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アイリスのはかりごと

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 少し仮眠すると、アイリスは寝台からのろのろと、身を起こす。

そっ…と顔を下げると、胸の膨れて、勃ってる乳首に気づく。

スフォルツァに執拗に可愛がられたせいか。
真っ赤で、腫れ上がって、ぷくん。と膨らんで見え、手で夜着の上からそっと触れてみると、途端つくん…!と疼き、まずいな。と顔を揺らす。

吐息と共にアイリスは、これしかない。とベルを鳴らす。
シェイムが直ぐ、扉を開けて顔を出す。

「大公邸に使いをやって、今日の午後、私を呼び出す使者を教練講師に送ってくれるよう、頼まれてくれ」

シェイムは戸口で、爽やかで小憎らしいほど粋な、男らしいおもてを下げ、つぶやく。
「三日目でもう、サボるんですか?」

アイリスはアタマに来て、着ている夜着の前をばっ!とはだき、叫ぶ。
「午後は乗馬の授業で、川で水浴びするんだぞ!」

シェイムは真っ赤な熟れた苺のような、主の二つの乳首をその白い胸元に見つけ、目を見開く。
「確かに、サボるのが正解のようですね」

アイリスが顎を上げて頷くと、シェイムは腕組みしたまま、もたれ掛かる戸口からその身を引き、背を向けた。

「これでも君はまだ、スフォルツァ側か?」

シェイムは振り向き、鮮やかに笑う。

「恋に狂った好感持てる青少年は、相手の事情に無頓着むとんちゃくなものです。
貴方しか、見えて無いから」

アイリスはむかっ腹立ってむくれた。


 朝の身支度を手伝い、シェイムが上着を主の背から、肩に掛けてささやく。
「今日は筋肉増強金綺羅きんきらよろいは、付けないんですか?」

アイリスは、むすっ!としてつぶやく。
「使者の到着が万が一遅れたら、乗馬の授業に出なきゃならなくなるからな!」

シェイムは慰めるように言った。
「エルベス様は、ぬかりありませんよ。
可愛い甥の緊急援助要請えんじょようせいには、特に」

アイリスが振り向く。
その顔が艶を含み、たっぷり愛されて普段の様子とは違い、愛らしくさえ見えて。

シェイムは吹き出す。

アイリスの膨れっ面はますます、むすっ。となった。

が、ノックの音が聞こえ、シェイムは戸を開けるため、主人の背を離れた。

扉を開け、アイリスに振り向き告げる。

「お姫様を迎えに、王子様の御登場です」

アイリスの眉間は、そのシェイムのふさげた言い様に、更に深く皺を刻んだ。

スフォルツァはシェイムに室内へと通され、上着のボタンを掛けるアイリスに視線を注ぐ。

アイリスはスフォルツァの、自分に見惚れ頬を染めているとはいえ、男らしい色香を放つ、引き締まった顔付きを見て。
シェイムがスフォルツァの事を
『王子様』
と呼ぶ筈だ。

そう、苦々しく心の中で舌打ちした。

アイリスが見つめていると、スフォルツァは端にいるシェイムに気兼ねするように俯き、言葉をつむぎ出す。
「あ…その、気になって…夕べ……」

アイリスはスフォルツァが、完全にきちんと閉めなかった扉の向こうに。
同級生らが隙間から、様子を伺うように揃って覗き見する姿を見つけ、吐息を吐く。

シェイムに向かって軽く顎を上げ、扉を促した。

シェイムはくすりと笑い、扉に寄ると、隙間を閉じる。

スフォルツァは直ぐ気づいて振り向き
「ああ…ごめん…。その………」
と俯く。

アイリスは皮肉混じりに言葉を返す。
「君は皆に言いふらしたり見せつけたり、したいんだろう?
本心は」

だがシェイムが好感を抱くその王子様は、お姫様にそっと近付いて、顔を傾け様子を見るように伺い、ささやく。

「…その…。
乗馬の授業を、欠席させなきゃならなくなったか、心配で……。
二度目俺は、全然加減出来なかったから…」

アイリスはシェイムを見たが、その良く訓練出来た召使いは、声を殺して笑っていた。

アイリスは顔を反らし、素っ気なく言った。
「大丈夫だ。欠席はしないから」

そして、伺うスフォルツァに振り向き、にっこり微笑む。
「出来れば不測の事態に備え、君の側で乗馬したいけど。
それに………」

その一言でスフォルツァの顔が、姫を護る騎士さながら。
ぱっ!と明るく光り輝く。
興奮で早口で、返答を告げるスフォルツァの言葉を遮り、アイリスは続ける。
「勿論…!」
「…悪いが身支度がまだだ。
朝食に遅れたくないから、食卓で待っていてくれないか?」

その、丁寧だが言い含めるきっぱりとした言葉に、スフォルツァは戸惑い、がつぶやく。
「ああ…気づかなくてすまない」

そして…すごすごと戸口に歩を運ぶその背に、アイリスは明るい声色で言葉を投げた。

「じゃ、また後で」

その一言で、スフォルツァの顔は再びぱっ!と明るい輝きを取り戻し、愛しい相手に振り向き、頷く。

シェイムは彼を送り出して扉を閉め様、つぶやいた。

「罪悪感は、無いんですか?」

アイリスが振り向く。
「私にどう感じろって、君は言いたいんだ?」

シェイムは肩を竦める。
「どう見ても、彼は貴方に首ったけだ」
「だから?」

シェイムは一つ、吐息を吐く。
が、言った。

「『君のお陰で、今朝は最悪に体調が悪い。
馬になんか、乗れそうに無いくらい。
悪いけど、もう二度と君と付き合えない』
と、どうして、親切が言えないんです?」

アイリスは言葉に詰まった。
「…………だって君が彼の事を、子犬と言ったんだ。
忘れたのか?
その子犬を、朝っぱらから泣かせるのか?」

シェイムがまた、吐息を吐いてささやく。
「貴方の、14才らしい年相応の未熟さが見られて、私は安心ですが…。
彼は、それで済まない。
あんなに期待させて置いて…その後をどうする気です?
彼の寝室に泊まった後、毎度大公からの使者で呼び出され、授業を欠席したら…。
その内馬鹿で無い限り、気づきますよ」

アイリスは確かに、この場を乗り切る事しか念頭に無かった自分に気づき、項垂れる。

シェイムがそんな主に言葉を投げる。
「大公家でゆっくり、頭を冷やして善後策を、練るべきです。
あんな好青年が…貴方に裏切られて心を切り裂かれる様を、私は出来れば見たくありませんね」

アイリスはむっ。として顔を、上げた。
「まるで私が、その好青年をたぶらかす悪女だと、言いたいような口ぶりだな?」

シェイムは三度みたび肩を竦めた。
「さっきの貴方は間違い無くその、“悪女”してましたがね!」

「……………………」

アイリスはうんと深く、顔を下げると、肩を落とした。

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