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3 伝説の魔女
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伝説だと思っていた。まさか一国を滅ぼした魔女が目の前にいる可憐な少女だなんて。
しかし、魔女は罪を犯して城内奥に幽閉されていると聞いていたが、なぜここに?確かに以前翠玉の魔女は国王直属の宮廷魔法使いとして遣え、王城にいたから皇女殿下のことをご存知だというのは合点がいくが……。
勝手におとぎ話に出てくるような、極悪な老婆を想像していたアレスは、あまりにイメージとかけ離れていた事実についていけなかった。ぐるぐると思考が渦を巻き始めると、「アレス」と名を呼ばれる。
「もちろん、信じる信じないは貴方に任せますが、今このタイミングでこの家を出られると色々こちらにも不利益があるのです」
「不利益……?」
「ここは本来、人が入れないように森全体に結界を張っています。結界内は壮大な魔力を持ってしても他者から覗かれないようになっていますが、現在、貴方は何故か魔力がない状態。死者以外に魔力がないというのは異質ですし、その状態で結界外に出てうろうろされるとこの結界も貴方も存在がバレてしまいます。……こちらもまたアレス同様、身を隠す立場なんです」
すらすらと流れる清流のような声に聞き入る。まるで魅了されてしまったかのように、彼女の言葉はスーッと頭に入ってきた。
「ということで、暫くこちらに滞在していてください。客人としてではなく、居候として下働もしていただくことになると思いますが」
「ありがとうございます。もちろん匿っていただく身、何でも致します」
では、食事が冷める前に、と促され再び食事に戻るアレス。そのまま部屋を出て行くアリアとイミュに気づかれぬようにチラっと視線を向けるが、特に彼らの感情が読めぬまま出て行ってしまった。そして、1人残されたこの部屋でふぅ、と息を吐く。
翠玉の魔女という得体の知れない脅威と共にするのは少々気が引けたが、一度死んだような身、なるようにしかならぬだろう、と腹を括ったのだった。
******
「随分と饒舌でしたね。あんなに言って宜しかったんですか?」
イミュの言葉にアリアは目を閉じた。もし彼が宰相の刺客であるなら、手の内を晒すようなものだ。しかし、アレスはなぜだか信頼してもよいように感じた。
「いざとなったら私が殺すわ。それにある程度彼のことを知りたいし、人手も足りなかったのは否めなかったでしょう?私も力が不安定なときがあるし、私以外に人がいるのは心強いわ」
「あれ以来人を避けていた貴女がそんなことを言うなんてどういう風の吹き回しですか。明日は嵐ですね」
「……特に他意はないわ」
「そうですか。……あいつのように裏切らなければいいですが……」
「もう過ちは犯さない。あのときも私が流されず、きちんと判断できなかったから起こったこと。もう繰り返すつもりはないわ」
それ以上イミュは追及することなく、姿を消した。アリアは、過去の映像を振り払うかのように頭を振る。
(もう同じ過ちは繰り返さない)
宰相に騙され、一国を滅ぼした魔女は自らの罪の呪縛に苛まれていた。一瞬にして、塵も埃も跡形もなく消え去った国。彼らには逃げ惑うことは愚か、命を乞う時間すら与えられなかった。そして、それを実行したのは紛れもなく、私だ。
コンコン
小さくノックが聞こえる。このようにノックをするのはイミュではない……つまりアレスだ。
どうぞ、と返事をすると薄く開かれるドア。
「アリア、さん。ちょっとよろしいでしょうか?」
「えぇ、はい」
入室してきたアレスに椅子に座るよう促す。どこかぎこちない様子に、自然と口元が綻ぶ。
「……私が、恐いですか?」
「いや、あのそういうのではなくて……。おれ、いや私は今後どうすれば……」
彼が私を見つめる。彼の顔に、胸が高鳴るのを顔に出さないように気をつけながら、少し顔を伏せた。
「特にこれと言って今言えることはないのですが、……強いて言えば護衛ですかね。私は下手に外では魔法が使えないので」
「え、でも私に魔力がないから外には出られないのでは?」
「私の力で一時的に目眩しで魔力を纏わせることはできます。……ですがあまり長く保つものではないので、そのまま逃げても捕まりますし、下手に貴方が捕まるとこちらも面倒ですし。だからちょっとしたお出かけ程度ですが。……貴方もずっと引きこもっていてはつまらないでしょう?」
「そうですね、ご配慮ありがとうございます」
「魔力譲渡のことも含めて、今後のことは後々話します。聞きたいこともたくさんありますし、貴方も色々聞きたいのだろうけど、今日は起きたばかりで疲れてますでしょう?ゆっくりお休みください」
「ありがとうございます」
「あと、私のことはただアリア、で構いませんよ。私もアレス、でよろしいでしょうか?」
「え、あぁ、もちろんです。では、お休みなさい」
「はい、明日はこの家や辺りについてご説明しますね」
にっこりと微笑むとアレスは恭しく頭を垂れて、静かに退室して行った。
