無双代行人アズマ

鳥柄ささみ

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第一章 新人いびり

新人いびり⑤

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「どうだった? 初日は」
「まぁ、上々といったところかな」
「あら、珍しい」
「初日から相手方のギアが全開だったからね」

 「その話、詳しく教えなさいよ」とアズマの前の椅子に向かい合うように座り、ずいっと顔を近づけるアガツマ。
 今日のアガツマはオフということで、長い金色の髪は結ぶことなく垂らしたままだが、きっと人間が見たら誰もが見惚れ、美しいと思うことだろう。
 それをわかっているのか、わざと小首を傾げながら肘をつき、上目遣いで彼女は妖艶さを演出していた。

「ボクにわざわざそんな顔をしなくていいよ。キミの顔は見慣れているからね」
「あら、失礼ね。誰もが見惚れる美貌になんという口の聞き方かしら」
「美貌というなら今のボクにだって十分備わっているし、なんならキミよりも綺麗に化けることだってできるけど?」

 アズマがアガツマを見つめると、すぐさまお手上げとばかりに手を上げるアガツマ。
 そして、ちょっと不貞腐れるように頬を膨らませてアズマを恨めしげな瞳で見る。

「もう、そんなことわかってるわよ。ちょっと冗談を言っただけじゃない」
「はは、今話題のマウンティングというのを取ってみた」
「あー、あれ? 面倒なやつ。人間も面倒な生き物よねぇ。そんなもの当たり前に持ち合わせてたら自慢する必要すらないのに」
「まぁね。でも、そこが人間の面白いところさ」
「で、脱線してるけど、今日の報告は?」
「あぁ、悪い。今話すよ」

 アズマが軽口を挟みながらも今日の顛末を話せば、ふぅん、とアガツマは口元を尖らせた。

「随分とそこの社長を気に入ったのね。アドバイスまでするなんて」
「彼のオーラはとても美味しそうだからね。たまには負のオーラではなく善のオーラも食べたいのさ」
「出た、美食家気取り」
「気取りじゃない。僕は美食家のつもりだよ?」
「そ? まぁ、いいけど。とにかく、その二人を今回調べればいいわけ?」
「いや、キミには別の人物を調べてもらいたい」

 そう言ってアズマが印を結び「映すリフレクト」と言葉を発すると、目の前に真野の顔が映った。

「真野恭子、彼女の身辺を調べてほしい」
「えー、女~? 男がよかったわ」
「もし手が空いたら根津のほうもやってもらってもかまわないよ。でも、まずは真野のほうをお願いしたい」
「しょうがないわね。オーケー、引き受けてあげる。報酬の用意ちゃんとしておいてよね」
「もちろん。働きに見合った報酬を用意させてもらうよ」
「ふふ、よろしく~」

 アガツマは舌舐めずりすると、そのままどろりと溶けるようにこの場から消え去る。

(さて、材料はいくつ集まるのか)

 証拠が多ければ多いほど彼らの絶望は膨れ上がる。

(根津と田町は一体どんな表情を見せてくれるのか……)

 彼らの絶望する表情を想像するだけで、震えるほど堪らないアズマもつい恍惚の笑みを浮かべる。
 これまでで最高の絶望感の味を味わえるかもしれないと思うと、アズマは興奮せずにはいられなかった。


 ◇


 朝、事務所に入り挨拶しながら机へと向かうとそこにはゴミの山が積まれ、いかにも嫌がらせしてますといった状態になっていた。
 周りを見ると、パッと目を逸らされる。
 明らかに気づいてはいるが、言えない雰囲気といった状態。
 どうにも遠巻きにされているようで、アズマが来るなり空気が澱んだように感じた。

(うーん、まさにいじめって感じ)

 毎朝このような状態ではそのうち機能しなくなるな、と分析しながら机の上のゴミを片付け始めたときだった。

「てめぇ、遅いんだよ。新人が上司や先輩社員よりくっそ遅いとか舐めてんのか!? あぁ!? って、うっわ、くっせぇ。吾妻、ゴミくせぇ」
「おはようございます、根津さん」
「……っ、挨拶なんてする前にさっさとそれ片付けろよ! 臭くて仕事になんねーからな」

 どこからともなくやってきたと思えば、相変わらずよく喋る根津。
 しかもアズマが挨拶するも、それだけ言うとどこかに行ってしまった。
 一体何をしに来たのか、と呆れつつもアズマは片付けをしていく。
 できれば能力を行使して手早く片付けたいが、そうすると知りたい情報が手に入らないのであえてゆっくりと手作業で片付けをする。
 そして粗方片付け終わると、根津が再び戻ってきた。

「そういや吾妻、お前T大卒なんだって?」

(やっぱり履歴書回し読みでもしてるのか)

 予想通りの展開に、内心ほくそ笑むアズマ。
 自分の思い通りに物事が進むときほど気持ちのいいときはなかった。

「はい」
「うっわ、ウケる。勉強だけできたバカってやつ? てか、T大なのにハロワからこんな会社に来るなんて相当やらかしたのか?」

(うーん、自分がいる会社をよくこんな会社なんて言えるな。むしろブーメラン刺さってるけどいいのだろうか)

 そんなことを思ってるなどおくびにも出さずに、おどおどしながら「親の介護をしてまして、そのせいで就職できず……」と根津が突っ込んできそうなワードをあえて出してみる。

「うわっマジかよ、あー、もしかして今流行りの高齢出産ってやつ? てことはお前の両親ジジイとババアなのか、ウケる。って、え、何? もう死んだからここに来たの?」

(いくら仕向けたとはいえ、こんなことをペラペラと吐ける人間がこの世にいるのか)

 さすがに暴言にしても酷すぎるだろ、とアズマが呆気に取られていると、不意に胸ぐらを掴まれる。

「何だよ、その態度! 俺に文句あるってんのか!? あぁ?」
「いいいいいえ、別に」
「てめぇみてぇなクズに仕事教えてやってんだからなぁ、もっと俺を敬えよ!」

 ガタンっと、机に叩きつけるように根津がアズマを叩きつける。
 周りのみんなは気づいているにも関わらず見て見ぬフリ。
 恐らくこのようなことが常態化しているのだろう、鬱屈とした空気が漂い、皆の士気が落ちていることを感じたときだった。

「な、何の音だ!?」

 声と共に入ってくる人物にみんなの視線が集まる。
 そこには、滅多に現れない社長の烏丸が事務所に顔を出していた。
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