翠玉の魔女

鳥柄ささみ

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11 ヴィヴィアンナ

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「どうなってるの!カロス様はどこ?!」

甲高い声が一室に響く。周りの男達は皆一様に、下やら横やらに視線を逸らし、誰一人として答えられる者はいなかった。

「すぐに見つかるって言ったじゃない!」

キーキーと喚く声は、まるで耳鳴りのように頭に響く。男達は皆それぞれ顔を見合わせたが、皆誰が何かを言うのを様子を伺うように待っていて、埒があかない状態だ。

それにますます怒りの拍車がかかったのか、女はさらにキーキーと喚いていた。

「ヴィヴィアンナ様」

呼ばれて怒りのまま女は振り返るが、その表情を見てもにこやかな顔を崩さず男は続けた。

「せっかくのお美しい顔が台無しですよ」
「ゴードン。貴方、わざわざそれを言いに来たの?」
「いえいえ、滅相もございません」

目の前で繰り広げられる光景に、侍っていた男達は固唾を飲む。

「貴方言ったわよね、すぐにカロス様は見つかるって。それがどうしてまだ何も音沙汰がないの?!もう1週間は経ったわ!」
「皇女殿下の愛しの君は、思いのほか賢い方でいらっしゃるようで。呪いも上手く効果が発揮していないのか、はたまたどなたかご協力者がいるのか……」
「協力者ですって?!」
「あくまで可能性の話ですが、そのようなことも考えられるかと」
「もう一度カロス様の身辺を洗い直して。手がかりになるようなことがあったら言ってちょうだい」
「かしこまりました」

ゴードンが身をひいて男共に一瞥して部屋を出ると、すぐさま侍っていた男達は皇女の機嫌とりのために群がる。まるで女王蜂に群がる蜂のようだ。その様を見届けると、ゴードンは踵を返して廊下を早足で抜けていく。

「……まったく、面倒な姫だ」

(こちらの探し物でさえ見つかっていないと言うのに)

かつての翠玉の瞳を持った少女を思い出す。忽然と姿を消した少女は、自身の最高傑作と言っても過言ではない魔女だった。あの日、あの時、自分が目を離してしまったことによって逃してしまったことを思い出し、忌々しげに顔を歪める。

そもそも騎士の生け捕りなど難しい。腕が立つ騎士ならなおさらだ。とはいえ、拘束魔法さえ使えば生け捕るだけならできないこともない。だが、問題はその後である。

ある程度調教・・したと言うなら話は別だろうが、成人男性騎士など生け捕りしたところで言うことを聞くはずもない。

そもそも、逃げ出した時点で弱味になる部分などとっくに切り捨てているだろう。生け捕りにしたところで希望が叶うわけでなく、またどこかのタイミングで逃げ出されるのがオチだ。

しかしおかしな話である。逃げたカロスことアレスという騎士には逃げる道中で私、自ら魔力をなくす呪いをかけたはずなのに。

目に見えないその呪いは、魔力という名の生命力を奪い、動けなくさせるもの。生け捕りとのことで死に至らしめることはないが、倒れ寝込むほどの効果は持っているはずである。早々に捕まえられると見込んでいたが、まさか見つからないとは。

自室に戻り地図を広げる。手を地図に翳し、魔力の様子を見るがどこも変わった様子がない。

魔力を持たないものが移動しているのが映り込めばすぐさまわかるというのに、こうも見つからないとなると先程は口から出まかせ程度に言っていた「協力者」というのが現実的にいるのかもしれない。しかもそれは相当な魔力の持ち主に違いない。

「逃げればいいのに」

あの言葉が耳から離れない。そういえば彼女も皇女と同じように読書家だったな。特に恋愛ものや冒険譚が好きで、確か同じ絵物語を延々と読んでいたように思う。確か……

「英雄王レナードだったか」

ふと思い出し、何か手がかりになれば、と図書室に向かおうと部屋を出ると、従者に呼び止められる。

「王がお呼びです」
「わかりました、すぐに行きます」

娘に続き、今度は父親か。図書室へ向けた足を接見の間に変え、ゴードンは足早に向かった。
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