うのか?
女の自由意志を、無視する気か?!」

男は目を瞑り、両手振って
「ひぇええ!!!」
と叫び、そして腰をもぞもぞさせる。

オーガスタスは暫し沈黙した後、ぼそりと尋ねる。
「…チビって、ナイよな?!」
「…まだ…なんとか…」
オーガスタスは内心焦り、男の襟首掴むと、戸口の方に放り投げた。
「外でシて来い!!!」

ダンッ!!!

扉にぶつかり、その勢いで扉が開いて、男は外へ転がり出た。

親父が酒場を尿で汚されず、安堵して大きな拍手をする。

ぱちぱちぱち!!!

突然、ゼイブンも両手上げ、合わせ叩き、大声で叫ぶ。

「オーガスタスに、拍手だ!!!」

周囲の男らも、満面の笑みをたたえ、拍手に加わる。

ぱちぱちぱちぱちぱち…!!!

オーガスタスは上に上がったゼイブンの両手握り止め、拍手を止めさせ、ゼイブンに低い小声で言う。
「いいから女、口説いてろ!!!」

ゼイブンはにっこり笑った。
「流石御大!!!
あんたは絶対、俺を見捨てないと思ったぜ!!!」

いつの間にか横に来てたローフィスが
「酒場の親父に、頼まれたからだ。
が、殴られる前に動いてくれたんだ。
そこだけはじっくり、感謝しろ」
と言い聞かせた。

が、ゼイブンはにこにこ笑い
「感謝、しまくってるぜ!!!」
と、全然心のこもらない、感謝を述べた。
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