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アイリスの相談

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 祖母がアイリスを真っ直ぐ見つめる。
「それで?
どんなトラブルなの?」

ニーシャもアイリスを見た。
「けたたましく教練から使者が駆け込んで来たのを、知らないと思ったら大間違いよ!」

母、エラインも見る。
「怪我を負った様子で無くて、一安心だけれど。
でも退学の手続きなら、直ぐ始めないと陽が暮れるわ!」

アイリスは三人の美女に見つめられ、俯くと吐息を、吐き出した。
そしてチラ…!と頼れる兄代わりの叔父、エルベスを盗み見る。

アドルッツァは気の毒そうに、見つめられたエルベスを見た。
が、その若き大公は、老獪ろうかいきわまり無い、見かけは美しいが狸のように油断ならない、三人の女性に、事の子細しさいを話した。

ニーシャが直ぐ、言った。
「そんなにいい男で、貴方がきっぱり拒絶出来ない程なの?
簡単よ!私に紹介なさい!
絶対貴方から私に、気持ちを向けて見せるわ!」

その明るい栗毛の華やかな美女の微笑みに、アドルッツァが肩を竦める。

アイリスが、吐息混じりにつぶやく。
「宿舎に女性が無断で入って、見つかったりしたら即退学。
誰にも見つからず、出入りする。
貴方にそんな、地味な真似が出来ますか?
…どうせいい男の下りで、関心を根こそぎ持って行かれ、話をロクに、聞いてらっしゃら無かったんでしょう?」

母、エラインも頷く。
「スフォルツァが退学になったりしたら、アイリスのした事が全部水の泡!
誰が学年筆頭をするの?
結局、アイリスが自分でするか、また後釜を探さなくては。だわ?」

祖母はじっくり孫を見つめ、つぶやく。
「つまり…彼は貴方に、ぞっこんなのね?
それで…婚約者の他に、少年と付き合いがある。
と、おっしゃったんじゃなくて?」

アドルッツァも畳みかける。
「その少年なら、宿舎に押し掛けて来てもお咎め無しだろう?」

エルベスも直ぐ、言った。
「直ちにスフォルツァが、故郷でどの少年と付き合っていたか。
調べさせよう。
彼ほど目立つ少年なら、その相手は直ぐ、判明するはずだ」

ニーシャが不満そうにつぶやく。
「じゃ、私の代わりにその少年を…スフォルツァの元へ送り込むの?」

エルベスがすかさず言い返す。
「送り込めるかどうかは、調査次第だけれど」

エラインも口を挟む。
「婚約寸前の美少女に、面会に来るよう告げたら?」
祖母も頷く。
「ともかく、男ばかりのむさ苦しい宿舎の中だから。
貴方が、大輪の花に見えるのよ」

