7 / 34
第一章 新人いびり
新人いびり⑥
しおりを挟む
「しゃ、社長! め、珍しいですね、こちらに来るなんて!」
「あぁ、たまにはちゃんと事務所にも顔を出そうと思ったんだ。どうかな、仕事の進捗は。吾妻くんも仕事には慣れてくれたかい?」
アズマが口を開けば、「おい、てめぇ、余計なこと言うんじゃねぇぞ」と凄んでくる根津。
やはり小者というべきか、社長の前では愛想よく振る舞っているらしい。
「はい、おかげさまで」
「そうか。それはよかった。何かあったらすぐに言ってね。改善できることがあればするから」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると烏丸は満足したのか、再び自室のほうへと戻ってしまう。
アズマ以外と大して会話はしていないものの、助言通りに事務所に来たことは一歩前進であり、この調子で状況を確認できるようになればいいとアズマは思っていた。
「お前、社長にチクったらただじゃすまねぇからな」
根津は気が削がれたのか苦々しくそれだけ言うと、そのまま自分の机へと戻る。
そして相変わらずアズマに仕事を教える気はないようだ。
(まぁ、勝手にやらせてもらうからいいけど。そういえば、田町がいないなぁ)
チラッと周りを見れば、田町だけでなく真野もいないらしい。
アズマが遠視をしてみても彼らのオーラを捉えることができず、この周辺にはいないことがわかる。
ボードを見ても「出社」となっているが、どういうことなのだろうか。
(いや、なんとなく想像はつくな)
アズマはある想定をしながら、今日中にでもアガツマがある程度調べてくれているだろうと、それ以上彼らのことを考えることを放棄した。
そして、根津は相変わらず資料整理やコピー、企画書のホチキス留めなど雑務ばかりをアズマに押しつけてくる。
口を開けば、「あぁ?」だの「ちっ」だのとりつく島さえなく、あからさまな不機嫌アピールに「彼は幼児なのか?」と内心呆れるアズマ。
しかも資料整理などを指示するくせにやり方などは一切教えず、周りに聞こうとしても妨害され、正直飽き飽きしていた。
「さっさとやれよ、のろま」
「わかりました」
ことごとく邪魔してるのに随分な物言いだなぁ、と思いながら資料室に入るアズマ。
そして、誰もいないからいいだろう、と印を結び「回帰」と唱えると資料はふわっと宙に浮き、まるで各々が意思を持ったかのように元の位置へと綺麗に戻っていく。
アズマは戻っている様子を見ながら「元々こんなに乱れていたのか、わざとぐちゃぐちゃにしたのか。どっちにしろ効率が悪い」と呆れつつ、また適当に時間を潰してから事務所にしれっと戻り「終わりました」と根津に告げた。
するとすぐさま資料室へと急いで入る根津。
そのあとにアズマも続いて入ると、綺麗に整頓されている状態に目を見張り、「てめぇ、どうやった!?」と凄まれるも「整理しただけです」と答えると、ぐぬぬぬと何か言いたげな表情のまま根津は資料室を出て行く。
(こんな毎日生産性のないことの繰り返しだったら、そりゃ誰だって辞めるよね)
まずは根津からどうにかしないとな、と思いながら、アズマはまた自らの仕事をするために席に戻るのだった。
◇
「あの、大丈夫ですか?」
昼食時、さすがに根津もそこまで見張っているつもりはないのだろう。
アズマが一人昼休憩をとっているとおずおずと一人の男がやってきた。
アズマが「確か、彼は……」と逡巡していると、相手は察したのか「ボクは清田吾郎だよ」と名乗った。
「すみません、名前を覚えてなくて」
「いや、いいんだ。そもそも自己紹介すらちゃんとしてないし。恥ずかしいことだがここだけの話、最近じゃ社内はずっとこんな感じでね。ボク達も新人の名前を覚える前に辞めちゃうような状態で」
「そうだったんですね」
「でも吾妻くんは凄いね。あ、いや、凄いっていうのもおかしいか。なんていうか、今までよりも手酷くやられてるのにあまり気にしてないように見えるんだけど……」
「まぁ、どうにかはなってるので」
「そう思えるのが凄いよ」
清田はとても素直な人間なのだろう。
烏丸と少し似ているタイプの人間なのかもしれない。
気弱な部分と素直な部分を兼ね備えたタイプのようにアズマは思った。
(せっかく接触してきたなら色々と聞いておいたほうがよさそうか)
相手から話しかけてきてくれたなら好都合だと、アズマは清田に質問することにした。
というのも、調査する上で情報は多いに越したことはない。
特に様々な角度からの視点は物事を判断する上でとても大事であるからだ。
