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扉の真実
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「魔族……」
魔族を見るのはこれで二度目だ。
一度目はラトメリアで、焦げ茶色でどろりとしていて、輪郭の定まらない不思議な見た目をしていた。そいつは初め人間の魔法使いに化けていて、それは全く違和感のないものだった。だが今目の前にいる魔族は人の姿を模しているというには不完全で、中途半端な姿だ。黒一色の目や、腕を覆う羽は鳥のそれのようで、言ってみればそう、人と鳥を融合させたような、そんな感じだ。
シオンが立ち上がり、緊張した面持ちで言った。
「君がどういう意図で俺たちをここに連れてきたのかは別として、助かった。まずは礼を言わせてくれ」
素直に助けてくれたものと思いかけていたディアはきょとんとする。そして思い出す。
魔族は人に干渉せず、人は魔族の領域を侵さない。
ラトメリア城で、シオンが言っていたことだ。
人と魔族の間で交わされた約束。昔からの決まり事。この魔族はそれを破って、ディアとシオンをこの場所へと運んだ。
「礼を言われる謂れはない。私はそれが奴らの手に渡るのを防ぎたかっただけだ」
「え、え?」
尖った爪の先で指し示されて、ディアはあたふたした。
「お前、鍵を持っているだろう」
「鍵?」
「扉の鍵だ」
僅かな間の後に、ディアはあっと声を上げた。
腕に抱えた鞄を開いて、取り出す。ずっしりとした重みのある巾着袋。
シオンが魔族に問いかける。
「鍵……これは世界の扉を開くための鍵なのか?」
「そうだ。鍵は二つあって、もう片方は既に奴らの手にある。二つ揃わなければ扉を開くことはできない。人間の娘、それを譲ってはくれないか? 代価はそうだな、私の血と右側の心臓というのはどうだ?」
「し、心臓?」
至極真面目な顔つきで、恐ろしいことをさらりと言われて、ディアは身震いする。
シオンが言った。
「待ってくれ魔族、君はどうしてこの石を欲しがるんだ? それにさっきの話からすると、ゼベル兵たちも石を探しているみたいな感じだったけど」
「奴らに鍵を渡してはならない、扉を開けば世界は壊れる」
魔族の言葉を咄嗟に理解できず、ディアもシオンも目を瞬かせる。
「二つの世界を繋げれば、均衡を保っていたそれぞれの世界のバランスが崩れると言っているのだ。奴らはそれを知ったうえで扉を開こうとしている」
「二つの世界って、それはつまりこの世界と……」
「この世界と対になる世界、魂を共有する者たちが住む星のことだ」
異世界への扉。もう一つの世界。もう一人の自分。
御伽噺の中に出てきたその全て。
実在するかどうかもわからないまま、探し続けていた。
ディアの旅の目的。
「すごい、本当にあったんだ……」
ディアは地面に座り込んだまま、頬を紅潮させて呟き、魔族は何の感慨もなさげに頷いた。
「だが、この二つの世界は扉を開かない限り、個々のものとして互いに影響し合うことはない。扉と扉を繋いで初めて一対のものとなる。一対のものとなれば、それぞれの世界を構成しうる要素、法則、そんなものが同調しようとして本来あるべき流れを捻じ曲げようとする」
「えっと、具体的にそれはどうなるの?」
「一番わかりやすい例でいうと、あちら側の人間が死ねば、こちら側にいる片割れも同時に死ぬことになる。片割れにしてみれば、理由もなく突然にな。あとはそうだな、夜に太陽が出ていたり、昼に月が見えたりといった奇妙な現象が起こり、それから過去には地殻変動、異常気象なんかもあったと聞く」
「過去? 過去に扉が開いたことがあるというのか? いやそれは当然か。アルバ族の伝承として残っているということは、彼らが生きていた時代、いや、それよりも前の」
ぶつぶつと独り言を漏らしているのはシオンだ。
魔族はちらりとシオンを一瞥し、それからもう一度ディアに向き直る。
「理解したか? その石を決して奴らに渡してはならない」
「理解は、何となくできたけど……この石はソロのもので、ソロ自身は扉を開いたりとかそういうこと考えてないし、だからわたしが勝手に他の誰かに渡したりするのはやっぱりちょっと」
魔族は少し考えてから言った。
「ああ、詰所に捕らえられている男か」
「知ってるの?」
「同胞が潜入している。人間に化けるのが得意なやつでな。今回、お前達のこともそいつから聞いた」
