若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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駆け込む勇者

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 階段を駆け上がるディングレーは、頭に来ていた。

フランセスカが始まりだった。
いとこで…身寄りを亡くし、父に…面倒見てやれ、と言われた。

「左の王家」の血は引いてはいたが、遠い親戚で…。
フランセスカは、金髪に近い淡い栗毛だった。

大層はかなげで可愛らしい子で、ディングレーは一辺にその、心細げな幼い彼が気に入って…。
それに、弟が出来た事も嬉しかったので…いつも、後ろを付いて歩くその子を、とても大事にした…。

なのに…!

「いやっ!あああっ!」

鋭い叫びについ、乱暴に扉を開く。
ばんっ!

ディングレーは目を見開く。
「…………!」

縛られ…二人の男に犯される、儚い美少年を見たのは、これで…二度目。
寝台の向こうで、グーデンがつまらなそうに立っている。
睨め付けるが、興味無さげにグーデンは見返す。

「…俺が、あんたを殴れないと知って!
随分余裕だな?!」

グーデンは、首を竦める。
「加わる気は、無いんだろう?
とっととその顔を引っ込めろ」
言って手に持つ、ワインのグラスを持ち上げ、口に含む。

ディングレーはずかずかと入り込むと、グーデンの手からグラスを引ったくって、怒鳴った。
「…奴らに今直ぐ言え!
縄をほどけと!」

グーデンは煮えたぎるような怒りに燃える、自分よりも大柄な弟を見た。
「…でないと、暴れ出すか?」

ディングレーは、じっとそのスカした実兄の顔を見、囁く。
「…俺はあの時より、うんとデカくなってるし!
喧嘩の仕方も上達してる!
相手が例え四年の猛者だろうが、怯む気は無いぞ?」

グーデンはそう怒鳴る弟を見つめ、つぶやく。
「…三年で、大層幅を効かせてるようだな?
なら試せ!
『王族』の顔の通じぬ相手と、本気でやって。
勝てるかどうかを!
…明日は学年別試合…。
その前に怪我を負うと、不利なんじゃないのか?
ローランデは、たいそう手強いんだろう?」

がしゃっ!

ディングレーは持っていたワイングラスを、思わず床に叩き付ける。
背後で、寝台の上でアスランにのし掛かっていた男二人が。
ゆらり。
と身を揺らし、向かい来る。

ばっ!

黒髪を散らし、ディングレーが振り向く。
アスランは自分から離れていく男二人を、激しく睨め付けるディングレーの姿を、涙で滲んだ瞳で見た。

あんまり…激しく、頼もしくて。
彼にすがりついて泣き出したい衝動に、身を震わせた。

ざっつつつ!

ディングレーは振りかかる拳を、顔を振って避けながら進み、そのまま相手の腹に、がつん!と拳を振り入れた。

目前で、四年猛者は、身を上下に揺らす。
が、振りかかる拳の気配に、ディングレーは咄嗟、腕を引く。
腹に拳を叩き込んだ男は、腹にめり込む拳が引いた直後、下に崩れ落ちた。

真横から、間髪入れず拳が降って来る。
がその拳を叩き込む男の顔が、ディングレーの視界にはっきり映り込む。

ダランドステ!

四年平貴族、猛者らの中で。
一番体格良のいい、ボス。
黒髪の…竜のような、ごつい顔をした男!

がっつ!
左腕を振り上げ、降って来る拳を止める。
右拳を、顔目がけ叩き込む。
だが瞬時に避けられ、掠るだけ。

もう一歩踏み込み、拳を握る。
ダランドステは左で止めた拳を外し、振りかぶる。

がつん!
ダランドステの拳が、避けて捻った胸に当たるのも構わず、ディングレーはそのまま間を詰め、ダランドステの顔目がけ、拳を思いっきり、振り切った。

がっつつ!

逃げる顔に、当たった。
が、手応えは軽い。
まだだ!
もう一度!

ダランドステがまた、腹へ拳を入れようと右拳を引いても。
ディングレーはその間合いから、一歩も引かなかった。


 ローランデは泣き出しそうな表情の、マレーを見つめる。
小柄なマレーは、震えていた。

背後から、足音が聞こえ、シェイルが振り向く。

フィンスとそれに、ヤッケルが走って来ていた。
その背後に、少し遅れて一年の………。

「マレー!」
呼ばれて振り向く。
叫んだのは、アイリス。

並んで駆けて来る、横のフィンスに比べれば、とても小柄に見えた。

とても綺麗な、その一年代表を見た時。
マレーは、泣きそうになった。

「…ディングレーは、一人…。
たったの一人で……助け出せる?」

「どこだ」
ふいに背後から声。

シェイルもフィンスも、ヤッケルもが。
ギョッ!として振り返った。

アイリスが、その名を呼ぶ。
「ギュンター……」

「ディングレーは、どこに居る?」

ローランデは背の高い金髪美貌の編入生に、真っ直ぐ見つめられ。
暗い紫の瞳が、怒りを含んでいるのを見て。
一瞬息が、止まりそうになった。

けれど…ローランデはささやく。
「王族の、私室。
君が行ったら、ただじゃ済まない」

ギュンターはその、凜として気品溢れる二年を見た。
優しい顔立ち。
淡い栗毛と濃い栗毛が交互に混じる、独特の髪色。
けど全身から、騎士としての迫力が仄かに滲んでる。

ギュンターは、頭に来た。
確かに騎士養成校に、相応しい人材。

が!
そんなヤツが、暴挙を働く奴を目前に、立ち往生か!

ローランデの、眉が寄る。
確かにギュンターの美貌は飛び抜け、彼の前に立つシェイルと並んでも、遜色そんしょく無いほど目立つ。

けれど。
心が震える程の正義感を、彼は持ってる。

だからこそ…!

だがギュンターは、ローランデが唇を開いたまま沈黙してるのに業を煮やし、歩を進める。

咄嗟…ローランデはギュンターの腕に、しがみついた。

「…言ったろう!相手はそこらの貴族じゃないと!」

ギュンターはしがみつく、ローランデの澄みきった青の瞳が。
自分を心配してる。と解った。

が、怒鳴る。
「いいから、言え!
俺だって、馬鹿じゃない。
助っ人が、必要無いと解ったら。
部屋を間違えたと、引くさ!」

『本当に…?』

ローランデが叫ぼうとした時、アイリスが目前に、飛び込んで来る。
「私が案内する…!
ギュンター、こっちだ」

「…アイリス!」
ついて来ようとするローランデに、アイリスは振り向く。
「貴方だと、睨まれる!
幸い私は、あなどられてるから、逆に逃げ道がある!」

「………本当か?」

ヤッケルが、駆け去る二人の背を呆然と見つめ。
思わず歩を止めるローランデの、横に来てぼやく。

フィンスも横にやって来て、笑いながらつぶやく。
「少なくともアイリスには。
ローランデの歩を止めさせるだけの、説得力はあるようだ」

長身の同級生、品のいいフィンスにそう言われ。
ローランデは思わず、フィンスの端正な顔を見上げた。

マレーは、び学校一の美少年シェイルが、自分の横に再び、慰めるように寄り添った時。
とうとう我慢出来ず、シェイルの胸に、顔を突っ伏した。

意外な事にシェイルは…。
慰める事に慣れた、安心感と暖か味があって…。

マレーは思わず、その暖かさに、きつくしがみつく。

シェイルはマレーを、抱き止めるように胸にいだき、両腕をそっと。
その小さな背に回し、安心させるように優しく抱きしめた。
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