人形の冒涜(ぼうとく) 

あーす。

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レイファスの見解

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だが。
翌日アリシャは突然、気を変えた。
朝食の席で、カレアスが園遊会の招待状を誰に出すか、恐る恐る尋ねた時、アリシャは使者から早朝届いた手紙をテーブルの上に置いて、言ったのだ。

「セフィリアお姉様が。
ご招待してくれたから、これから出かけるわ!」

カレアスもレイファスも、あんまり突然でびっくりし、けれど園遊会の準備が中止で飛び上がりそうに二人共嬉しくて、その後にこにこしながら朝食を終えた。

その日の午前中、外出するから。
と少し控えめな、でもやっぱりレースの衣服を着けさせられ、レイファスはアリシャと馬車に、乗り込んだ。

アリシャは、はしゃいでいた。
「あちらのファントレイユもだいぶ、落ち着いたんですって!
ファントレイユは貴方の従兄弟で同じ年よ!
ああでも…ファントレイユは父親のゼイブンに、とても似てるらしいわ!
私が最後に見たのは、よちよち歩きの頃で。
あの後熱ばかり出すようになったと聞いて、もうとっくに亡くなってるかと毎度セフィリアがそれは気の毒で。
様子を伺いながらこっそり連絡していたけれど。

貴方より多分、もっと明るい髪の色の子だわ。
けど熱ばかり出してたとても体の弱い子なんですって!
貴方は…そうね。
確か…少しばかり早くに産まれて、お兄様になるから…。
体が弱いちょっと年下のファントレイユに、年上の貴方が色々教えてあげてね?」

レイファスはそれを聞いて、げんなりした。
ひょろひょろに痩せて病弱で。
今にも死にそうな子の、相手をするだなんて。

けどカレアスはこの訪問のお陰で、無理して気取らなくちゃ成らない面倒な園遊会をしなくて済むのだから、多分言えばいつも通り、遠い領地に遊びに連れてってはくれるだろう…。

カレアスは、アリシャに滅多に
「駄目だ」
と言わなかったけど、そのアリシャに我慢してる息子のレイファスにも同様
「駄目」
を殆ど、言わなかったから。


 馬車が、セフィリアの領地の入り口の門を潜り行く。
セフィリアの邸宅領地は、落ち着いていてとても手入れが行き届いた綺麗な庭園や…白い彫刻の彫られた、赤いつるバラ巻き付く洒落たあずま屋や…。

それ程広くは無いけれど居心地の良さそうな、どこか知的で優雅な雰囲気が、そこら中に満ちていた。

馬車を降りて玄関を見上げる。
白い石の横に広い段。
濃い茶色の樫の木の、彫刻の彫り込まれた大きな玄関扉。

…上品でお洒落な感じがして、自分の所の、開けっぴろげで陽気で広くて雑多で…それでいて豪華な美しい彫刻が、突拍子無く置かれてる、びっくり箱か迷路のような屋敷領地と、レイファスは始終比較していた。

出迎えてくれたセフィリアはアリシャより背が高く、とてもアイリス伯父さんに似ていて、レイファスはその知的な美人がとても、気に入った。

濃紺の瞳輝かせ
「まあ!
何て可愛らしいんでしょう!」
と、初めて出会う他の婦人達が、例外無く告げる言葉を投げかけられたけど。

でも、大抵の客は初対面で自分を女の子と間違えたけれど…病弱の子供、ファントレイユを抱えてるせいか…セフィリアの瞳は、自分の女の子みたいな外観より、ピンク色の健康そうな頬っぺ。
病とは無縁の元気そうな様子に、始終羨望と安堵の入り交じった視線がくべられていて…レイファスは少し、きゅん。と胸が痛んだ。

体の弱い自分の息子の様子に、きっといつもとても、心配してるに違いない。
だから…自分の健康そうな様子に、とても…ほっとしてるんだ…。

そして…セフィリアに、客間に招かれ…。
姉妹の頬寄せ合う挨拶が終わりお茶を出され………ようやく、その病弱な従兄弟、ファントレイユが扉から、入って来た。

レイファスはその、昼の陽光が高い窓から差し込む室内に入って来た、淡い色のグレーかかった金髪に近い栗毛を肩に乗せ、透けるブルーグレーの…やっぱり淡い色の瞳の、とても綺麗な子供を見た途端、思った。

『お人形が、歩いてる………!』

アリシャは綺麗なお人形が大好きだったから、予想道理ファントレイユを一目見た途端、一発で気に入った。

ファントレイユが無表情で、セフィリアに頷かれてその横のソファにかけようとして足をヨロめかせた途端、レイファスはびっくりして椅子から飛び出して、ファントレイユを支えに行きそうだった。

けど自分だっていつも道理動くと破きそうな、高価なレースの衣服着ていたから、踏み止まった。

そして椅子の握りを握りしめながら、レイファスは気づいた。
そんな風に蹌踉めくファントレイユを支えようと思ったのは…病弱な子が気の毒で支えようとしたのでは無く、とても高価で綺麗な人形が…落ちて壊れたら大変だ!

