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第一章 新人いびり
新人いびり⑪
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「吾妻くん、これ頼んだよ」
「わかりました」
「あぁ、それが終わったら、この資料のデータまとめてグラフにしといて」
「はい」
「終わったら声かけしてね。私はちょっと取引先に行ってくる」
「わかりました」
(全部僕に押しつけるつもりか。それで自分は真野と密会、と。随分と考えや行動が浅いというかなんというか……)
コンペのために発足したチームだが、メインで動く専任メンバーが五人選抜され、そのチームリーダーが田町だ。
皆それぞれ仕事を割り振られているのだが、どう考えてもアズマにだけ仕事が偏っており、そもそも仕事の内容等々まともに根津から教えられていないにも関わらずこの仕打ちは普通であれば無謀としか言いようがない。
しかも社運をかけて、ということでそれなりにしっかりとしたプレゼン用の資料作成をしなければいけないというのに、それすらもいくらコンペ内容を専攻していたというていとはいえ、入社したばかりの新人であるアズマに頼むというのは異様であった。
そのため、メンバーに選ばれた清田も含め周りがフォローしようとするも、「これは吾妻くんに頼んだことだから。吾妻くんは専門らしいからこの案件に詳しいだろうからお願いしているんだよ。それとも何? キミの仕事は終わったの?」と田町は圧をかけてくる始末。
さすがにそこまで言われては手出しができないと、メンバーはアズマの仕事のフォローができない状態であった。
(わざと僕に仕事を集中させて、できなかったら叱責。できたらできたで自分の手柄っていうことだろうな。とことん浅知恵というかなんというか)
「吾妻くん、大丈夫?」
「えぇ、どうにか」
田町が事務所を出たのを見計らって清田がアズマに声をかける。
なんだかんだと清田はアズマのことを気にかけてくれているようだった。
「でも、ここんところずっと無茶振りされてるよね? さすがにこの采配はいくらなんでも酷すぎるよ」
清田が田町に憤っていると、先程まで遠巻きに見ていたはずの他のメンバーもアズマのところに集まってくる。
根津がいなくなってからというもの、みんな今までの重苦しい空気から解放され、事務所内は少しずつ明るくなっていた。
しかも烏丸が程々に顔出しをするようになったせいか、どうにも田町はそれが居心地悪く感じるようで最近特に事務所を抜けることが多い。
だが、幸か不幸かそのおかげで社員同士の会話も増え、いい意味で賑やかで活気ある職場と変化してきていた。
「お気遣いありがとうございます」
「ううん。ボクも声かけくらいしかできなくてごめんね」
「いえ、そのお心遣いだけでも嬉しいです」
「吾妻くんは本当礼儀正しいよね~。何されてもちゃんとやってて偉いよ。田町課長にこんなにもこき使われてるのに来てて偉いし」
「本当本当。てか、本当困ったら言ってね? 手伝うからね!」
「ありがとうございます」
周りからの心象も上々のようで、「僕だって人間らしい振る舞いはできるんだぞ」と帰ってアガツマに自慢しようとアズマが思っていたときだった。
不意にメンバーの一人が「そういえばさ」と話題を変える。
「それにしても田町課長、最近事務所にいないこと多いよね。取引先ってどこ行ってるんだろ」
「元からですよー、あの人。真野さん含めてしょっちゅういなくなってます」
「えー、そうなの!?」
「あ、言われてみれば確かに」
「え、あの二人そういう関係だったの!??」
「えー、気づかなかったんですか~?」
「気づかないよぉ、いつも根津さんがいてそれどころじゃなかったし」
(なるほど、さすがに気づいているメンバーもいるのか)
やはりこれだけの社員がいたら勘のいい人物は彼らのことを気づくのだろう。
今までは個々人で仕事していたが、こうして集まるとそういう情報も共有しやすいのだということを学ぶアズマ。