「前からこの会社はこんな感じなんですか?」
「あー……、ボクもそこまで長くはないんだけど、新人いびりが始まったのはここ最近、といった感じかな」
「きっかけとか何かあったんです?」
「うーん、大きな声で言えないんだけど、田町課長が来てからなんだよねぇ。森本部長が他社から引っ張ってきたんだけど、仕事はできるって言われてたけどどうもあんまり……って感じで。でも森本部長の身内らしくてあんまりみんな強く出られないんだ」
「そうなんですね。でも、なぜそれを私に?」
アズマにとって素直に疑問だった。
こういう情報は喋れば喋るほど身の危険が及ぶかもしれないものだ。
それなのに新人でまだよく知らない相手に情報を出すというのは、ただ口が軽いか信用を置いているかのどちらかだろう。
「何でだろう? ……アズマくんは真面目そうだし、なんか知っておいたほうがいいような気がして。実は恥ずかしい話、ボクも結構前までいじめられてたんだよね。そのあとに新人が来たからか、ボクのいじめは終わったんだけど。だからちょっとでも力になれたらいいな、とは思ってたんだ」
「そうだったんですね」
「全然力になれてなくて申し訳ないけどね。ボクも根津さんには酷いことを結構やられててちょっとトラウマが」
そう話す清田の表情は一瞬で曇る。
相当嫌なことをされたのか身体は震え、清田のオーラが一気に澱んだ。
ここまで恐怖を植えつけるというのは相当酷いことをされたのだろうとアズマは思った。
「いえ、自衛することも大事ですからね。でも、社長ってそういうこと知ってるんですか?」
「いや、社長は知らないんじゃないかな? 社長は悪い人じゃないんだろうけど、仕事以外にはあまり関心がなさそうだし、あまり接点がないから。今朝来たのだってかなり珍しいからね」
(うむ。ということはやはり僕の見立ては悪くなかったということか)
新たな情報を得つつ、自分の予測は正しかったとアズマは納得した。
(この調子で風通しをよくしつつ、彼らをまとめて処分、と。このペースなら任期満了時にはお釣りが来そうなほどの収穫になるかもしれない)
久々に上々の仕事だと内心ほくそ笑むアズマ。
アズマの予想では今回の収穫は三人。
さて、彼らをどう料理しようか、とアズマは心の中で舌舐めずりするのであった。
「あぁ、たまにはちゃんと事務所にも顔を出そうと思ったんだ。どうかな、仕事の進捗は。吾妻くんも仕事には慣れてくれたかい?」
アズマが口を開けば、「おい、てめぇ、余計なこと言うんじゃねぇぞ」と凄んでくる根津。
やはり小者というべきか、社長の前では愛想よく振る舞っているらしい。
「はい、おかげさまで」
「そうか。それはよかった。何かあったらすぐに言ってね。改善できることがあればするから」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると烏丸は満足したのか、再び自室のほうへと戻ってしまう。
アズマ以外と大して会話はしていないものの、助言通りに事務所に来たことは一歩前進であり、この調子で状況を確認できるようになればいいとアズマは思っていた。
「お前、社長にチクったらただじゃすまねぇからな」
根津は気が削がれたのか苦々しくそれだけ言うと、そのまま自分の机へと戻る。
そして相変わらずアズマに仕事を教える気はないようだ。
(まぁ、勝手にやらせてもらうからいいけど。そういえば、田町がいないなぁ)
チラッと周りを見れば、田町だけでなく真野もいないらしい。
アズマが遠視をしてみても彼らのオーラを捉えることができず、この周辺にはいないことがわかる。
ボードを見ても「出社」となっているが、どういうことなのだろうか。
(いや、なんとなく想像はつくな)
アズマはある想定をしながら、今日中にでもアガツマがある程度調べてくれているだろうと、それ以上彼らのことを考えることを放棄した。
そして、根津は相変わらず資料整理やコピー、企画書のホチキス留めなど雑務ばかりをアズマに押しつけてくる。
口を開けば、「あぁ?」だの「ちっ」だのとりつく島さえなく、あからさまな不機嫌アピールに「彼は幼児なのか?」と内心呆れるアズマ。
しかも資料整理などを指示するくせにやり方などは一切教えず、周りに聞こうとしても妨害され、正直飽き飽きしていた。
「さっさとやれよ、のろま」
「わかりました」
ことごとく邪魔してるのに随分な物言いだなぁ、と思いながら資料室に入るアズマ。
そして、誰もいないからいいだろう、と印を結び「回帰」と唱えると資料はふわっと宙に浮き、まるで各々が意思を持ったかのように元の位置へと綺麗に戻っていく。
