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シェイルとディングレーの謝罪
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食事も終わりがけで、皆が講義に出るため、大食堂を後にし始める。
ディングレーが取り巻き大貴族らを引き連れ、ローランデのテーブルにやって来た。
ディングレーは自分の姿で、シェイルに視線を送り続けるグーデンの視界を遮りながら、シェイルの椅子の後ろに立つ。
気づいて振り向くテーブルの皆に、チラとグーデンの方に視線を送り、目配せしながらシェイルに屈み、囁く。
「どこの講義室だ?
送る」
シェイルはディングレーを見上げ、椅子に座る自分を見下ろしてる、伏し目がちなディングレーに一瞬、見惚れる。
黒いまっすぐな髪が肩に滑り、青い瞳がきらりと陽を弾き、一瞬輝く。
気品があり同時に、とても男っぽい。
「…ごめん。僕ディングレーがあんな…威厳があって格好いいって、知らなくて」
唐突にそう言われ、ディングレーは顔をシェイルに傾けたまま、目だけ見開いた。
「………………………」
言葉が出てこないディングレーに、横のローランデが、くすくすと笑う。
ディングレーは笑うローランデに視線を向ける。
ローランデは小声で、笑った理由を説明した。
「すみません…。
シェイル、貴方が王族してる姿を、見慣れないって言ってて…」
「試合中?」
ディングレーの問いに、ローランデが頷く。
そしてローランデがディングレーに視線を向けると、ディングレーは頬を染めて顔を背け、ぼそっ。
と囁いた。
「…すまん。
俺は…君では無くその後戦う、オーガスタスの事ばかり考えて…試合に集中出来てなかった。
真剣に挑んでくれる君に、大変失礼な試合態度だった」
背後にいたディングレーの取り巻き大貴族達…特にデルアンダーとテスアッソンは、下級に負けてバツが悪いだろうとディングレーを気遣っていた…自分らを、恥じた。
自分の威信だけを守る男ならきっと、負けたことを誤魔化したに違いない。
…本調子なら、勝てたと。
とても身分高いプライドだけの男なら逆にローランデを、“上級に楯突く生意気な下級”と、見下すような態度を取るだろう。
グーデンは間違いなくそうする。
が、もしディングレーがグーデンのような態度を取っても、この場合は仕方無い…。
学年トップが下級に負けることなど、特例で滅多に無いことだから。
なのにディングレーは…威張るどころか、謝罪してる。
ローランデを見下して真剣に戦わなかった、自分を恥じて。
デルアンダーを始め…取り巻き大貴族らは、素直に自分の非を認める主、ディングレーを…その時本心から、慕った。
自分たちが仕えるに、相応しい主だと。
ローランデは暫く…そう謝罪する王族の男を見つめた。
「いえ…流石「左の王家」のお方。
謝罪頂き、これ程光栄なことはありません」
ディングレーはローランデの、その本心から出た言葉と微笑を見つめ、ほぐれるように微笑み返す。
「いや。
北領地の領民は、君のような守護神を迎えて幸せだ」
けれどそう王族のディングレーに褒められ、頬を染めて照れたのは、ローランデの方。
「…私は小柄であまり体も丈夫で無かったので…父に大変心配をかけました。
跡継ぎとして十分な剣の腕を得るのに、普通の剣士の鍛錬ではまるで他の騎士に、歯が立たないと」
ディングレーは吐息を吐き、囁く。
「ではやはり、特殊な講師を迎えたのか?」
「『風の民』の指南を受けた講師を。
はい。
『風の民』は…少数ながらも始終盗賊らの襲撃を受けるので、女、子供までが戦わなくてはならないと。
ですから…私のように小柄でも、大人の腕利きと対等に戦う術を全て、伝授して頂きました」
ディングレーの背後の、デルアンダーやテスアッソンは、それでか。
と態度を崩す。
が、ディングレーは囁く。
「ディアヴォロスに聞いた。
『風の民』の戦術は、並大抵の努力では身に付けられないほど厳しい。
あの、厳しい鍛錬を常に積んでる『銀髪の一族』の者ですら、音を上げる程凄まじいそうだな?」
背後のデルアンダーやテスアッソンらは、それを聞いて一気に居住まいを正し、テーブルの…シェイルもそうだったけど、ヤッケルもフィンスも、シュルツですら、それを聞いて目を見開いた。
けれどローランデは、微笑んで言葉を返す。
「自然と一体になって、気配は消せと言われても…そう簡単には、出来ませんからね?」
ディングレーはそれを聞いて、ため息交じりに大きく、頷いた。
そして自分を、目を見開いて見てるシェイルに視線を向ける。
「…で、俺が王族してると…その、格好いいのか?」
シェイルは唐突に尋ねられたのに、頷く。
「うん。
見た事ないほど格好良くて、僕の知ってるディングレーとは別人だった」
ディングレーはがっくり。と首を下げ、シェイルに屈み込んで、小声で囁いた。
「ここでは王族の威信を守れと、親父に厳命されてる。
普段の俺はなるべく隠してるから、協力してくれ」
シェイルはそうこっそり告げる、ディングレーを見た。
「…うん。
でも僕も、ごめんだよ?