(さて、今後どうするか…)
色々と状況が変わったことへの戸惑いと共に、新たな変化に少し期待をしながらアリアも寝る準備を始めるのだった。
しかし、魔女は罪を犯して城内奥に幽閉されていると聞いていたが、なぜここに?確かに以前翠玉の魔女は国王直属の宮廷魔法使いとして遣え、王城にいたから皇女殿下のことをご存知だというのは合点がいくが……。
勝手におとぎ話に出てくるような、極悪な老婆を想像していたアレスは、あまりにイメージとかけ離れていた事実についていけなかった。ぐるぐると思考が渦を巻き始めると、「アレス」と名を呼ばれる。
「もちろん、信じる信じないは貴方に任せますが、今このタイミングでこの家を出られると色々こちらにも不利益があるのです」
「不利益……?」
「ここは本来、人が入れないように森全体に結界を張っています。結界内は壮大な魔力を持ってしても他者から覗かれないようになっていますが、現在、貴方は何故か魔力がない状態。死者以外に魔力がないというのは異質ですし、その状態で結界外に出てうろうろされるとこの結界も貴方も存在がバレてしまいます。……こちらもまたアレス同様、身を隠す立場なんです」
すらすらと流れる清流のような声に聞き入る。まるで魅了されてしまったかのように、彼女の言葉はスーッと頭に入ってきた。
「ということで、暫くこちらに滞在していてください。客人としてではなく、居候として下働もしていただくことになると思いますが」
「ありがとうございます。もちろん匿っていただく身、何でも致します」
では、食事が冷める前に、と促され再び食事に戻るアレス。そのまま部屋を出て行くアリアとイミュに気づかれぬようにチラっと視線を向けるが、特に彼らの感情が読めぬまま出て行ってしまった。そして、1人残されたこの部屋でふぅ、と息を吐く。
翠玉の魔女という得体の知れない脅威と共にするのは少々気が引けたが、一度死んだような身、なるようにしかならぬだろう、と腹を括ったのだった。
******
「随分と饒舌でしたね。あんなに言って宜しかったんですか?」
イミュの言葉にアリアは目を閉じた。もし彼が宰相の刺客であるなら、手の内を晒すようなものだ。しかし、アレスはなぜだか信頼してもよいように感じた。
「いざとなったら私が殺すわ。それにある程度彼のことを知りたいし、人手も足りなかったのは否めなかったでしょう?私も力が不安定なときがあるし、私以外に人がいるのは心強いわ」
「あれ以来人を避けていた貴女がそんなことを言うなんてどういう風の吹き回しですか。明日は嵐ですね」
「……特に他意はないわ」
「そうですか。……あいつのように裏切らなければいいですが……」
「もう過ちは犯さない。あのときも私が流されず、きちんと判断できなかったから起こったこと。もう繰り返すつもりはないわ」
それ以上イミュは追及することなく、姿を消した。アリアは、過去の映像を振り払うかのように頭を振る。
(もう同じ過ちは繰り返さない)
宰相に騙され、一国を滅ぼした魔女は自らの罪の呪縛に苛まれていた。一瞬にして、塵も埃も跡形もなく消え去った国。彼らには逃げ惑うことは愚か、命を乞う時間すら与えられなかった。そして、それを実行したのは紛れもなく、私だ。
コンコン
小さくノックが聞こえる。このようにノックをするのはイミュではない……つまりアレスだ。
どうぞ、と返事をすると薄く開かれるドア。
「アリア、さん。ちょっとよろしいでしょうか?」
「えぇ、はい」
入室してきたアレスに椅子に座るよう促す。どこかぎこちない様子に、自然と口元が綻ぶ。
「……私が、恐いですか?」
「いや、あのそういうのではなくて……。おれ、いや私は今後どうすれば……」
彼が私を見つめる。彼の顔に、胸が高鳴るのを顔に出さないように気をつけながら、少し顔を伏せた。
「特にこれと言って今言えることはないのですが、……強いて言えば護衛ですかね。私は下手に外では魔法が使えないので」
「え、でも私に魔力がないから外には出られないのでは?」
「私の力で一時的に目眩しで魔力を纏わせることはできます。……ですがあまり長く保つものではないので、そのまま逃げても捕まりますし、下手に貴方が捕まるとこちらも面倒ですし。だからちょっとしたお出かけ程度ですが。……貴方もずっと引きこもっていてはつまらないでしょう?」
「そうですね、ご配慮ありがとうございます」
「魔力譲渡のことも含めて、今後のことは後々話します。聞きたいこともたくさんありますし、貴方も色々聞きたいのだろうけど、今日は起きたばかりで疲れてますでしょう?ゆっくりお休みください」
「ありがとうございます」
「あと、私のことはただアリア、で構いませんよ。私もアレス、でよろしいでしょうか?」
「え、あぁ、もちろんです。では、お休みなさい」
「はい、明日はこの家や辺りについてご説明しますね」
にっこりと微笑むとアレスは恭しく頭を垂れて、静かに退室して行った。
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