エラインは大事な息子に告げる。
「…似合いの美男に貴方が。
惚れ込んだと言うのなら、しかたないけれど…。
乳首を腫らされて困っているんなら、対策を徹底しないと」

ニーシャもささやく。
「貴方は自慢じまんの甥なのよ?
あんまり女々めめしく、ならないでね?」

アイリスは目前にずらりと並ぶ、美男美女達を見回し、つぶやく。

「こんな、くだけた会話に動じない、貴方あなたがたに感謝します」

アドルッツァがぼやく。
「皮肉を言う元気が、まだ、あるんだな?」
エルベスが訂正した。
「余裕だろう?
スフォルツァに惚れ込まれて困ってる割に、余裕が残ってる」

エラインが、そう言った二人を見つめる。
「あら…皮肉だったの?」

祖母も言った。
「貴方の感謝が嬉しいわ。
と、心からの感想を、述べる所だったわ」

ニーシャがささやく。
「感謝の言葉より、そんな美々しい美男の群れ集う宿舎へ、忍んで行きたいわ!」

エラインが、姉を睨む。
「そんな事、誰だってしたいのに!我慢してるのよ?
甥を、退学にしたいの?」

祖母が吐息混じりに俯いた。
「アイリスを退学にするのに…。
私じゃ、忍んで行っても駄目でしょうねぇ………」
「あらお母様!
その時はぜひ私に、お命じになって!」

先に名乗りを上げるエラインに、ニーシャはムキに成る。

「エライン。貴方はアイリスの母親なのよ?
母親が行ったって、退学になんか、ならないわよ!」

エルベスが、分かって無い姉にささやく。
「けどニーシャ姉様。
もしアイリスの寝室、以外で。
貴方が見つけられたら。
アイリスで無く、貴方がいる寝室のぬしが。
処分されると思いますが?」

アドルッツァも追随する。
「それは、あり得るな」

アイリスは、呆れ返った。
「…どうしてそこまでして、私を退学に、したいんです?」

エラインが息子にささやく。
「お母様は貴方を大公邸に、取り戻したいのよ」
ニーシャもぼやく。
「教練だとか近衛に行かせて、男の恋人を作られるのが心配なんだわ!
貴方のお父様がそう。
華奢で、お人形のように綺麗で。
そこの美男のアドルッツァったら。
私の色香が通用しない、最低の男!
シャリスに、べったりなんですもの!!!」

アドルッツァは呆れた。
「もうとっくに言い尽くしたのに、まだ俺に嫌味が言いたいのか?
だって二晩も、付き合ったじゃないか」

エラインが呆れて姉を見た。
「自分に全ての男の視線が釘付けで無いと、我慢出来ない方なのよ。姉様は」

祖母が娘のニーシャにささやく。
「まさか自分の弟と甥にはまだ、手出しして無いでしょうね?」

ニーシャが、エルベスアイリスを見る。

「…具体的な事をしないと、私には勃ちそうに無い、二人だわ」

アドルッツァが途端、吹き出す。

エルベスが両手広げて説明する。
「無理でしょう。
男は女と違って、ナイーヴだから…。
幾ら姿が美しくても、内情がどんな性格か。
嫌と言う程見せられると…。
女性には失礼だと解っていても、なかなか興奮しづらいものなんです」

エラインが俯いた。
「アイリスの父親、シャリスったら。
まだほんとうに小さかったから、自分が何されてるか分かって無くて、言いなりで。
可愛いかったわ」

エルベスが呆れて言った。
「姉様。それは犯罪です」

アドルッツァも言う。
「両親を亡くした心の傷を抱えているのに。
幼い頃にそんな事されるから、後年あんな、無表情で無感動で、人形のような男に、なっちまうんだ!」

ニーシャが頬杖ついてささやく。
「あらアドルッツァったら!
結果その彼を、念入りに慰めて自分の物にしたのは、誰?」

祖母が吐息を吐く。
「アイリスはどちらかと言えば体格がエルベス似だから。
心配らないと思ったんだけど。
アイリス。
あまり気の無い相手に、愛想振りまいては駄目よ」

ニーシャも乗っかる。
「そうよ。
これ。と言う相手だけになさい」

アイリスは言いたい放題の大人達から、顔を下げて背け、ささやく。
「で、腫れた乳首なんですが…」

アドルッツァが、立ち上がると来い!と手招きする。
「処方する」

神聖神殿隊付き連隊で方々を旅し、色んな薬草に詳しい彼に言われ。
アイリスはほっとしたように、その後に、続いた。

腫れた乳首に薬草を染みこませた布を当て、布でぐるぐる巻きにされ。
アイリスは微かに疼いていたそこが、腫れが引く様に静まるさまに、ほっとした。

アドルッツァは、アイリスの体付きを見て呻く。
「それだけ筋肉が付いても、処置無しで。
スフォルツァに、されるがままだったのか?」

アイリスは肩を竦める。
「本気出したら、ぶん殴ってる。
でもそんな事したら、直ぐ体が弱いのは嘘だとバレて……」

「学年筆頭に、舞い戻る。か」

アドルッツァの言葉に、アイリスは溜息で返した。

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