「へー」
確かに今目の前にいる魔族の見た目では人間の中に溶け込めないなと思う。
それよりも、もし魔族が敵の中に紛れ込んでいるというのなら協力してもらうことはできないだろうか。そんなことを考えかけていたディアは、視界の端で地面の土が突然盛り上がるのを見て、ぎょっとする。
「やったなグィー! 奴ら面食らってやがったぜ! で、例の宝石はあったのか、ん?」
驚いたことに盛り上がった土がうねうね動きながら喋って、しかもその声には聞き覚えがあった。
つい最近の記憶は考えるまでもなく、すぐに呼び起こされる。
「あ」
「げっ」
土の表面に顔があれば思い切り歪められていたことだろう。
目も鼻も口もどこにあるのかすらよくわからないが、その感情を表すかのように輪郭が大きく揺らいだ。
「お前あん時邪魔しやがった人間のガキ! つーかお前、そっちのお前もだ眼鏡のやつ!」
「知り合いか、アルジル」
先刻グィーと呼ばれた魔族が尋ねる。
「知り合いなんかじゃねぇ! こいつらだよオレの計画ぶっつぶしやがったのは! そうだよ、あのズタボロの奴どっかで見たことあると思ってたんだよな、そうだそうだこの胸糞わりぃ連中の仲間じゃねーか」
「ま、待って! ズタボロの奴ってどういうこと?」
「どういうことって、そりゃあお前拷問に決まってるじゃねぇか。役人が罪人捕まえてすることっつったら、それくらいのもんだろうがよ」
アルジルは笑って言い、ディアはシオンを振り仰ぐ。シオンは険しい表情で魔族を見つめていた。
「それよかグィー、宝石はどうしたんだよ? こいつらが持ってるか、行方を知ってんじゃねぇかって話だったけど」
「いや、当たりだ。宝石ならそら、そこの娘が手に持っているものがそうだ」
グィーが顎で示して、ディアは両手で持った巾着袋を固く握りしめる。
「じゃ、さっさと奪っちまおうぜ。あの宝石さえ手にはいりゃあ、こんな奴らにもう用はねぇんだからよ」
「やめておけ、これ以上人間との間にイザコザを起こすな。お前はただでさえこの間の一件があるのだからな」
「あれはよおめー、途中までうまくいってたんだよ。人間に紛れ込んで、国王操ってさ。戦争起こさせて、そしたら世界の扉どころじゃなくなんだろ。そっれをこいつらが余計なことしやがって。大体よー世界がぶっ壊れちまうってんだから、それ前にして昔からの取り決めがどうの、魔王様のメンツどうのとか言ってる場合じゃねぇだろ。無駄に年だけ食って頭の固くなった爺共はあーだこーだ言って、何もしねぇで手こまねいて見てるだけのくせして、うだうだ言ってくんの、マジうぜぇわ。さっさとくたばれって感じ」
「口が過ぎるぞアルジル」
「だってそしたらどうすんだよ。ここまで来て諦めるなんて選択肢はねぇぜ」
盛り上がった地面がまた大きく揺れて、周囲に泥を散らした。
グィーが頭を抱える。彼はやや疲れたように息を吐いて、それからディアに向かって言った。
「宝石はその捕えられている男の物だと言ったな?」
「え、うん」
「ではその男と改めて交渉してみるとするか」
ディアはハッとする。
何やら勝手に話が進められているが、魔族は魔族の都合で話をしているだけだ。彼らの目的は宝石を手に入れることで、その計画の中にソロを救出するなんて段取りは組まれていないにちがいない。
そう思って言う。
「待って、だったらわたしも一緒に連れてって」
「はぁ?」
露骨に迷惑そうな声が返ってきて、慌てて付け加える。
「ええと、だからほら。ソロに確かめるんなら、わたしもその返事を聞いておかないとでしょ? 石はわたしが預かってるんだし」
「案ずることはない、人間と違って魔族は嘘をつかない」
「でもこの宝石はソロが大切にしているものよ。そう簡単にあなた達に譲ってくれるとは思えないわ」
「そうか、それは困るな」
「困るこたねぇよ。そうなりゃ問答無用で奪えばいい」
「ダメだと言っているだろう」
魔族たちは飽きもせずに、また同じやりとりを繰り返している。
「説得するならわたしも手伝ってあげる。だからその代わりに、ソロを一緒に助けてくれない? それに借りがある方が、ソロだってあなた達の話を真剣に聞いてくれるかもしれないし」
グィーはじっとディアを見つめる。黒い、鳥のような曇りのない目に覗き込まれて、ディアは怯みそうになったが、ぐっと堪えてみせた。だって嘘は言っていない。ディアの考えや予想に過ぎない言葉もあるが、それだって別に嘘ではない。