(それにしても、結構みんななんだかんだとサボらないところが偉いな)
田町という監視がいないのに、みんな会話をしながらも手を動かしているところを見ると、彼らはそれなりに仕事ができるのがわかる。
不景気に就職難の組み合わせもあってなかなか退職できなかったそうだが、元々仕事はできる人達なのだろう。
彼らのおかげであの二人が引っ掻き回していたにも関わらず、この会社は今までもっていたのかもしれない。
「てか、社長と最近話してて思ったんだけど、案外わからない人じゃなくてびっくりした」
「うんうん。もっととっつきにくい人かと思ってたけど、ただ物知らずというか世間知らずというか、自分の業務以外全然知らなかっただけっぽかったよね」
「あれもある意味仕事バカというのか。仕事にしか興味なさそうだったし」
「でも、結構言ったら改善してくれること増えて助かったよ~」
言いながら社員達がそれぞれ個包装の包み紙を開け、菓子を口に入れる。
これも仕事中に効率が上がるからと提案した置き菓子の導入なのだが、これが結構好評なのだ。
他にもコーヒーサーバーなどを導入したり、資料管理をもっと効率化するために紙を減らす提案をしたりなど働きやすい環境づくりのため烏丸に直接案件を持っていく人も増えてきて、以前に比べてだいぶ風通しがよくなったように感じる。
おまけに給料も見直しが入るそうで、それに合わせて査定なども一新するらしく、環境改善によりみんなの士気が上がっているようだ。
「いやぁ、でも根津くんいなくなっただけでこんなに改善するなんて」
「確かに。めっちゃブラックだったのがちょっとずつ改善してきたよね」
「でも、田町課長が新査定に関して難色を示してるらしいよ」
「えーー、何で? 待遇改善いいじゃん~」
「さぁ、よくわかんない。何でだろうね~?」
(うん? どういうことだろう。待遇改善されると何か困ったことでもあるのだろうか)
あとでアガツマ使って調べさせよう、と思いながら手を動かすアズマ。
かれこれ何百年も生きているが、人類の進歩は凄いなぁと感心しつつ、ここ最近学んだエクセルなどを駆使しつつアズマはグラフなどを作成していくのだった。
「わかりました」
「あぁ、それが終わったら、この資料のデータまとめてグラフにしといて」
「はい」
「終わったら声かけしてね。私はちょっと取引先に行ってくる」
「わかりました」
(全部僕に押しつけるつもりか。それで自分は真野と密会、と。随分と考えや行動が浅いというかなんというか……)
コンペのために発足したチームだが、メインで動く専任メンバーが五人選抜され、そのチームリーダーが田町だ。
皆それぞれ仕事を割り振られているのだが、どう考えてもアズマにだけ仕事が偏っており、そもそも仕事の内容等々まともに根津から教えられていないにも関わらずこの仕打ちは普通であれば無謀としか言いようがない。
しかも社運をかけて、ということでそれなりにしっかりとしたプレゼン用の資料作成をしなければいけないというのに、それすらもいくらコンペ内容を専攻していたというていとはいえ、入社したばかりの新人であるアズマに頼むというのは異様であった。
そのため、メンバーに選ばれた清田も含め周りがフォローしようとするも、「これは吾妻くんに頼んだことだから。吾妻くんは専門らしいからこの案件に詳しいだろうからお願いしているんだよ。それとも何? キミの仕事は終わったの?」と田町は圧をかけてくる始末。
さすがにそこまで言われては手出しができないと、メンバーはアズマの仕事のフォローができない状態であった。
(わざと僕に仕事を集中させて、できなかったら叱責。できたらできたで自分の手柄っていうことだろうな。とことん浅知恵というかなんというか)
「吾妻くん、大丈夫?」
「えぇ、どうにか」
田町が事務所を出たのを見計らって清田がアズマに声をかける。
なんだかんだと清田はアズマのことを気にかけてくれているようだった。
「でも、ここんところずっと無茶振りされてるよね? さすがにこの采配はいくらなんでも酷すぎるよ」
清田が田町に憤っていると、先程まで遠巻きに見ていたはずの他のメンバーもアズマのところに集まってくる。
