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魔女の一撃

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ーー チサト side ーー

ずるい!
おれとほとんど同じデザインなのに!
ズボンの丈が違うだけなのに!!

フィールはかっこいい。
おれは……見た目も持って生まれた才能みたいなものだよな。……はぁ。

「それではごあんないいたします」

残念な気持ちを抑え込み、領主様のいる母屋(?)の立派な食堂になぜか案内されて着席して少し待つと、領主様がやって来た。

「ツィーゲ伯爵はまだ身体が辛いそうなので私達だけでいただこう」
「かしこまりました」

ギゼが一礼して入って来たのと違うドアをノックすると、食事が運ばれて来た。当たり前だけど給仕は他の人がして、ギゼは立って見てるだけ。にこにこしてるけど、なんだかこう……

「お口に合いましたでしょうか?」
「はっ、はい! 美味しかったです!」

……たぶん。
給仕の人に聞かれてこう答えたけど、ギゼが心配で味がよく分からなかったなんて言えない……

食事を終えてギゼがいつ夕飯を食べるのか聞いたらこれからだって。部屋で寛ぐからゆっくり食べてから来てね、と念を押した。

「フィール……」
「どうした?」
「ギゼが頑張ってるのを喜ばなくちゃいけないのに、一緒にご飯を食べられないのが悲しくて……まだ8……9歳なのに働くのって……この世界では普通の事かも知れないけど、おれの世界ではまだまだ遊びながら勉強してる歳なんだよ。だから……もっと子供らしく甘やかしてやりたかったのに……」
「だが、決めたのはギゼだ。チサトに出来る事はギゼを応援し、もしここが嫌になったらいつでも温かく迎えてあげる事だと思うよ」

トントントン

「ギゼラです。はいっても よろしいでしょうか」
「どうぞ」
「せんせい! どうしたの!? ……ですか?」
「こっ、これは! ぐすっ……あの……」
「一緒に食事ができなかったから心配しているんだよ」
「おしょくじ、おいしいですよ? りょうりちょうも めいどがしらのヒルトさんも しごとにはきびしいけど やさしくしてくださいます」
「寂しくない?」
「……よるはすこしさびしいけど、ふたりべやだから すこしだけです」
「そっか。大丈夫ならいいんだ」
「せんせい、よるはおしごとおやすみなの。あそびにきても よろしいですか?」
「うん! 良いよ! 一緒に寝る?」
「チサト!?」
「ライナーさんにきいてみます!」

ぱぁぁぁっと顔を輝かせ、走るように飛び出して行ったギゼは、思いの外早く帰って来た。

「せんせい、いっしょに ねていいって!」
「やった! 一緒に寝よう! フィールも一緒に!」
「あ、あぁ」

シャワーはさっき浴びたけど、ギゼがまだだったので一緒にもう一度浴びた。それから寝間着に着替えてベッドに入る。フィールとギゼが揉めたけど、おれのたっての希望でギゼを真ん中にして川の字になった。

「せんせい、あのね……」

ギゼはここに来てから教えられた事や驚いた事、難しかった事、色々話してくれた。そしておれに抱きついて眠った。

「チサト、ギゼは寝た?」
「ん……頑張ってるのが分かって良かった」
「そうだな。まずはギゼを信じて応援しよう。ところで……」
「?」
「なぜギゼを真ん中にして寝たかったんだ?」
「あぁ、川の字って言ってね、その……夫婦で子供を挟んで眠るのが……幸せの象徴って言うか……」
「夫婦……?」
「あっ! あの! おやすみなさい!!」

恥ずかしい事を言ってしまって慌てて眠ろうとしたけど、フィールが声を潜めておやすみのキ口づけを要求して来た。ギゼの上でギゼを起こさないようにそっと舌を絡める背徳感と言うか罪悪感と言うか!?

「おやすみ」
「お……おやすみなさい……」




「……んん……あ……ちさとせんせい、おはようございます。ちゅっ」
「ちゅ……ふぇ? せんせい? あ、ギゼ、おはよう」
「チサト、ギゼ、おはよう。それからツィーゲ伯、客の部屋に忍び込むとはどんな了見ですか?」
「忍び込むだなんて!! 私はギゼラを起こしに来たんだ。仕事だよ、と」
「ごしゅじんさま!! ねぼうしてしまって もうしわけございません!」
「寝坊ではないから安心しなさい」
「そうだよ、ギゼ。ツィーゲ伯はチサトとギゼの寝顔を見に来ただけだ」
「おれ達の寝顔?」
「テオフィールの寝顔だって見たかったとも! ……こほん。そうだ、愛らしい3人が寄り添う寝姿を見れば私も全快できるからね」

なんだかよく分からないけど元気そう。

「具合は良くなったのですか?」
「君たちのおかげでね。だがまだ長くは歩けないのでライナー、運んでくれ」
「かしこまりました」

背負子……
主人を背負子に乗せて運ぶ姿に驚けばいいのか、背負子に乗ってまで寝顔を見に来た領主様に驚けばいいのか。

「ツィーゲ伯は怪我をしたのですか?」
「魔女の一撃です」

魔女!? 魔法攻撃??? 何やらかしたんだろう? ロリショタ魔女っ子だったのかな?

「素直にぎっくり腰と言えば済む事を」

あぁ、なるほど。異世界だし、魔法あるから言葉通り信じちゃったよ。でも車椅子はないのかな?
フィールとギゼに車椅子の事を話したらギゼが執事さんに教えて来る!と大喜びで飛び出して行った。そして少ししてからしょんぼりしながら戻って来た。着替えもせずに!って注意されたらしい。ついでにおれも一緒に着替えたら昨日とは違うけどやっぱりフィールとペアルック的な服だった。

見劣りするの、辛い。
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