いつまででも甘えたい

香月ミツほ

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エピローグ

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死別シーンです。地雷な方は退避して下さい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「今日はヨシキを占有するよ。」

朝食の席でイラリオがそう宣言する。

「今日は俺の番です!」
「ごめん。今日じゃなきゃダメなんだ。みんな一日だけ譲ってくれ。」

「それって、まさか…」

イラリオとは毎週金曜の夜を共に過ごしている。
月曜がガウル、火曜がパスク、木曜がセサルだ。ガウルとパスクはもう居ないので彼らを偲んで独り寝をしている。そして水曜と土日は他の希望者の一夜の恋人になる。今日は水曜だ。

金曜まで待てない理由。

「ん…、お別れだ。みんな、今までありがとう。」
「…まだ早すぎるんじゃない!?」
「そう思いたいんだけど、間違いないみたい。」

僕とずっと一緒にいたせいか、ガウルもイラリオも最期の日が来ると分かってしまうようだ。
僕がこの世界に来てからもう46年になる。セサルは64歳でイラリオは70歳だ。

そして僕はコロコロ姿が変わるけど老いる事がない。

おじいさんにもなれるけど見た目だけ。




4人の中で1番最初に別れが訪れたのはパスク。
1番年上ではあったけど、亡くなったのは護衛任務中の事故で19年も前だ。まだ59歳だった。

襲って来た魔獣を受け止めて絞め殺して侯爵令嬢を守った。でも肋骨が折れて肺に刺さっては、僕と交わる事で強化されていた治癒力も追いつかなかった。むしろ苦しみが長引いただけかも知れない。
事故だったからゆっくりと過ごす事はできなかったけど、どうやってだか僕は現場に駆けつけた。

「ごふっ…こんな所で死んだら…ヨシキに会えないまま死んだら…迷って生まれ変われないんじゃないかと思った…でも…会いに来てくれた…」

ごぼごぼと変な音の混じる呼吸はどんどん弱くなっていく。

「死なないで!置いて行かないで!!僕、寂しいと死んじゃうんだよ!?」

手を強く握り、懇願するとふっと笑ってもう片方の手を僕の頭に伸ばした。

「…ガウルも…セサルも…イラリオもいるだろう。今思えば、俺達皆で…ヨシキの魂を引き止めていたんだ。あいつらが居なくなる前に…きっと戻って来る…約束する。」
「そんな約束要らない!もっと側に居て!まだまだ一緒に居て!」

「最後にもう一度…ヨシキの笑顔が見たい…もう…暗く…」

目の光が消え、焦点が合わなくなる。

口が微かに「あいし…」って動いたように見えたけど、ただの妄想かも知れない。

頭に置かれた手が落ちる。

「パスクーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


その後どうやって運ばれて来たのか分からないけど、おれは絶叫して気を失ってからもパスクの手を放さなかったらしい。2人一緒に運ばれてこの砦に戻って来た。パスクがここに埋葬して欲しいと以前から口にしていたから。

気がついて、こちらの世界のしきたりを聞かされて、一晩一緒に過ごしてようやく手を離す事ができた。埋葬して送り出して生まれ変わりを願う。おれはひと月後の花が咲くまで喪に服した。



花が咲いても悲しみはちっとも無くならなかった。でもガウルが…

「俺達を見ろ。お前は俺達を置いて行くのか?」

そう言われて自分の身体が透けている事に気がついた。
このまま悲しみに沈んでいると存在できなくなってしまう。そう言われ、ようやくまっすぐにガウルの瞳を見つめると、悲しみと不安が溢れていた。セサルも…イラリオも…

この人達のために生きよう。僕を愛してくれる、僕の愛するこの人達のために。この人達を悲しませないために。

せめてこの3人を見送るまで、おれは消えない。

そう心に誓った。



次に別れがやって来たのはガウル。ガウルも70歳の時だった。

その日の朝、突然「今日でお別れだから1日俺と過ごしてくれ」なんて言われてそんな酷い冗談言う何て!!って怒ってしまった。でも軽い口調とは裏腹に真剣な瞳。
木曜日だったけどセサルが譲った。

こちらの世界で70歳はごく一般的な寿命なんだと後で聞いた。

不安と不満を飲み込んでガウルの希望に応える。
思い出を語り合い、優しいキスを繰り返し、抱きしめ合って…感謝の気持と愛しい気持を込めて1日を共に過ごした。そして今まで本当に幸せだった、愛している、と言われて泣きながらしがみついてお別れなんて嘘だと言えってだだをこねた。

嘘をついて悪かった、明日も一緒に温泉に浸かろうって言われてなだめられて、抱き合って眠ると朝には冷たくなっていた。

昨夜まで暖かかった愛しい人の身体を手放したくない。



でも、こちらの世界には生まれ変わりがあるから、寂しくても悲しくても手放さないといけない。そうしないと生まれ変わる事ができない、と説得されて…

きっとまた会おう、って約束して…





「ヨシキがこの世界に来て、側にいてくれて、愛し合うことができて…本当に幸せだったよ。ありがとう。」
「僕もイラリオを愛してる。人間じゃないって分かっても変わらず愛してくれて、きっと、誰よりも幸せだったよ。」

涙が止まらない。

「俺のために泣いてくれてありがとう。でも笑顔で送り出して欲しいな。」
「こんな時に…笑顔を作るなんて器用な事出来ないよ。」
「最期の我が儘だから。お願い。」

もう!余計に泣かせてどうするんだよ!?
僕は頑張って笑顔を作ろうとしたけど、きっと上手く笑えていない。でもイラリオは嬉しいって言ってくれた。


冷たくなったイラリオに優しく口づけを送ってから人を呼ぶ。
棺桶に入れられたくさんの花で埋め尽くして蓋をする。そして土葬。
棺桶の素材は1週間で土に帰る。
花と一緒に成長の早い植物の種も入れてあるので1ヶ月もすると花が咲く。空に向かってまっすぐに花を咲かせる事から、魂を送り出す花とされているそうだ。

そしてまた生まれ変わる…





そしてイラリオの花が咲いた1週間後、1人の兵士がやって来た。
まだ18歳なのにとっても背が高くて筋骨隆々で、目が優しい子。快活で人懐こくて…

「なんだかパスクみたいな子だね。」

セサルが隣からそう囁く。
同じ感想を持って嬉しくなった。

まずは挨拶をしないとね!

「初めまして、僕はヨシキ。料理長の手伝いをしながらここで暮らしているんだ。」

「今日からここに転属になりましたパストルです!ヨシキさん、よろしくお願いします!」

パスクに似てる子が僕をヨシキさんなんて呼ぶ。
おかしくて自然に笑顔になる。

生まれ変わりじゃなかったとしても、おれが寂しくないように彼らが見つけてくれたのかも知れない。

「ヨシキって呼んで欲しいな。」
「では俺の事はパストと呼んで下さい!」

周りを見ていればそのうち敬語はなくなるだろう。

この砦がある限り、僕がここに存在する限り、人が入れ替わってもきっと…



いつまででも甘えさせてもらえるんじゃないかな?
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