…そう思ったからだって。

つい、俯いた顔を上げる。
ファントレイユは椅子にかけた姿も人形そのもの。
表情が、まるで無かった。

予想と全然違う…!
レイファスは内心思った。

がりがりでも無くむしろ…自分よりも少し、背が高かった。
哀れな病人の様子はまるで無く、人形が大きくなってそこに居る。
そんな感じ。

『困ったな。
会った事、無い人種だ。
…だって人間に見えない』

顔上げて見るけど、ブルーグレーの淡い瞳が陽に透けると宝石のようだったし、髪は絹糸のようだ。
何より本当に呼吸してるのかな?
と言うくらい、動きが無い。

つい、じっ…。
と見ていると、ファントレイユは気づいたように振り向き、その時ほんのり…頬を染めて微かに微笑した。

それでレイファスはようやく、無機物を見てる緊張から解かれ、ほっ…とした。

アリシャとセフィリアは、会えなかった空白埋めるように喋り続け、レイファスはずっとじっと…ファントレイユを見続けた。

すると…ファントレイユはすまし顔に戻ろうとし…レイファスを、意識した様に頬、染めて俯く。

レイファスはつい、凄く珍しい物を見るように、一挙一動を見守り…彼が、人間のように首、傾げたりする様を見続けた。

『ちゃんと…首は、動くんだ………。
こいつ、走ったり出来るのかな?』

レイファスはふ…と我に返る。
アリシャから、貴方のお友達。
と男の子の人形を渡された時、衣服脱がせて関節が動くかどうか、調べた時の事を、思い出したから。

ファントレイユがこちらを、頬染めて見つめている。
つい、習慣でにっこり。と笑いかけたら、咄嗟ファントレイユは恥ずかしそうに顔背け、頬真っ赤にして、俯いている。

『きっと病弱で…あんまり人とかに、会った事無いんだ。
だから…人間の行動が出来ないんだな』
(そんな訳あるか…By作者)

セフィリアが、やっと置き去りにした二人の息子に気づいた様子で、ファントレイユに告げる。
「貴方のお部屋をレイファスに、見せてあげたら?」

ファントレイユは大人しく静かに頷くと、椅子を立ち上がった。
入って来た時よりは、うんとしゃんとした様子で。

レイファスは彼が、動いて自分に振り向く様子に、ようやく少し、ほっとした。

ちゃんと、流れるように動いてる。
からくりの仕掛け人形より、ずっと綺麗に。

けれど…やっぱり淡い色の髪と瞳。
そして…色白であんまり綺麗なせいか…やっぱりこれが、人間だと言う事が信じられなかった。

ファントレイユが廊下の先歩き、付いて来てるかな?
と振り向いても、レイファスは人間相手の時のように横に飛び込んで
「どこにあるの?
君の部屋!」
と言えなかった。

伺うように、一挙一動を、用心しながら五歩も背後から、見張っていた。
が、ふ…と、ファントレイユには危険が無いのに、どうして自分はこんなに用心してるんだろう?

と思って…一生懸命、記憶を思い巡らせた。
猛犬の横を、駆け抜けなきゃならない時も…こんな風に距離取って伺った。
けど…ファントレイユは牙剥き、噛みつきそうに無い。

ああ…!
思い出した!
あの…大蛙を見た時だ!

危険は無いけど…あんまりでっかくて見慣れなくて、どうしても目が吸い付いて…けれど綺麗で珍しい宝石のような蛙を見つけた時のように、歓喜で取り上げたりは出来ず………。

離れたまま、ずっと暫く、固まり続けてその、珍しい生き物を観察し続けたっけ。

動いただけでびっくりして、飛び上がりそうになった。
大蛙はあんまりじっと見つめられるのに飽きたのか…その、長い足蹴って、あっと言う間に池の中へと姿、消したけど。

今、自分は…ファントレイユがあんまり綺麗で人間離れしてるから…何だか凄く異質なものを感じて、近寄れない。

ファントレイユが扉開けて横に立つから…レイファスは中に入り様、横のファントレイユの気配を探った。

やっぱり…体温があったり呼吸してる感じが、凄く…微か。
つい…どうしてこんなんで生きて行けるのか?
と、びっくりして振り向いた。

ファントレイユは突然振り向かれ、ちょっとびっくりしたように、目を見開いたけれど…それですら、目を少し見開いただけで、肩やその他は動いたりしてない。

部屋に入り扉閉めるファントレイユに振り返り…口を開こうとしたら、彼が先に言った。
「ごめん…僕、同じ年頃の女の子って、初めてで」


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