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酒場
しおりを挟む夕方に坑道の採掘クエストを終え、採掘した石を自分の家に置きギルドで解散したあとに商業ギルドに顔をだす。
「こんちわー」
「あら、鑑定師さんいらっしゃい、よろず鑑定師組合からお手紙を預かってますよ」
僕が訊く前に顔なじみのお姉さんの方から教えてくれる。
「ありがとう」
お姉さんから手紙を渡され中身を確認すると一応面接があるので翌朝商業ギルドに来るように書いてある。
「よし!ありがとうお姉さん」
「アリアよ」
「ありがとうアリアさん!」
これで僕の2つ目の計画も予定通りに進みそうである。
僕は喜んでギルドを出ると酒場に向かった。今日は良い日なので誰かと乾杯したい気分だ。
王都の酒場は中央広場に面した所にあり、夜になると大勢が集まって飲んでいる。ここは昼とは違う王都のもう一つの顔なのだ。
酒場に入ると中は大賑わいで、給仕の女の子が忙しく左右に立ち働きカウンターも満杯だった。
諦めて帰ろうとすると、僕の精霊センサーが不穏な動きをキャッチする。チンピラ風の男達が酒場の一角で揉めている気配がした。
振り向くと、丁度荒事が始まる寸前でチンピラがまくし立てている所だ。
「鑑定」
チンピラは地元のマフィアで、旅人風の男は密偵と判る。
「おい!お前!ここはエガール一家の仕切りだと知らんのか?」
「おうそうだ!兄貴に土下座しろ!」
チンピラ2名が旅人風の男に食って掛かる。それでも周囲の酔い客達は彼らを無視して呑んでいた。日常的に良くある光景なのだろうか。
「エガールだか、テカーるだか知らないけど俺には無関係だ」
旅人風の男が言うと、チンピラはテーブルの上のジョッキを持ち上げて男の頭から酒をぶっかける。
「へぇ、無関係かい?へへへ」
「……」
明らかにチンピラが喧嘩を吹っ掛けていたが男は微動だにせずに酒が流れ落ちるのに任せる。
深く被った帽子と旅用の外套が効果的に酒を流し、本人は殆ど濡れてすらいないようだ。
ビシッビシ!
「はひぃ……」
「きゅう……」
コロコロ……
何かが弾ける音がして、突然チンピラ2名が変な声をあげ股間を抑えている。
「え?」
「なに……」
周囲の客達も何事が起ったのかと振り返り、前屈みで股間を抑えているポーズのチンピラを見る。
僕には精霊の探知能力で分かっていた。旅人が見えない速度で酒の肴の木の実を指で弾き、指弾でチンピラの股間を狙撃したのだ。
「あはは……」
「う、ぷぷ……」
その滑稽な姿に周りの男達が笑うがチンピラがぎろりと睨み返すと黙った。周囲にはおかしな沈黙が支配した。
「お、おまえ!何かしやがったな!」
チンピラが股間を抑えながら怒鳴る。その姿がさらに滑稽でおかしく僕は笑いを抑えられなかった。
「くくく……あははは」
「おい!てめえ!笑うんじゃねー」
静まっていた所に僕が爆笑するとチンピラの怒りの矛先が僕に向かう。
「ごめんねあははは」
「ははは……」
「ふふ」
僕がお構いなしに笑って居ると周囲の客達もつられて笑う。
「てめぇ!」
そのとき、突然目の前から消えた旅人風の男を見てチンピラが絶叫する。旅人風の密偵は異常な速度で席を立ち酒場から出て行くところだった。
チンピラや周りの酔い客達には密偵の男の動きに目が付いて行かず、突然消えたように見えただろう。
僕は酒場の入口付近に来た密偵の男とすれ違う瞬間に彼の手を握る。
ガツ!
すれ違いざまに僕のポケットに何かを入れようとしたのが察知出来たのだ。
「変なものを入れないでくれ」
「へぇ……」
そう言うと男は僕の手を振りほどき紙切れを落として去って行った。
僕は少し考えてからその紙切れを拾い上げてみる。
「今夜24時、王宮裏口に来い」
そのストレートな文言で僕は厄介ごとに巻き込まれた事を知った。
「ギルドをウロチョロして少し目立ち過ぎたか……」
それでも呼び出される理由がよく判らず考え込んでいると、目の前にチンピラがやってきていた。
「おいお前!奴がどこに逃げたか見ただろう!?」
酒くさい息で僕に怒鳴る。
「ああ、向こうに行ったよ」
密偵の男が去った方と逆を指さして教える。
「よし、いくぞ!」
チンピラ2人は股間を抑えつつも走り去った。
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