いばら姫

伊崎夢玖

文字の大きさ
26 / 57
修学旅行

第二十三話

しおりを挟む
保が指定した待ち合わせ場所に到着すると、藤堂は既に到着していた。
『遅いなぁ。僕をどれだけ待たせればいいと思ってるの?』
「てめぇを待たせて何か問題でもあんのか?」
『本当に口悪いなぁ。よく彼女の側にいられるよ』
「性根の腐ったてめぇよりはまだマシだ」
『君ほどではないよ』
「てめぇ、自分に薬盛っただろ?」
『何のことかな?』
「知らばっくれんなよ。オメガのフェロモンを敏感に感知する違法薬物に手出しただろ?」
『さぁ?』
「別にそれでも構わない。あの手の薬物は法にも違反した常習性の高いものばかりだからな。バレたら一発でアウトだ」
『僕を警察にでも連れて行く気?』
「そうだな。あいつへの強姦未遂もあるしな」
保は言い終わると同時に藤堂に殴りにかかった。
『本当に血の気が多いのは変わらないね』
「うるせぇ!黙って殴られろ!」
保と藤堂はレガーロ学園幼稚部からの腐れ縁で、高校時代保をパシらせていた中心人物だった。
あのパーティーの日以来、保は素の自分を出すことに躊躇わなくなった。
元々保は気性の荒い性格をしていた。
父母からはいい子と思われていたため、自分を隠して生活していた。
そんな時、小さな桃の『かっこ悪い』の一言で目が覚めた。
自分に向けられた言葉ではなかったのに、今の自分に向けられて言われているようだった。
(本当の自分を隠して生活するのは止めよう)
そこからパシらされる度に喧嘩をするようになった。
護身用に様々な武術を会得していた保は、連戦連勝だった。
パーティーの一件で、学校での保の立場を知った両親が喧嘩の度に学校へ呼び出されることで保を咎めたりしなかった。
寧ろちゃんと自分で決着をつけろと言われたくらいだった。
もちろん藤堂ともやり合って、藤堂は全敗だった。
藤堂としては、保が好意を持っている桃を保から奪うことは、喧嘩で負けていた保に唯一勝てる手段だったのだ。
だから桃に固執した。それが裏目に出た。
ドガッ
保の拳が藤堂の顎にヒットし、藤堂はそのままひっくり返った。
保の渾身の一撃は藤堂をノックダウンさせる程の威力だった。
「ハァ……ハァ……」
保は少し落ち着きを取り戻し、警察へ通報した。
藤堂は桃の一件だけでなく、他にも余罪があった。
婦女暴行だけでも把握できるので数十件、強姦罪に至っても十数件あった。
桃の一件で、やたら手慣れた藤堂の動きに違和感を覚えた保が田中を使って集めさせた情報だった。
表に出てきている数でこれだ。
出てきていない数も含めたら、何倍もした数になるのだろう。
(こんな奴に桃を奪われるなんて、たまったもんじゃない)
保は朝日を浴びながら、桃が眠る病院へ向かった。
「すみません。五〇三号室の桜井桃の学校の者ですが、鍵を開けていただけますか?」
『畏まりました。少々お待ちください』
ナースステーションで声をかけ、桃の病室の鍵を開けてもらう。
病室の中で桃はまだ眠っていた。
「くぅ…………ん……」
昨夜の混乱から落ち着いて寝られるまでになったのは、随分安心できた。
「俺がお前の平穏な毎日を守るから」
そう言いながら、保は桃の頬に触れた。
「……久世?」
「おはよう。気分は落ち着いたか?」
「うん」
「それじゃ、皆の元に戻るか」
「うん」
修学旅行もあと二日。残りの日々は団体行動である。
引率しながら桃の様子を見たが、笑顔が戻っている。
(心の傷が深くなくてよかった)
保がそう思うのも無理はないが、この時桃の心の傷は保が思うよりずっと深いものが刻まれていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

処理中です...