転生勇者のやり直し

すもも太郎

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1章 転生勇者は追放される

第十五話:リベラ村

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アルスは、住み慣れたはずの森を抜けていた。
足取りは軽く、魔力は満ちている。だが、歩みを進めるごとに、胸をざわつかせる「光景」が次々と目に飛び込んできた。

「……なんだ、これは」

かつて魔物の襲来で荒れ果てたはずの街道が整備されていた。
やがて、森の切れ間から見えたのは数年前の魔物の襲撃で焼き払われ、今はただの廃墟と化しているはずの**『隣村・リベラ』**の姿だった。

「……リベラ村が……残っている?」

アルスは信じられない光景に囚われ、ふらふらと歩み村の入り口の簡素な門に手をつく。そこには、活気に満ちた夜の営みがあった。
広場では焚き火が焚かれ、村人たちが明日の収穫について笑いながら語り合っている。

「おい、あんた。見ない顔だが、どこの旅の人だ?」

呆然として見ているアルスに声をかけてきたのは、見覚えのある顔だった。
アルスが幼少時に魔物と戦って死んだはずの警備団の青年、テオだ。彼は槍を抱えながら不思議そうにアルスを見ている。

「テオ……、なぜ生きてる……」

「えっ? なんで俺の名前を知ってるんだ? 悪いが、うちは今、巫女様御一行の宿泊準備で忙しいんだ。怪しい奴は通せないよ」


不意に上方からの視線を感じたアルスは、宿屋の二階の窓から顔を出した少女を仰ぎ見た。
白い法衣を纏い、夜風に吹かれるその姿は、どこか神々しく、それでいてひどく儚げに見える。

(……誰だ? 巫女、だと?彼女のことだろうか?)

アルスは目を細めた。

「リィン様!」

アルスの視線の先に気がついたテオが振り返り「リィン様」と呼んだその名は、確かに聞き覚えがある。
だが、自分の知っているリィンはもっと大人びていて……だが、そこにいる少女は、あまりに幼い。

(他人の空似か……?)

アルスは混乱した。
何より不可解なのは、死んだはずのテオが元気に生きて動き回り、焼き払われたはずのリベラ村が、何事もなかったかのように夜の灯を灯していることだ。

(俺はやはり幻想を見ているのだろうか……)

アルスは足元がグラグラする空虚感に襲われつつも、彼女から目を離せないでいた。

「……おい、あんた。巫女様をそんなにジロジロ見るなよ。不敬だぞ」

テオが苦笑いしながら近づいてくる。彼の声は確かに生身の人間のもので、幻覚とは思えず生々しい。

「テオ……本当に、生きてるんだな」

「……あんた、やっぱりどこか具合が悪いんじゃないか? さっきから寝ぼけたみたいなことばっかり言って」

アルスは自分の掌を見つめた。とても幻とは思えない。

(……あの水晶に触れたせいか?)

あの遺跡で、自分の記憶が吸い込まれていく感覚。
そして目覚めた後に感じた、得体の知れない空虚感。
アルスは、自分が置かれている状況が「異常」であることを、肌で感じ取っていた。

その時、宿屋の入り口の扉が開き、一人の男が姿を現した。

「――騒がしいな、何事だ?」

低く、理知的な、しかしどこか傲慢な響きを含んだ声。
アルスはその声を聴いた瞬間、全身の筋肉が反射的に強張った。
姿を見るまでもない。その声の主をアルスは憎悪と共に記憶している。

「……ゼノス」

現れたのは、まだ眼鏡をかけていない、二十代半ばほどの若い姿のゼノスだった。
彼は記憶よりも髪が短く、その眼光は円熟した狡猾さよりも野心に満ちた鋭さを剥き出しにしている。

「……ほう。私の名を知っているのか」

ゼノスは記憶を探るようにしていぶかしぎ、砂埃に汚れつつも隙のない構えを見せるアルスを、品定めするように眺めた。
アルスの手には、重剣の聖鞘がある。
ゼノスの視線がその鞘に止まった瞬間、彼の眉がピクリと跳ね上がった。

「その鞘……面白い意匠だ。古の魔導回路に似ているな。……少し、見せてもらえないか?」

ゼノスが静かに一歩を踏み出す。
アルスは無意識に、鞘を握る手に力を込めた。

(やはり変だ……初めて会うような素ぶりだ)

アルスの中で、バラバラだったピースが不気味に繋がり始める。
死者の復活。滅びた村の再生。そして、若き日の宿敵の出現。

「……待て」

アルスは短く答え、ゼノスを射抜くような視線で見返した。
まだこの状況の正体は分からない。だが、目の前にいるのが「あのゼノス」であるならば、ろくなことにはならない。それだけは直感で理解していた。

「……ふむ。無愛想な男だ。まあいい、明日の出発に支障がなければ、誰が村にいようと私の知ったことではない」

ゼノスは急に興味を失ったように背を向け、宿屋の中へと戻っていこうとした。
その刹那、二階の窓から、先ほどの少女の声が降ってきた。

「――ゼノス様! あの、その方は……」

少女の声に、ゼノスが足を止める。
アルスは再び、窓辺の少女を仰ぎ見た。

(似ている。……あまりに、あいつに似すぎている)

アルスは、自分の腰に下がる聖鞘に触れた。
この鞘が、何らかの理由で自分を「ここ」へ導いたのだとしたら。
この状況を打破する鍵は、あのゼノスでも、この村でもなく、あの窓辺で不安げにこちらを見つめる少女にあるのかもしれない。

アルスは、自分を不審者として警戒するテオの横をすり抜け、宿屋の入り口へと一歩を踏み出した。
あの少女が何らかの危機に晒されているという予感だけが、アルスの胸を騒がせていた。

「おい、待てよあんた! 中には入れないって!」

テオの声が背後で響くが、アルスは止まらなかった。
まずは、あの少女の正体を確認する。話はそれからだ。
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