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修学旅行
第十九話
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『久世先生、夕方にお時間ありますか?』
唐突に数学担当の藤堂駆から話しかけられた。
今日は特に用事らしい用事はない。
「構いませんよ」
『よかった。仕事の目処がついたら保健室に伺ってもよろしいですか?』
「分かりました。お待ちしておりますね」
その日は体調の悪い生徒もおらず、あっという間に夕方になった。
藤堂を待つ。
『すみません。お待たせしましたか?』
「いえいえ。大丈夫ですよ」
『行きましょうか』
藤堂が連れて行ってくれたのは、学校から二駅離れた隠れ家のようなバーだった。
「こんな所にバーがあったんですね」
『ここ、穴場なんですよ』
「知らなかったです」
『お酒も美味しいですよ』
店内に入ると、照明が照らされているが、全体的に薄暗い。
バーなんてどこも同じようなものだ。
カウンターに座り、保はマティーニを、藤堂はミモザを頼んだ。
それぞれのカクテルが来たところで乾杯をして飲む。
(なかなか美味しい)
呑気にカクテルを楽しんでいたところに藤堂が切り込んできた。
『久世先生は今と本性、全然違うんですね』
いきなりすぎて、何を言われているのか分からなかった。
『この間の文化祭で、退学処分の奴ら相手に結構強気に出ていましたよね。僕見てたんですよ』
「さすがにあの場で弱気な態度は見せられませんから」
『仮にそうだったとして、桜井桃に見せず、聞かせないでいるのは、用意周到すぎませんか?』
「生徒に聞かせるには少し乱暴な言葉でしたし、桜井は女子ですから。怯えさせるわけにはいきません」
『このままでは平行線ですね。はっきり言いましょう。僕は桜井桃の婚約者だ。これ以上彼女に近づくのは止めてもらいたい』
「それが本音ですか…。それでは私からも言わせてもらいますね。桜井桃は俺の運命の番だ。あいつの隣はてめぇの居場所じゃねぇんだよ」
『運命の番ですか…そんなものを信じているなんてロマンチストなんだな』
「てめぇは運命の番に会ったことねぇからそんなことが言えんだよ」
『そんなもの僕は信じない。ただ彼女が僕の婚約者なのは事実だ』
藤堂の言い分はこうだった。
藤堂家は元華族ではないが、財閥として有名で資金的にも潤沢だ。
そこに目を付けた桜井家は、桃を嫁に渡す代わりに融資を願い出た。
桃は親に売られたのだった。
既に融資もそれなりの額を支払われていて、あとは桃が高校を卒業すると同時に籍を入れるだけとなった。
だから、最近桃の周りを彷徨く保が目障りだということらしい。
(そんなことで引き下がれるかよ…!)
保は一つ提案をした。
「こういうことは俺らが決めることじゃねぇだろ?桜井本人の意志が大事だ。実際に桜井を落とした方が桜井を手に入れるってことでいいんじゃねぇか?」
『彼女が選んだ方が彼女と結婚するということでよろしいかな?』
「構わねぇ。もし桜井が俺を選んだ場合、お前が融資した金額全額俺が支払う」
『確かにそれなら僕が負けたとしても痛くないですね』
「んじゃそういうことで」
保は残っていたマティーニをぐいっと飲み干すと店を後にした。
唐突に数学担当の藤堂駆から話しかけられた。
今日は特に用事らしい用事はない。
「構いませんよ」
『よかった。仕事の目処がついたら保健室に伺ってもよろしいですか?』
「分かりました。お待ちしておりますね」
その日は体調の悪い生徒もおらず、あっという間に夕方になった。
藤堂を待つ。
『すみません。お待たせしましたか?』
「いえいえ。大丈夫ですよ」
『行きましょうか』
藤堂が連れて行ってくれたのは、学校から二駅離れた隠れ家のようなバーだった。
「こんな所にバーがあったんですね」
『ここ、穴場なんですよ』
「知らなかったです」
『お酒も美味しいですよ』
店内に入ると、照明が照らされているが、全体的に薄暗い。
バーなんてどこも同じようなものだ。
カウンターに座り、保はマティーニを、藤堂はミモザを頼んだ。
それぞれのカクテルが来たところで乾杯をして飲む。
(なかなか美味しい)
呑気にカクテルを楽しんでいたところに藤堂が切り込んできた。
『久世先生は今と本性、全然違うんですね』
いきなりすぎて、何を言われているのか分からなかった。
『この間の文化祭で、退学処分の奴ら相手に結構強気に出ていましたよね。僕見てたんですよ』
「さすがにあの場で弱気な態度は見せられませんから」
『仮にそうだったとして、桜井桃に見せず、聞かせないでいるのは、用意周到すぎませんか?』
「生徒に聞かせるには少し乱暴な言葉でしたし、桜井は女子ですから。怯えさせるわけにはいきません」
『このままでは平行線ですね。はっきり言いましょう。僕は桜井桃の婚約者だ。これ以上彼女に近づくのは止めてもらいたい』
「それが本音ですか…。それでは私からも言わせてもらいますね。桜井桃は俺の運命の番だ。あいつの隣はてめぇの居場所じゃねぇんだよ」
『運命の番ですか…そんなものを信じているなんてロマンチストなんだな』
「てめぇは運命の番に会ったことねぇからそんなことが言えんだよ」
『そんなもの僕は信じない。ただ彼女が僕の婚約者なのは事実だ』
藤堂の言い分はこうだった。
藤堂家は元華族ではないが、財閥として有名で資金的にも潤沢だ。
そこに目を付けた桜井家は、桃を嫁に渡す代わりに融資を願い出た。
桃は親に売られたのだった。
既に融資もそれなりの額を支払われていて、あとは桃が高校を卒業すると同時に籍を入れるだけとなった。
だから、最近桃の周りを彷徨く保が目障りだということらしい。
(そんなことで引き下がれるかよ…!)
保は一つ提案をした。
「こういうことは俺らが決めることじゃねぇだろ?桜井本人の意志が大事だ。実際に桜井を落とした方が桜井を手に入れるってことでいいんじゃねぇか?」
『彼女が選んだ方が彼女と結婚するということでよろしいかな?』
「構わねぇ。もし桜井が俺を選んだ場合、お前が融資した金額全額俺が支払う」
『確かにそれなら僕が負けたとしても痛くないですね』
「んじゃそういうことで」
保は残っていたマティーニをぐいっと飲み干すと店を後にした。
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