ただ彼らは彼らの都合でしか動かないだろうから、彼らにとってのメリットを、偽りのない範囲で提示しただけだ。
「いいだろう」
「よくねぇ! 人間と手を組むなんざ何考えてんだ。いいよもう勝手にしろ、そんかわりどうなっても知らねぇぞ! 上手くいかなかったら、その時はオレはオレのやり方でやらせてもらうからな!」
アルジルが消える。
怒っちゃった、いいのかなと思って、ディアはグィーを横目で見たが、彼はやれやれとばかりに首を横に振るだけだった。
「では向かうとするか」
グィーが軽く手を上げると、体の周りで風が渦巻く音がした。
シオンが言う。
「待てよ、君たちまさか真正面から行く気じゃないだろうな」
「真正面からというかこっそり?」
「力づくで? グィー、君の助力は心強いが、立場的に、大っぴらに人間の揉め事に関与することは避けたいんじゃないのか?」
「それはそうだが」
「ディア、君もだ、何かいい作戦でもあるのか?」
シオンがディアを見やると、ディアはうっと唇を引き結ぶ。
「やっぱり。こっそりとは言っても見張りの兵くらいはいるだろうし、それにソロさんが捕まっている牢がどこにあるかすらわかってないだろう」
「でも、じゃあどうするの? 行ってみないことには、ソロのいる場所だってわからないし」
「だから、まずは俺が一人で行ってくるよ。君はグィーとどこかに隠れて待っていてくれ」
「え、危ないよ」
ディアが不安げに言うのに対し、グィーは眉一つ動かさず、続く言葉を待っていた。
「彼らは宝石を探してるんだろう? だったら、宝石の在処を知っていると言えば、下手に手出しはできないはずだ」
「……」
シオンが交渉術に長けていることは、ディアもよく知っている。これまでの旅の中で何度も見てきた。それでもやはり不安はあって、自分はただ待っているということに、もどかしささえ感じる。
かといって、他に何かいい思い付きがあるかといわれれば、何も思い浮かばないのも事実だった。
「無茶はしないでね」
「わかってるよ」
シオンはやや固い表情で頷く。それでも幾分落ち着きを取り戻しているように見えた。
それだけのことだが、ディアは少しだけほっとする。
「ではひとまず街に移動するぞ」
グィーの合図で、風が再びディア達の体を包み込んだ。
魔族を見るのはこれで二度目だ。
一度目はラトメリアで、焦げ茶色でどろりとしていて、輪郭の定まらない不思議な見た目をしていた。そいつは初め人間の魔法使いに化けていて、それは全く違和感のないものだった。だが今目の前にいる魔族は人の姿を模しているというには不完全で、中途半端な姿だ。黒一色の目や、腕を覆う羽は鳥のそれのようで、言ってみればそう、人と鳥を融合させたような、そんな感じだ。
シオンが立ち上がり、緊張した面持ちで言った。
「君がどういう意図で俺たちをここに連れてきたのかは別として、助かった。まずは礼を言わせてくれ」
素直に助けてくれたものと思いかけていたディアはきょとんとする。そして思い出す。
魔族は人に干渉せず、人は魔族の領域を侵さない。
ラトメリア城で、シオンが言っていたことだ。
人と魔族の間で交わされた約束。昔からの決まり事。この魔族はそれを破って、ディアとシオンをこの場所へと運んだ。
「礼を言われる謂れはない。私はそれが奴らの手に渡るのを防ぎたかっただけだ」
「え、え?」
尖った爪の先で指し示されて、ディアはあたふたした。
「お前、鍵を持っているだろう」
「鍵?」
「扉の鍵だ」
僅かな間の後に、ディアはあっと声を上げた。
腕に抱えた鞄を開いて、取り出す。ずっしりとした重みのある巾着袋。
シオンが魔族に問いかける。
「鍵……これは世界の扉を開くための鍵なのか?」
「そうだ。鍵は二つあって、もう片方は既に奴らの手にある。二つ揃わなければ扉を開くことはできない。人間の娘、それを譲ってはくれないか? 代価はそうだな、私の血と右側の心臓というのはどうだ?」
「し、心臓?」
至極真面目な顔つきで、恐ろしいことをさらりと言われて、ディアは身震いする。
シオンが言った。
「待ってくれ魔族、君はどうしてこの石を欲しがるんだ? それにさっきの話からすると、ゼベル兵たちも石を探しているみたいな感じだったけど」
「奴らに鍵を渡してはならない、扉を開けば世界は壊れる」
魔族の言葉を咄嗟に理解できず、ディアもシオンも目を瞬かせる。