根津がいなくなってからというもの、みんな今までの重苦しい空気から解放され、事務所内は少しずつ明るくなっていた。
しかも烏丸が程々に顔出しをするようになったせいか、どうにも田町はそれが居心地悪く感じるようで最近特に事務所を抜けることが多い。
だが、幸か不幸かそのおかげで社員同士の会話も増え、いい意味で賑やかで活気ある職場と変化してきていた。
「お気遣いありがとうございます」
「ううん。ボクも声かけくらいしかできなくてごめんね」
「いえ、そのお心遣いだけでも嬉しいです」
「吾妻くんは本当礼儀正しいよね~。何されてもちゃんとやってて偉いよ。田町課長にこんなにもこき使われてるのに来てて偉いし」
「本当本当。てか、本当困ったら言ってね? 手伝うからね!」
「ありがとうございます」
周りからの心象も上々のようで、「僕だって人間らしい振る舞いはできるんだぞ」と帰ってアガツマに自慢しようとアズマが思っていたときだった。
不意にメンバーの一人が「そういえばさ」と話題を変える。
「それにしても田町課長、最近事務所にいないこと多いよね。取引先ってどこ行ってるんだろ」
「元からですよー、あの人。真野さん含めてしょっちゅういなくなってます」
「えー、そうなの!?」
「あ、言われてみれば確かに」
「え、あの二人そういう関係だったの!??」
「えー、気づかなかったんですか~?」
「気づかないよぉ、いつも根津さんがいてそれどころじゃなかったし」
(なるほど、さすがに気づいているメンバーもいるのか)
やはりこれだけの社員がいたら勘のいい人物は彼らのことを気づくのだろう。
今までは個々人で仕事していたが、こうして集まるとそういう情報も共有しやすいのだということを学ぶアズマ。
(それにしても、結構みんななんだかんだとサボらないところが偉いな)
田町という監視がいないのに、みんな会話をしながらも手を動かしているところを見ると、彼らはそれなりに仕事ができるのがわかる。
不景気に就職難の組み合わせもあってなかなか退職できなかったそうだが、元々仕事はできる人達なのだろう。
彼らのおかげであの二人が引っ掻き回していたにも関わらず、この会社は今までもっていたのかもしれない。
「てか、社長と最近話してて思ったんだけど、案外わからない人じゃなくてびっくりした」
「うんうん。もっととっつきにくい人かと思ってたけど、ただ物知らずというか世間知らずというか、自分の業務以外全然知らなかっただけっぽかったよね」
「あれもある意味仕事バカというのか。仕事にしか興味なさそうだったし」
「でも、結構言ったら改善してくれること増えて助かったよ~」
言いながら社員達がそれぞれ個包装の包み紙を開け、菓子を口に入れる。
これも仕事中に効率が上がるからと提案した置き菓子の導入なのだが、これが結構好評なのだ。
他にもコーヒーサーバーなどを導入したり、資料管理をもっと効率化するために紙を減らす提案をしたりなど働きやすい環境づくりのため烏丸に直接案件を持っていく人も増えてきて、以前に比べてだいぶ風通しがよくなったように感じる。
おまけに給料も見直しが入るそうで、それに合わせて査定なども一新するらしく、環境改善によりみんなの士気が上がっているようだ。
「いやぁ、でも根津くんいなくなっただけでこんなに改善するなんて」
「確かに。めっちゃブラックだったのがちょっとずつ改善してきたよね」
「でも、田町課長が新査定に関して難色を示してるらしいよ」
「えーー、何で? 待遇改善いいじゃん~」
「さぁ、よくわかんない。何でだろうね~?」
(うん? どういうことだろう。待遇改善されると何か困ったことでもあるのだろうか)
あとでアガツマ使って調べさせよう、と思いながら手を動かすアズマ。
かれこれ何百年も生きているが、人類の進歩は凄いなぁと感心しつつ、ここ最近学んだエクセルなどを駆使しつつアズマはグラフなどを作成していくのだった。
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