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7 逆転し始める優位
大物アドラフレンの登場に挽回の機会を逃すゼフィス
しおりを挟むだがそんな頃。
ゼフィスは地獄から天国。
銀髪の影の一族の頭領も。
ギュンターの事ですら、すっかり忘れ。
かつてニーシャの取り巻きだった、宮廷でも煌びやかな貴公子三人に取り囲まれ。
心の底から、楽しんでいた。
が、ゼフィスはロスフォール大公からの使者が、この隠れ別荘に一度も訪れない事を、突如思い出す。
慌てて自分の所在地を告げる使者を、送ろうと。
侍従を呼びつけ、使者を頼む。
が、しかし…。
「残念ながら、このブログナは秘密の会ですので。
使者は通せませんし、こちらからも送れません」
ゼフィスは、頭を殴られたようなショックを受ける。
折角約束してくれた侯爵の地位。
ロスフォール大公と連絡が取れなければ、保留に成るかも。
そう思った途端、青ざめて焦る。
「私…帰らなくては」
そう呟くゼフィスを、三人の貴公子は必死で、押し止めた。
サランフォール公爵は、三人から目配せを受け取り、自分をここに差し向けた、アドラフレンに即座に連絡を送る。
…程なく、ゼフィスの狙う超大物。
「左の王家」アドラフレンが、この別荘に姿を現す。
その途端、帰る事などきっぱり忘れ。
ゼフィスの瞳は、獲物を狙う獣のように輝いた。
アドラフレンはこっそり、サランフォール公爵の背後に立つ。
背後からの、公爵の耳打ちを聞く。
互いに背を向け合ったまま、目も合わせずに。
「…三人ではもうこれ以上、引き留められないと」
アドラフレンは、ため息交じりに囁く。
「そういう時。
君が何とか、してくれるもんじゃないのか?」
が、サランフォール公爵は異を唱える。
「…幾ら貴方に借りがあっても。
ニーシャやゼフィス。
毒女達の相手だけは。
御免被ります」
アドラフレンは俯く。
ゼフィスの瞳が、アドラフレンに注がれ続け、暗い輝きを帯びる。
「貴婦人らは人を見下すような下賤なゼフィスの態度に、不快の極み。
全員帰りたがっているのを、この私が。
必死に引き留めてるんです…!
もう暫くこのブログナを長引かせたいなら。
貴方がゼフィスを引き留める他、方法はありません」
サランフォール公爵の言葉に、アドラフレンはゼフィスから顔を背け、また短い、ため息を吐いた。
が、振り向くアドラフレンはうっとりするような微笑を浮かべると。
一人の貴婦人へと、歩を進める。
「アドラフレン様」
ジャナック伯爵夫人。
古い名家の出身の、身分こそさほど高くないが、とても趣味の良い、趣のある控えめな美女で。
たしなみもあって、穏やかで。
社交界でも、皆が彼女を見かけると、暖かく迎え入れる素晴らしい貴婦人だった。
「…いらしてたの?」
「招待を受けましたが、遅くなって」
「王宮警護は色々、大変でいらっしゃるんでしょうね?」
アドラフレンは曲が流れ始めるのを聞き、肘を曲げて夫人に差し出す。
夫人は品良くアドラフレンの腕に手を滑り込ませ、踊りの出来る中央の空いてる場所へと、一緒に優雅に歩き出す。
「…策士ね」
サランフォール公爵は、ぎょっ!とした。
少年給仕の変装をした、ニーシャに背後から声をかけられて。
「…ゼフィスに見つかったら、どうする気です!!!」
「しっ…!