「二つの世界を繋げれば、均衡を保っていたそれぞれの世界のバランスが崩れると言っているのだ。奴らはそれを知ったうえで扉を開こうとしている」
「二つの世界って、それはつまりこの世界と……」
「この世界と対になる世界、魂を共有する者たちが住む星のことだ」
異世界への扉。もう一つの世界。もう一人の自分。
御伽噺の中に出てきたその全て。
実在するかどうかもわからないまま、探し続けていた。
ディアの旅の目的。
「すごい、本当にあったんだ……」
ディアは地面に座り込んだまま、頬を紅潮させて呟き、魔族は何の感慨もなさげに頷いた。
「だが、この二つの世界は扉を開かない限り、個々のものとして互いに影響し合うことはない。扉と扉を繋いで初めて一対のものとなる。一対のものとなれば、それぞれの世界を構成しうる要素、法則、そんなものが同調しようとして本来あるべき流れを捻じ曲げようとする」
「えっと、具体的にそれはどうなるの?」
「一番わかりやすい例でいうと、あちら側の人間が死ねば、こちら側にいる片割れも同時に死ぬことになる。片割れにしてみれば、理由もなく突然にな。あとはそうだな、夜に太陽が出ていたり、昼に月が見えたりといった奇妙な現象が起こり、それから過去には地殻変動、異常気象なんかもあったと聞く」
「過去? 過去に扉が開いたことがあるというのか? いやそれは当然か。アルバ族の伝承として残っているということは、彼らが生きていた時代、いや、それよりも前の」
ぶつぶつと独り言を漏らしているのはシオンだ。
魔族はちらりとシオンを一瞥し、それからもう一度ディアに向き直る。
「理解したか? その石を決して奴らに渡してはならない」
「理解は、何となくできたけど……この石はソロのもので、ソロ自身は扉を開いたりとかそういうこと考えてないし、だからわたしが勝手に他の誰かに渡したりするのはやっぱりちょっと」
魔族は少し考えてから言った。
「ああ、詰所に捕らえられている男か」
「知ってるの?」
「同胞が潜入している。人間に化けるのが得意なやつでな。今回、お前達のこともそいつから聞いた」
「へー」
確かに今目の前にいる魔族の見た目では人間の中に溶け込めないなと思う。
それよりも、もし魔族が敵の中に紛れ込んでいるというのなら協力してもらうことはできないだろうか。そんなことを考えかけていたディアは、視界の端で地面の土が突然盛り上がるのを見て、ぎょっとする。
「やったなグィー! 奴ら面食らってやがったぜ! で、例の宝石はあったのか、ん?」
驚いたことに盛り上がった土がうねうね動きながら喋って、しかもその声には聞き覚えがあった。
つい最近の記憶は考えるまでもなく、すぐに呼び起こされる。
「あ」
「げっ」
土の表面に顔があれば思い切り歪められていたことだろう。
目も鼻も口もどこにあるのかすらよくわからないが、その感情を表すかのように輪郭が大きく揺らいだ。
「お前あん時邪魔しやがった人間のガキ! つーかお前、そっちのお前もだ眼鏡のやつ!」
「知り合いか、アルジル」
先刻グィーと呼ばれた魔族が尋ねる。
「知り合いなんかじゃねぇ! こいつらだよオレの計画ぶっつぶしやがったのは! そうだよ、あのズタボロの奴どっかで見たことあると思ってたんだよな、そうだそうだこの胸糞わりぃ連中の仲間じゃねーか」
「ま、待って! ズタボロの奴ってどういうこと?」
「どういうことって、そりゃあお前拷問に決まってるじゃねぇか。役人が罪人捕まえてすることっつったら、それくらいのもんだろうがよ」
アルジルは笑って言い、ディアはシオンを振り仰ぐ。シオンは険しい表情で魔族を見つめていた。
「それよかグィー、宝石はどうしたんだよ? こいつらが持ってるか、行方を知ってんじゃねぇかって話だったけど」
「いや、当たりだ。宝石ならそら、そこの娘が手に持っているものがそうだ」
グィーが顎で示して、ディアは両手で持った巾着袋を固く握りしめる。
「じゃ、さっさと奪っちまおうぜ。あの宝石さえ手にはいりゃあ、こんな奴らにもう用はねぇんだからよ」
「やめておけ、これ以上人間との間にイザコザを起こすな。お前はただでさえこの間の一件があるのだからな」
