いばら姫

伊崎夢玖

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自殺未遂

第二十四話

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修学旅行から戻って来て数か月。季節は冬になっていた。
あれから桃の毎日は平穏なものになった。
これも保のおかげだった。
(だいぶ表情も柔らかくなった。笑顔も増えたな)
保は桃の少しの変化も見逃すまいと以前に比べて桃の近くにいることが増えた。
桃自身は全然気づいていないが…。

そんなある日、桃は自宅の離れの自室にて一人考え事をしていた。
(藤堂先生との婚約も破談になった…あたしが言うことを聞かなかったから?)
(そうじゃなかったとしても、あたしの体はあの時純潔を奪われた身…)
(純潔でない娘を嫁に貰ってくれる家があるはずがない…)
(なんて汚い体なんだろう…こんな体なんてなくなってしまえばいいのに…)
(あたしがこの世にいる必要ってあるのかな…?)
桃はネガティブモード全開な思考に陥っていた。
今までは保が定期的にネガティブモードから引き上げていたから落ち込まずに済んだ。
しかし、最近は保との接触がほとんどなく、引き上げてくれる友人も周りにいなかった。
「ふぅ…」
溜息をついた桃の目にペン立てに入っているカッターが目に映った。
(……………………………………………………)
無意識にカッターを手に取り、風呂場に向かう。
水を湯舟に張り、徐にカッターの刃を出す。
………………ザシュッ
桃の左手首に真っ赤な線が一本引かれた。
それを見た桃は同じ所をどんどん傷つけていく。
血液がどんどん溢れてくる。
水を張った湯舟に左腕を浸け、桃は意識を手放した。

それからどれくらい時間が経っただろう。
夜も更ける遅い時間。
通常なら誰も桃の部屋には来ない時間である。
しかし、今日は違った。
桃専属のメイドが今日の桃の様子がおかしいことを心配して見に来たのだ。
『桃お嬢様、お加減いかがですか?』
部屋の明かりが点いている時はいつもすぐに返事をしてくれる。
待てど暮らせど返事がない。
『桃お嬢様?いかがされましたか?』
再び沈黙が辺りを支配する。
これはおかしいと思い、メイドは執事を呼び、二人で桃の部屋に入った。
いつも桃がいる所に桃がいない。
『あなたはベッドルームやバスルームを探してください。私は他の部屋を探します』
執事はメイドに指示し、離れを探す。
どの部屋にも桃はいなかった。
『キャァーっ!』
メイドの悲鳴が響いた。
執事は急いでメイドの悲鳴のする方へ向かうと、真っ青な顔をして真っ赤に染まる湯舟に左手首を浸けた桃がいた。
執事は急いで救急車を呼んだ。
こんな時ですら、桃の両親は心配しなかった。
(それだから桃お嬢様は追い詰められたのでは…)
執事は口にはしなかったものの、自分の主に対して思ってはいけないことを思ってしまった。
こんな時連絡できる相手は一人しかいなかった。
電話に出るか分からなかったが、試しにかけてみるとすぐ相手は出た。
「もしもし」
『夜分遅くに申し訳ありません。桜井家の桃お嬢様の執事でございます』
「何かありましたか?」
『大変申し上げにくいことなのですが、桃お嬢様が自殺未遂をしました』
「容体は?」
『出血が多く、際どいとのことです』
「ご両親は?」
『いらっしゃいません』
「すぐ伺います。病院はどこですか?」
『丘の上病院です』
「分かりました。すぐ向かいます」

保はそろそろ日付が変わる頃にかかってきた電話に出る気はなかった。
スマホの画面に表示されたのが桜井家の執事からでなければ。
時間が時間のため緊急の電話だとは思っていたが、血の気が引いた。
桃が自殺未遂をするなんて…。
今日だって普通にクラスの女子と笑いながら学食で昼食を食べていた。
随分普段から笑顔が出てきて心の傷が癒えてきたと思っていた。
それなのに、何故自殺なんて…。
容体も不安定と聞く。
これ以上ない恐怖が保を襲う。
車をぶっ飛ばして丘の上病院へ向かった。
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