この格好じゃ、バレやしないわよ」
サランフォール公爵は、チラと背後に視線を落とす。
ぶかっ!とした給仕服を着て、髪の色まで暗く染めた、冴えない少年給仕が、そこにいた。
「…確かに」
「アドラフレンったら…。
ゼフィスに嫉妬でやきもきさせて、時間を稼ぐ気ね。
釣れそうで、釣れない。
ゼフィスはきっと、どんどんアドラフレンに夢中になるわ。
サランフォール公爵。
貴方は間違っても、アドラフレンの真似なんて、しちゃダメよ?」
そう小声で背後から告げられ、サランフォール公爵は内心憤慨した。
が、冷静な小声で告げる。
「したくても、出来ませんよ。
気のあるご夫人の気を引くのに、私は直接口説く事以外、出来ませんから」
サランフォール公爵は、背後から身を乗り出し、顔を見つめて来るニーシャから。
こほん。と咳払って、顔を背ける。
「…どうして姿も性格も凄く、好ましいのに。
私にオチないのかしら」
「…だから!
私は遊びで女性と、付き合えない体質だからです!」
「…つまらない人ね」
サランフォール公爵は怒ってニーシャを睨んだが、ニーシャはどこ吹く風。
ゼフィスの、他の女性と踊るアドラフレンへ送る視線は、ますます鋭くなる。
「(…簡単には…いかないのかしら…。
どうしたらアドラフレンを、振り向かせられる?!)」
ゼフィスは三人の貴公子に相変わらず取り巻かれ、飲み物や食事を差し出されながら、アドラフレンを見つめ続けた。
シャルロネ公爵が、広間の端に居るサランフォール公爵にそっと近づき
「彼(アドラフレン)が現れたから。
我々はそろそろ…一人ずつ、姿を消そうか?」
謀の苦手なサランフォール公爵は、戸惑ったが、頷いた。
「お任せします」
シャルロネ公爵は微かに頷いて、ゼフィスの元へ飲み物持参で戻った。
中央のレスルの部下らは、襲撃停止の情報を、とっくの昔に受け取っていたから。
今では、奪われた荷馬車の貯蔵倉の、数多くの隠し場所を、全力で探っていた。
だが。
以前は頻繁に、隠し場所とラデュークは連絡を取っていたのに。
アドラフレンの指示により、送り先から“調査が入るので、送られても困る”
と連絡が行ってるせいか。
ロスフォール大公が、欲する僅かな物しか、倉から出して来ない。
「動いてくれないと、探し出せないな…」
「いよいよラデュークを、警護から引かせないと。
エルベス大公家に、半額に値切られかねないぞ?」
が。仲間の一人が言う。
「…そろそろラデュークは…ゼフィスの居所を探し始める頃かな?」
仲間は首を、縦に振る。
「だが、見つからない。
アドラフレンの手配だ。
そうそう簡単に、追跡はさせないさ。
それより、ラデュークを捕らえる、網を張ろう」
「…居所の知れない影の一族の、アジトを知ってると…。
情報を流すか?」
仲間は頷く。
「だが影の一族の、耳には入らないよう…。
ラデュークが知る程度に。
影の一族が出てくると、面倒だ」
仲間は肩を竦める。
「やたら、腕が立つしな。
面倒だと殺しにかかる。
逃げるのも、一苦労」
「死ぬよりは、マシだろう?
で…。
この情報。
補佐のオーガスタスに、知らせるか?」
三人目の仲間が、ラデュークの生い立ちについての情報の記された羊皮紙を、ひらひらさせる。
二人は、顔を見合わせた。
「…ああ。
ラデューク程の男。
簡単に、捕らえ続けておけない上。
「左の王家」の血を引いてるから、迂闊に殺すとディアヴォロスの不興を買う」
「…この国で、アドラフレンとディアヴォロスだけは。
敵に回したくないもんな」
仲間は頷く。
「…どれだけ大金を積まれても。
今の所この二人と敵対する依頼は全部、断ってるからな」
「じゃ。
俺は補佐殿の所だ」
三人目の言葉に、二人は顔を見合わせ、一人が言った。
「俺達は情報を流し、ラデュークを捕らえる罠を張ろう」
その言葉に、もう一人は頷いた。
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