無双代行人アズマ

鳥柄ささみ

文字の大きさ
9 / 34
第一章 新人いびり

新人いびり⑧

しおりを挟む
「コンペ、ですか」
「えぇ、社外コンペに向けて社内一丸となってそのコンペを勝ち取る、というていでいかがでしょうか?」
「え、えぇ、いいですけど。でも、どこの企業が……? コンペっていっても偽、なんですよね?」
「えぇ、偽ではありますが、その辺りの仕込みはこちらである程度させていただきますのでご安心を」

 烏丸は「ううぅん」と大きく唸ったあとに、「わかりました」と頷く。
 こちらの意図は読めていないとしても、ある程度は信用してくれているのだろうとアズマは認識して、満足気に微笑んだ。

「ところで、その……新人いびりに関して、その後はいかがでしょうか?」
「つつがなく調査は進んでますよ。ご安心ください。あぁ、そうそう、昨日烏丸さまが事務所に顔出ししてくださったおかげで、ちょっと事務所内の空気がよくなりましたよ。今後も引き続きよろしくお願いします」
「え、そうなんですか?」
「はい。烏丸さまがいらしたことでいい意味で緊張感が生まれたように思います」
「え、本当ですか?」

 烏丸は自分が事務所に顔を出しただけでそんな変化があったのかと驚く。
 と同時に、言われた通りにしただけなのにそれだけで効果があるなんて、とアズマのアドバイスが的確だったことに感心した。

「夫婦や親子、友人や同僚などどんな人関係の人でもコミニュケーションを取る上で信頼を得るには、まずお互いに興味を持つことが大切です。また、その関係に上下があるならば、できたことは褒める、できなかったことに関しては問題点や原因を探りつつ、改善するよう同じように努力する。その上で、共感したり理解したりすることが大事なのではないかと。そのためには何よりもまず挨拶や礼節はもちろんのこと、コミュニケーションとして最低限の会話をしておいて損はないと思いますよ」
「な、なるほど」

 実際にはそんなこと経験もしたことないので知るよしもないのだが、それらしいことをもっともらしくペラペラと話すアズマ。
 こういうところがペテン師のようだとアガツマに言われるゆえんだが、事実人間をよく観察してるアズマにとって、相手によってどのアドバイスが適切かの判断は心得ていた。

「そ、そうですね。私は仕事のことばかり夢中で……」
「気づけたなら重畳です。少しずつステップアップしていきましょう」
「ありがとうございます。今までは闇雲に頑張ろうと足掻いてましたが、空回りばかりで。ですが、最近なんだか私自身もちょっとずつ良い方向に向かっているような気がしてまして。全部アズマさんのおかげです」
「いえいえ、私は思ったことを言っているだけですから。実行するのは烏丸さま自身です。まず素直に人の意見を聞けて意思決定ができるというのは優れた能力だと思いますよ」
「そ、そうでしょうか。……この年で褒められるというのは些か恥ずかしいものですね。でも嬉しいです」

 烏丸は多少照れながらも、意識の向上が窺えた。
 オーラは以前に比べて覇気があり、気分も高揚しているようだ。

「では早速、コンペについての詳細な説明をしますね。こちらに資料が」
「え!? も、もうご用意されてるんですか!?」
「えぇ。人生とは儚いものですからね、特に人間にとっては。時間は有意義に使ってこそですよ」

 アズマがにっこりと微笑む。

(さぁ、ここから一気に仕掛けていこうか)


 ◇


「コンペ、ですか」
「あぁ、大手企業のコンペに参加しようと思っているんだ。今回のコンペで優勝すれば我が社の飛躍へ大きな足掛かりとなるから、ぜひともみんなが一丸となって頑張ってほしい」

(朝レクチャーしたわりにはすらすら言えてるし、いい感じだ)

 烏丸が全社員を集めての朝礼。
 普段ないことにみんなそわそわしつつも、烏丸の話した内容にそれぞれ複雑な心境が見え隠れしているのをアズマは察しながら、彼の言葉を聞いていた。

「社長、コンペの相手ってどこですか?」
「それが、今話題のN社だ」
「N社!?」

 ザワザワっと騒つく事務所内。
 N社という会社は実際は存在していないが、事前にアズマが彼ら全員に刷り込みをしてあるのでみんなN社が大企業であると思い込み、まさかそんな大企業からの受注を受けられるかもしれない、と一斉に沸き立つ。
 今までにないチャンスに、まだここで真摯に働いている社員達は興奮している様子だった。

「このコンペを勝ち取るためのプロジェクトのリーダーを田町くんとする。みんな、田町くんの指示に従って頑張ってほしい」
「え、そんな大役……私なんかでいいんでしょうか」
「もちろんだとも。キミには大いに期待してるからねぇ! 田町くん、頑張ってくれたまえ」

 そう発破をかけるのは森本部長だ。
 彼は自分がカラスマ工業に田町を引っ張ってきたため、彼の成績アップは必然的に自分の評価となる。
 そのため、期待を込めて田町を信用しているのがよくわかった。
 最も身内というのが本当ならば、そういうのも含めての期待もあるのだろうが。

「わかりました、頑張ります!」
「では、田町くん早速チームメンバーを見繕ってくれ」
「わかりました」
「あぁ、だが一つだけメンバーを選ぶ上でお願いしたいことがあるのだがいいだろうか?」
「なんでしょうか?」
「このコンペの内容に関して吾妻くんの専攻してた分野が組み込まれているそうで、まだ吾妻くんは新人ではあるが、ぜひとも彼をこのコンペチームに起用してもらいたい」
「え、吾妻くんを、ですか?」

 烏丸の言葉に、田町の顔色が変わる。
 恐らく先日の一件でアズマに不信感があるのだろう、一瞬アズマを見る表情が険しくなった。
 そして、あからさまに不穏な空気を発する田町。
 この事務所内の空気感とは明らかな温度差を感じ、オーラも一気に澱み始める。

「あぁ、よろしく頼んだよ」
「は、はい、わかりました。ご期待に沿えるよう頑張ります」
「みんなもぜひ頑張ってくれ。今回頑張ってくれた場合は褒賞も出そう」

 烏丸の言葉に社員の活気が戻る。
 ……田町を除いて。
 そんな様子を観察しながら、アズマは仕込みは大成功だと内心ほくそ笑むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...