あんなに格好いいって知らなくて」
けどディングレーは、顔を下げて言った。
「…だから。
ローフィスには俺のみっともないとこ、全部見せてるから。
お前といる時の俺は多分…めちゃくちゃ格好悪い。
ここでは一時、それを忘れてくれるとありがたい」
「…努力する」
シェイルの返答に、ローランデはまたくすくす笑い出し、ヤッケルもフィンスも、こっそり笑った。
ディングレーが取り巻き大貴族らを引き連れ、ローランデのテーブルにやって来た。
ディングレーは自分の姿で、シェイルに視線を送り続けるグーデンの視界を遮りながら、シェイルの椅子の後ろに立つ。
気づいて振り向くテーブルの皆に、チラとグーデンの方に視線を送り、目配せしながらシェイルに屈み、囁く。
「どこの講義室だ?
送る」
シェイルはディングレーを見上げ、椅子に座る自分を見下ろしてる、伏し目がちなディングレーに一瞬、見惚れる。
黒いまっすぐな髪が肩に滑り、青い瞳がきらりと陽を弾き、一瞬輝く。
気品があり同時に、とても男っぽい。
「…ごめん。僕ディングレーがあんな…威厳があって格好いいって、知らなくて」
唐突にそう言われ、ディングレーは顔をシェイルに傾けたまま、目だけ見開いた。
「………………………」
言葉が出てこないディングレーに、横のローランデが、くすくすと笑う。
ディングレーは笑うローランデに視線を向ける。
ローランデは小声で、笑った理由を説明した。
「すみません…。
シェイル、貴方が王族してる姿を、見慣れないって言ってて…」
「試合中?」
ディングレーの問いに、ローランデが頷く。
そしてローランデがディングレーに視線を向けると、ディングレーは頬を染めて顔を背け、ぼそっ。
と囁いた。
「…すまん。
俺は…君では無くその後戦う、オーガスタスの事ばかり考えて…試合に集中出来てなかった。
真剣に挑んでくれる君に、大変失礼な試合態度だった」
背後にいたディングレーの取り巻き大貴族達…特にデルアンダーとテスアッソンは、下級に負けてバツが悪いだろうとディングレーを気遣っていた…自分らを、恥じた。
自分の威信だけを守る男ならきっと、負けたことを誤魔化したに違いない。
…本調子なら、勝てたと。
とても身分高いプライドだけの男なら逆にローランデを、“上級に楯突く生意気な下級”と、見下すような態度を取るだろう。
グーデンは間違いなくそうする。
が、もしディングレーがグーデンのような態度を取っても、この場合は仕方無い…。
学年トップが下級に負けることなど、特例で滅多に無いことだから。
なのにディングレーは…威張るどころか、謝罪してる。
ローランデを見下して真剣に戦わなかった、自分を恥じて。
デルアンダーを始め…取り巻き大貴族らは、素直に自分の非を認める主、ディングレーを…その時本心から、慕った。
自分たちが仕えるに、相応しい主だと。
ローランデは暫く…そう謝罪する王族の男を見つめた。
「いえ…流石「左の王家」のお方。
謝罪頂き、これ程光栄なことはありません」
ディングレーはローランデの、その本心から出た言葉と微笑を見つめ、ほぐれるように微笑み返す。
「いや。
北領地の領民は、君のような守護神を迎えて幸せだ」
けれどそう王族のディングレーに褒められ、頬を染めて照れたのは、ローランデの方。
「…私は小柄であまり体も丈夫で無かったので…父に大変心配をかけました。
跡継ぎとして十分な剣の腕を得るのに、普通の剣士の鍛錬ではまるで他の騎士に、歯が立たないと」
ディングレーは吐息を吐き、囁く。
「ではやはり、特殊な講師を迎えたのか?」
「『風の民』の指南を受けた講師を。
はい。
『風の民』は…少数ながらも始終盗賊らの襲撃を受けるので、女、子供までが戦わなくてはならないと。
ですから…私のように小柄でも、大人の腕利きと対等に戦う術を全て、伝授して頂きました」
ディングレーの背後の、デルアンダーやテスアッソンは、それでか。
と態度を崩す。
が、ディングレーは囁く。
「ディアヴォロスに聞いた。
『風の民』の戦術は、並大抵の努力では身に付けられないほど厳しい。
あの、厳しい鍛錬を常に積んでる『銀髪の一族』の者ですら、音を上げる程凄まじいそうだな?」
背後のデルアンダーやテスアッソンらは、それを聞いて一気に居住まいを正し、テーブルの…シェイルもそうだったけど、ヤッケルもフィンスも、シュルツですら、それを聞いて目を見開いた。
けれどローランデは、微笑んで言葉を返す。
「自然と一体になって、気配は消せと言われても…そう簡単には、出来ませんからね?」
ディングレーはそれを聞いて、ため息交じりに大きく、頷いた。
そして自分を、目を見開いて見てるシェイルに視線を向ける。
「…で、俺が王族してると…その、格好いいのか?」
シェイルは唐突に尋ねられたのに、頷く。
「うん。
見た事ないほど格好良くて、僕の知ってるディングレーとは別人だった」
ディングレーはがっくり。と首を下げ、シェイルに屈み込んで、小声で囁いた。
「ここでは王族の威信を守れと、親父に厳命されてる。
普段の俺はなるべく隠してるから、協力してくれ」
シェイルはそうこっそり告げる、ディングレーを見た。
「…うん。
でも僕も、ごめんだよ?
あんなに格好いいって知らなくて」
けどディングレーは、顔を下げて言った。
「…だから。
ローフィスには俺のみっともないとこ、全部見せてるから。
お前といる時の俺は多分…めちゃくちゃ格好悪い。
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「…努力する」
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