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マレーの事情を察するサッテスとディングレー

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 サッテスは、ローフィスの父親の、元同僚。
かつてローフィスの父、ディラフィスと共に神聖神殿隊付き連隊騎士をしていた。
が、怪我のため、引退。
かつての知識を生かし、現在滅多な経歴では採用されない、『教練キャゼ』の療養師をしている。

荒っぽい『教練キャゼ』では、療養師の腕が悪ければ、怪我で退校する者が続出。
療養師となるのは大変な栄誉で、同時に高給取りだった。

流石ローフィスと関係のある者らしく、口が悪く頭の回転が速く、そしてとても気が利いていて。
入学当初からローフィスと密かに連んでたディングレーは、校外でごろつきと、抜刀沙汰の喧嘩をしたり。
酒場で深酒したりして、怪我や二日酔いでローフィスに担がれ、しょっ中サッテスの世話になってた。

散々な体たらくを、とっくに見られていたから。
最早サッテスの前で、王族の仮面は通用しなかった。

サッテスが戻って来るのを、マレーは見て…。
急に、うつ伏せでお尻を丸出しにしてる事が、恥ずかしく感じ。
居心地悪そうに、もぞ…と腰を捩った。
けれど背後に被さって来るサッテスの雰囲気は、優しく…。
そして頼もしげで、彼の指が再びお尻に触れても、マレーは羞恥も恐怖も嫌悪も。
感じる事は無かった。

けれど…双丘の奥に指が触れ、蕾の中へと指が入り、何か塗り込まれ始めると…。
その感触に、マレーは頭を微かに揺らした。

指が奥まで差し入れられ、その場所に触れると。
かっ!と体が熱くなり、同時に…擦られた場所に、微かな痛みを感じる。

けど数度…サッテスの指が行き来すると、その粘りけのある塗り薬のせいか…。
痛みは、少しずつ引いて行った。

けれど触れられた感触で、性器が反応し始めるのを感じ…。
マレーは唇を噛んだ。

サッテスはそれに気づくと、さっ!と指を引き抜く。
寝台から身を起こして、告げた。
「君も飲み薬だ」

マレーは、振り向かずに頷いた。

サッテスは縦ロールの栗色の巻き毛の、少女のような美少年のか細い体を見つめ、吐息を吐き出した。
手早く、ズボンを戻し、カーテンを開けて促す。

マレーはのろのろと身を起こし、反応しかけた性器を鎮めようと、暫く寝台の上で、じっ…としていた。

ディングレーは、カーテンを開けて戻って来るサッテスが。
極力表情を抑えているのに、気づく。
その顔は軽い伊達男風のハンサムだったが、ローフィス同様、内面は気骨があるのを知っていた。

以前グーデンの部下にひどく扱われた美少年の、手当てをした後。
ぶすっとした表情で、小声で素早くぼやいてた。
「…マジでこっそり、グーデンを闇討ちしてやらないと気が晴れない…!」

側にいたローフィスが、すかさず言い返してた。
「あんたの気は、それで晴れるだろうが。
この子はそれで済まない…。
ディアヴォロスに任せるのが、賢明だ」

サッテスは年下の提言に、ますます表情を険しくし…。
そう言ったローフィスを、睨んでた。

乱暴者の体のデカい怪我人が、手当にダダこねて手を焼かせると。
腹に一発、拳かまして黙らす現場も、見てたから。
きっとローフィスが止めなかったら、本当に闇討ちしたかも…。
そう、後でディングレーは思い返し、ぞっとした事を思い出す。

サッテスは、見つめるディングレーに気づくと告げる。
「オーガスタスはどう出る気だ?」

ディングレーは俯く。
「ローフィスの言う通りなら…退学覚悟でグーデンと、対決する気構えだ」

サッテスは大きく頷く。
「…で?お前は?」

ディングレーはふうっ!と大きな吐息を吐き出した。
「…解ってるだろう?
殴って性格が、マトモになるんなら。
とっくに俺が兄貴を殴ってる」

サッテスは、笑う。
「絶縁覚悟でか?」

ディングレーの、俯く頭が揺れる。
「…親父に言われてる。
曲がりなりにも兄貴だ。
王家の体面は、お前が護れ。と」

ディングレーが顔を上げると、サッテスは泣き顔のような笑顔を作った。
「お前は良く出来た弟だ」

ディングレーは吐息が漏れた。
「…ディアヴォロスがいた時は…。
グーデンも大事おおごとにしたくないから、俺の取引に応じた。
けど今、あいつはオーガスタスを、身分の遙か劣る平貴族だと、舐めきってる。
正面切って火蓋を切れば…退学に出来る。と………」

サッテスが呻く。
「…兄貴が言ったのか?
自分の部下に、お前を殴れと」

ディングレーは顔を、上げた。
「…殴られようが、屁でもないがな!」

けれどサッテスの顔は、同情に歪んでいた。
「だが…心はそうはいくまい?」

途端、ディングレーは心の痛みを見抜かれて、顔を下げた。

その時ようやく…二人はマレーが、カーテンの向こうからそっとこちらに、向かい来るのに気づいた。

サッテスは肩を竦め…マレーに処方する薬の準備を始める。
「ディングレー。
そっちの瓶を取ってくれ!」

立ち上がり、自分の横に並ぶディングレーにサッテスは小声で囁く。
「相当慣らされてる。
ここに来る前…男の相手させられて来てる子だ」

ディングレーの身が、一瞬びくん…!と揺れる。

そして…ディングレーはサッテスの差し出す飲み薬を、手にするマレーを見る…。

聞いた事がある。
いかにも…な子で、どうしても『教練キャゼ』に来るしか無い子は…。
男との情事の、手ほどきを受けてやって来るのだと。

目的は、剣でも出世でも無い。
名のある剣士の、愛玩となり…。
女のように囲われて、後ろ盾を得る為…。

つまりマレーは……。
ここに来る前、男を教え込まれて来たのだ。

そしてそう言う子は大抵…家の犠牲にされる、不幸な身の上の子が多い。
…そう…ローフィスに聞いた。

ディングレーはグラスを降ろすマレーに、そっと近付く。
「…ひどい味だったろう?」
屈んでそう言うと、サッテスはマレーの手からグラスを取り上げ、怒鳴る。

「お前よりよっぽど立派だ!
駄々、こねないからな!」

ディングレーがふてくされると、マレーがくすっ。と笑った。

ディングレーはマレーの笑顔を見て、ほっとする。
その背に手を当て、囁く。

「行き先は俺の宿舎だ。
落ち着くだろうし、ゆっくり出来る。
…詳しく話を聞かせてくれ」

マレーは一瞬、呆け…。
けれどディングレーが、親しみ籠もる青の眼差しで、暖かく見つめるのを見つめ返し。
こくん。
と小さく、頷いた。
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