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第十二話 イメージ

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「とりあえず、お互い面倒だから名前で呼びましょう。私のことはシオンさんで」
「なぜ、さん付け。シオンでいいだろ」
「そこは、ほら、師匠と弟子の関係的に一線引いたほうがいいと思って」
「じゃあ、オレは王子で」
「はぁ? それこそ嫌よ。切羽詰まったときに『王子! 避けろ!』みたいなこと言うの嫌だもの」
「じゃあ、お互い呼び捨てでいいだろ」
「しょうがないわね。じゃあヴィル、今日からよろしく」
「よろしく」

 とりあえず礼儀として握手をしておく。ヒョロい見た目だけど王子だからか大司教とは違って男の人らしく、手はちょっと無骨だった。

「さて、大司教様のためにも頑張るわよ! 私が頑張れば、大司教様に気に入られて、そこからロマンスが……っ!」

 あの美しい瞳に見つめられながら、「さすがはシオンさん。よく頑張っていらっしゃいますね」と低い優しい声で褒められるところを想像する。

 うん、いい。実にいい!
 頭など撫でてもらったらなおいい!
 大司教様なら年齢的に私よりちょっと年上くらいだろうし、見た目も申し分ないし、何よりあの柔和な物腰が素敵だ。声も毎日聴いていたいくらいの美声だし、未来の旦那様候補としては……

「あー……妄想してるとこ悪いけど、大司教は既婚者だよ」
「……え?」
「しかも愛妻家。最近孫まで生まれたし」
「ま、孫……? え。あの見た目でおじいちゃん!? 冗談よね!?」
「エルフとのクオーターらしいよ。確か今年五十過ぎじゃなかったかな?」
「なんと!? わ、私の恋が……っ」
「残念だったな」

 そんなことがあるのだろうか。呆気なく散った我が恋。

「あぁ、もう信じられない。それならもっと早く言ってよ……っ!」
「言ったら聖女にならないって言い出すだろうから黙っとけって大臣が」
「くっそあの大臣め! 私の恋心を弄びやがって! いいもんねー、この旅でいい人見つけてやるもんねー!!」

 私が新たな恋に向けて意気込んでいると、驚いた表情をする王子。

「何よ」
「てっきり聖女辞めてやるって言うかと思ったから……」
「やるって言ったからにはやるわよ。一度した約束って大事にするタイプなの」
「そうなのか、意外だな」
「失礼ね! 本当、私のイメージどうなってんのよっ。もう、ついでだからこの旅でそういう汚名も返上してやる!」

 さすがにこんな偏見イメージ持たれたままでは癪に障る。というか、私の沽券に関わる。

 こうして私とヴィルの旅は始まったのだった。
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