「あれはよおめー、途中までうまくいってたんだよ。人間に紛れ込んで、国王操ってさ。戦争起こさせて、そしたら世界の扉どころじゃなくなんだろ。そっれをこいつらが余計なことしやがって。大体よー世界がぶっ壊れちまうってんだから、それ前にして昔からの取り決めがどうの、魔王様のメンツどうのとか言ってる場合じゃねぇだろ。無駄に年だけ食って頭の固くなった爺共はあーだこーだ言って、何もしねぇで手こまねいて見てるだけのくせして、うだうだ言ってくんの、マジうぜぇわ。さっさとくたばれって感じ」
「口が過ぎるぞアルジル」
「だってそしたらどうすんだよ。ここまで来て諦めるなんて選択肢はねぇぜ」
盛り上がった地面がまた大きく揺れて、周囲に泥を散らした。
グィーが頭を抱える。彼はやや疲れたように息を吐いて、それからディアに向かって言った。
「宝石はその捕えられている男の物だと言ったな?」
「え、うん」
「ではその男と改めて交渉してみるとするか」
ディアはハッとする。
何やら勝手に話が進められているが、魔族は魔族の都合で話をしているだけだ。彼らの目的は宝石を手に入れることで、その計画の中にソロを救出するなんて段取りは組まれていないにちがいない。
そう思って言う。
「待って、だったらわたしも一緒に連れてって」
「はぁ?」
露骨に迷惑そうな声が返ってきて、慌てて付け加える。
「ええと、だからほら。ソロに確かめるんなら、わたしもその返事を聞いておかないとでしょ? 石はわたしが預かってるんだし」
「案ずることはない、人間と違って魔族は嘘をつかない」
「でもこの宝石はソロが大切にしているものよ。そう簡単にあなた達に譲ってくれるとは思えないわ」
「そうか、それは困るな」
「困るこたねぇよ。そうなりゃ問答無用で奪えばいい」
「ダメだと言っているだろう」
魔族たちは飽きもせずに、また同じやりとりを繰り返している。
「説得するならわたしも手伝ってあげる。だからその代わりに、ソロを一緒に助けてくれない? それに借りがある方が、ソロだってあなた達の話を真剣に聞いてくれるかもしれないし」
グィーはじっとディアを見つめる。黒い、鳥のような曇りのない目に覗き込まれて、ディアは怯みそうになったが、ぐっと堪えてみせた。だって嘘は言っていない。ディアの考えや予想に過ぎない言葉もあるが、それだって別に嘘ではない。
ただ彼らは彼らの都合でしか動かないだろうから、彼らにとってのメリットを、偽りのない範囲で提示しただけだ。
「いいだろう」
「よくねぇ! 人間と手を組むなんざ何考えてんだ。いいよもう勝手にしろ、そんかわりどうなっても知らねぇぞ! 上手くいかなかったら、その時はオレはオレのやり方でやらせてもらうからな!」
アルジルが消える。
怒っちゃった、いいのかなと思って、ディアはグィーを横目で見たが、彼はやれやれとばかりに首を横に振るだけだった。
「では向かうとするか」
グィーが軽く手を上げると、体の周りで風が渦巻く音がした。
シオンが言う。
「待てよ、君たちまさか真正面から行く気じゃないだろうな」
「真正面からというかこっそり?」
「力づくで? グィー、君の助力は心強いが、立場的に、大っぴらに人間の揉め事に関与することは避けたいんじゃないのか?」
「それはそうだが」
「ディア、君もだ、何かいい作戦でもあるのか?」
シオンがディアを見やると、ディアはうっと唇を引き結ぶ。
「やっぱり。こっそりとは言っても見張りの兵くらいはいるだろうし、それにソロさんが捕まっている牢がどこにあるかすらわかってないだろう」
「でも、じゃあどうするの? 行ってみないことには、ソロのいる場所だってわからないし」
「だから、まずは俺が一人で行ってくるよ。君はグィーとどこかに隠れて待っていてくれ」
「え、危ないよ」
ディアが不安げに言うのに対し、グィーは眉一つ動かさず、続く言葉を待っていた。
「彼らは宝石を探してるんだろう? だったら、宝石の在処を知っていると言えば、下手に手出しはできないはずだ」
「……」
シオンが交渉術に長けていることは、ディアもよく知っている。これまでの旅の中で何度も見てきた。それでもやはり不安はあって、自分はただ待っているということに、もどかしささえ感じる。
かといって、他に何かいい思い付きがあるかといわれれば、何も思い浮かばないのも事実だった。
「無茶はしないでね」
「わかってるよ」
シオンはやや固い表情で頷く。それでも幾分落ち着きを取り戻しているように見えた。
それだけのことだが、ディアは少しだけほっとする。
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