アズマは戻っている様子を見ながら「元々こんなに乱れていたのか、わざとぐちゃぐちゃにしたのか。どっちにしろ効率が悪い」と呆れつつ、また適当に時間を潰してから事務所にしれっと戻り「終わりました」と根津に告げた。
するとすぐさま資料室へと急いで入る根津。
そのあとにアズマも続いて入ると、綺麗に整頓されている状態に目を見張り、「てめぇ、どうやった!?」と凄まれるも「整理しただけです」と答えると、ぐぬぬぬと何か言いたげな表情のまま根津は資料室を出て行く。
(こんな毎日生産性のないことの繰り返しだったら、そりゃ誰だって辞めるよね)
まずは根津からどうにかしないとな、と思いながら、アズマはまた自らの仕事をするために席に戻るのだった。
◇
「あの、大丈夫ですか?」
昼食時、さすがに根津もそこまで見張っているつもりはないのだろう。
アズマが一人昼休憩をとっているとおずおずと一人の男がやってきた。
アズマが「確か、彼は……」と逡巡していると、相手は察したのか「ボクは清田吾郎だよ」と名乗った。
「すみません、名前を覚えてなくて」
「いや、いいんだ。そもそも自己紹介すらちゃんとしてないし。恥ずかしいことだがここだけの話、最近じゃ社内はずっとこんな感じでね。ボク達も新人の名前を覚える前に辞めちゃうような状態で」
「そうだったんですね」
「でも吾妻くんは凄いね。あ、いや、凄いっていうのもおかしいか。なんていうか、今までよりも手酷くやられてるのにあまり気にしてないように見えるんだけど……」
「まぁ、どうにかはなってるので」
「そう思えるのが凄いよ」
清田はとても素直な人間なのだろう。
烏丸と少し似ているタイプの人間なのかもしれない。
気弱な部分と素直な部分を兼ね備えたタイプのようにアズマは思った。
(せっかく接触してきたなら色々と聞いておいたほうがよさそうか)
相手から話しかけてきてくれたなら好都合だと、アズマは清田に質問することにした。
というのも、調査する上で情報は多いに越したことはない。
特に様々な角度からの視点は物事を判断する上でとても大事であるからだ。
「前からこの会社はこんな感じなんですか?」
「あー……、ボクもそこまで長くはないんだけど、新人いびりが始まったのはここ最近、といった感じかな」
「きっかけとか何かあったんです?」
「うーん、大きな声で言えないんだけど、田町課長が来てからなんだよねぇ。森本部長が他社から引っ張ってきたんだけど、仕事はできるって言われてたけどどうもあんまり……って感じで。でも森本部長の身内らしくてあんまりみんな強く出られないんだ」
「そうなんですね。でも、なぜそれを私に?」
アズマにとって素直に疑問だった。
こういう情報は喋れば喋るほど身の危険が及ぶかもしれないものだ。
それなのに新人でまだよく知らない相手に情報を出すというのは、ただ口が軽いか信用を置いているかのどちらかだろう。
「何でだろう? ……アズマくんは真面目そうだし、なんか知っておいたほうがいいような気がして。実は恥ずかしい話、ボクも結構前までいじめられてたんだよね。そのあとに新人が来たからか、ボクのいじめは終わったんだけど。だからちょっとでも力になれたらいいな、とは思ってたんだ」
「そうだったんですね」
「全然力になれてなくて申し訳ないけどね。ボクも根津さんには酷いことを結構やられててちょっとトラウマが」
そう話す清田の表情は一瞬で曇る。
相当嫌なことをされたのか身体は震え、清田のオーラが一気に澱んだ。
ここまで恐怖を植えつけるというのは相当酷いことをされたのだろうとアズマは思った。
「いえ、自衛することも大事ですからね。でも、社長ってそういうこと知ってるんですか?」
「いや、社長は知らないんじゃないかな? 社長は悪い人じゃないんだろうけど、仕事以外にはあまり関心がなさそうだし、あまり接点がないから。今朝来たのだってかなり珍しいからね」
(うむ。ということはやはり僕の見立ては悪くなかったということか)
新たな情報を得つつ、自分の予測は正しかったとアズマは納得した。
(この調子で風通しをよくしつつ、彼らをまとめて処分、と。このペースなら任期満了時にはお釣りが来そうなほどの収穫になるかもしれない)
久々に上々の仕事だと内心ほくそ笑むアズマ。
アズマの予想では今回の収穫は三人。
さて、彼らをどう料理しようか、とアズマは心の中で舌舐めずりするのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる