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対決の行方

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 スフォルツァは自室に入ると、ぶっきら棒につぶやく。
「寝室がいいか?」

アイリスも憮然。と告げた。
「別に」

その部屋はブルーが基調で、壁、カーテン、飾りの全てが、色調の違う青で埋め尽くされ、所々に金飾りが入り、青年らしい美しい部屋だった。

アイリスは先にこの部屋を、見ておくべきだったかな。と気づく。
「君の趣味も、良い」

スフォルツァは褒められて、グラスを持ち上げる。
「地所で取れた果実酒だ。
たしなむんだろう?」

アイリスは呆れた。
あれだけ腹を立てていたようなのに…覚えて気遣ってくれるだなんて。

グラスを渡し、椅子に掛けろ。と目で促す。
金枠の付いた、美しい紺色の布の張られた椅子だった。

アイリスが掛けると、自分のグラスにも酒を注ぎ、スフォルツァは向かいに腰掛ける。
「俺を笑ってたろう?
滑稽こっけいだと。
どうして俺を利用する?
…そんなに…深刻なのか?体調が」

アイリスは顔を上げた。
スフォルツァは慎重な表情を、していた。
自分の言葉に真剣に、耳を傾けている。
正直、これをたばかるのは彼に悪い気が、真剣にして来た。

が、謀られた方が、幸いな場合もある。

アイリスは一つ、吐息を吐き出す。

「君が一年のボスに相応しい。
そう言う事だ。
私が確認を取りたいのは、もう抱く気が無くなったかどうかだ」

スフォルツァは考え込むように俯き、乗り出した身を後ろに下げた。
そしてつぶやく。
「あんまり俺を、馬鹿にするな。
あんな…扱いを受けて、その気がまだあるかだと?」

アイリスが素早く言葉を足す。
「とっくに冷めたか?」

スフォルツァが顔を上げる。
護るべき弱々しさを取っ払ったアイリスは、大きく見えた。

その顔立ちは相変わらず美しく…だが、誰かに護られる必要なんてこれっぽっちも無い、やり用を、知り尽くしている経験豊富な少年。

スフォルツァは俯いた。
「抱きたいか?と聞かれたら、興味はある。
だが応える気が無いから…四人も美女を、待機させたんだろう?」

そう告げた時の、スフォルツァの表情。

アイリスは良心がずきずきと痛んだ。

がっかり、している。

落胆を隠そうともしないスフォルツァが、凄く気の毒に思えた。

スフォルツァは、気弱な声でささやく。
「あれは…?
本当だから…避けたのか?
突っ込まれて痛みで気絶したと言うのは」

自分が信用されない惨めさを滲ませ、スフォルツァはそう言って顔を上げ、アイリスの表情を伺った。
「…嫌なのにその時になったら…。
無理にでも…俺がしそうだったからか?
本心を隠したのは。
だが…今目の前にいる君は、俺が会った最初の君とはほとんど別人だ」

アイリスは俯くと、言葉を返す。
「確かに、演技だった」

スフォルツァはやっぱり。と言う代わりに、大きな溜息を付いた。
そして顔を上げる。
「女と遊び慣れてるだろう?
なら知ってる筈だ。
俺が一発で君に…参ってたのを。
惚れさせて…裏で舌を出してたのか?」

アイリスは首を横に振る。
「だって思わなかった。
君が口説いて来る程、私が君のタイプだなんて」

スフォルツァは気弱な表情かおを上げる。
「引っ込みが、付かなかったのか?
俺が…その……カン違いして迫り倒したから」

アイリスが、憮然と告げる。
「それもある。
けど………君に謝罪しないと」

スフォルツァが、顔を上げた。
アイリスは俯いていた。

その鼻筋は通って美しく、スフォルツァはやっぱり目前の気品ある美少年に、見とれた。

が、アイリスの形良い赤い唇が開くのを見、耳を傾ける。

「君を確かに…見くびってた。
これ程侠気おとこぎのある奴だとは思わず…失礼した。
無論……これで君に対する侮辱が、消えた訳じゃないと理解している。
確かに…君に惚れられて正直困っていたが、笑っていた訳でもからかう気でも無く…。
君の言った通り、引っ込みが付かなくなっただけだ。
が、誤魔化そうとしたのは確かだ。
だから…君がどうしても抱きたい。と言うのなら、応える用意が私にはある」

スフォルツァは一瞬息を飲み…顔を揺らす。
口がからからになり…言葉が詰まった。

「ほ……本気か?
本気で………」

そう言ったスフォルツァは、震えていたから、アイリスは彼がやっぱり気の毒になった。

四人もの成熟した豊満な女性を、袖にする程だ。
余程のご執心に、応えるしかすべは無い。
が、アイリスは厳しい表情でそれを告げた。

「ただし!
一回切りだ。後は無い。

………どうする?」

スフォルツァは眉を寄せ、アイリスを見つめた。

間違い無く最初思い描いた、うぶな少年じゃない。

下手するとたったの一回が、永遠になり…。
アイリスを忘れられず、その後悶々もんもんと過ごす羽目に、なりそうな予感が、確実にした。

が、アイリスは促す。

「……どうするんだ?
止めておくか?」

スフォルツァはアイリスを、見た。
ごくり。と喉が鳴る。

断れる、訳が無かった。

自分がもっと成熟した男で、情事の罠をもっと、知り尽くしていたらきっと。
こう告げられた事だろう。

「君とは友達でいよう」

が。
あの部屋で四人の女性を、目にする前までのアイリスを。
頭に思い描いた時決まって沸き上がる、期待と興奮は消えていない。

むしろ男の気概を隠し持った、好敵手のようなアイリスに更にもっと興味を引かれ…。
どうしても彼を腕に抱きたい気持ちが、止まらなかった。

スフォルツァが、男の顔をして告げる。
「本気なんだな?」

アイリスはあっさりと言った。
「二言は無い。
条件はあるが」

スフォルツァは拍子抜けして、尋ね返す。
「条件?」
「好きにしていい。代わりに今後一切。
私の事を、詮索するな!」

スフォルツァは、衝撃に顔を揺らした。

「自分に…踏み込ませない為に…。
自らの身を、差し出すのか?」

アイリスは、真顔で頷いた。

スフォルツァはアイリスを真正面から、真剣に見つめる。
「抱けば、最早友じゃない。と?」

アイリスは吐息混じりにつぶやく。
「そうは言ってない。
だが私的な部分に、踏み込まれたく無いんだ」

スフォルツァは項垂れた。
その一回で…好敵手に匹敵する、実力を十分隠し持った…大切な友を失う。と知って。

項垂れたまま、ささやく。
「抱かなければ………?
秘密を分かち合う、友でいられるのか?」

アイリスは、顔を上げた。
その年若い少年の表情に戻るスフォルツァの、俯く顔を見つめる。

「だって…友で、いられないだろう?
毎度あんな熱い瞳で、見つめられてちゃ」

スフォルツァはアイリスの、呆れた声音を聞き、顔を上げる。
そして素直に、白状した。

「言われた通り、滅茶苦茶めちゃくちゃタイプだ」

「だろう?………君は手が早い。
友達付き合いして…やたら接近してる内に結局…。
君みたいな精力満々な男に、毎度抱かれてちゃ、身が保たない」

スフォルツァは、アイリスの本音に顔を揺らした。

「じゃ君は…一回で終わらせ、関係を絶ちたいのか?」

アイリスは、頷く。
「抱かれる事は、滅多にしない」
スフォルツァは反射的に、尋ねた。
「どうして?」

アイリスは、呆れたように囁く。
「抱く方が、快感を得られるからに決まってるだろう?」

そのとぼけた本音に、ついスフォルツァはめらめらと闘志を沸かせた。

「…じゃ…。
もし良かったら…二度目はある?」

アイリスはぴしゃり。と言った。
「スフォルツァ。テクの問題じゃない。
私の体の構造の問題だ。
それに…性格かな?」

スフォルツァの、眉根が寄った。
「…やっぱり…痛いのか?」
「それを何とか出来ると君が、豪語したんだ」
「そりゃ…出来るさ。
じゃなきゃ、誘ったりしない……。
君は俺が結局口だけで…。
自分が満足出来たら君の快感は置き去りにして、それで平気な男だと。
そう…思ってたのか?」

アイリスは頷いて言う。
「君の事を良く、知らないが。
殆どの男が、そうだろう?
自分本位だ。
突っ込まれる側の事情を考えて抱く男が、どれだけいる?
女相手だって少数なのに。
ましてや相手が男だったりしたら、もっと少なくないか?

ここは『教練キャゼ』だ。
大抵の男は組み敷ける少年は、都合のいい相手としか思わず、傷付けても平気だ」

スフォルツァは項垂れ、吐息を吐き出した。

「つまり俺もそうだと、思ったんだな?」

アイリスは
『そうだ』
の代わりに、頷く。

スフォルツァは立ち上がると、上着を脱ぐ。
「つまり証明してみろ。と言う事か……。
応える気がある。と言うのは、自分が傷付く事を覚悟で?」

アイリスが肩を竦める。
「君が下手だったら、そうなるな。
でもあんまり下手なら、口でして逃げる気はあった」

スフォルツァは笑う。
「男のものを…触るのもくわえるのも平気か?」

アイリスも途端、笑った。
「君はいい男だから、不快感は無い」

褒められてやっぱり、スフォルツァは頬を染めた。

彼があんまり可愛くて、アイリスは自分が彼を弄ぶ悪女みたいで、気色悪くなったけど。

スフォルツァの手が差し出され、アイリスがその手を握るとやはり、スフォルツァは紳士に戻る。

アイリスは彼にそっと肩を抱かれて寝室に促され
『やっぱりスフォルツァは、ロマンチストかな?』
と、自問した。
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