13 / 34
第一章 新人いびり
新人いびり⑫
しおりを挟む
「はい、これ」
ことり、と机に置かれる物体。
アガツマはご機嫌なのかにっこり笑うと、そのままアズマの向かいの席に腰掛けた。
「うん? 何これ、ボイスレコーダー?」
「えぇ。この前美味しい魂いただいたから、ちょっとしたサービス」
アズマが再生ボタンを押すと、再生するなり男女の言い争う声。
普段と違う声とは言えど、聞き慣れた声にアズマはすぐに発声者が誰かわかった。
「これって、田町と真野?」
「大正解~! 結構面白いとこ撮れてるから、よく内容聞いてちょうだい」
アガツマに言われて音声に耳を傾ける。
__どういうことよっ!
__誤解だっ! お願いだからそんなキンキン喚かないでくれ。彼女とは別にそういうわけじゃ……っ
__そういうわけじゃなかったら、どういうわけなのよォーーーーー!!
「なんかすごいことになってるね。これって、あの……シャウトって言うんだっけ?」
「遠からず、近からず? もうケモノよケモノ。終始真野が咆哮してる状態」
「ここまで人間って叫べるものなんだねぇ」
呑気に感心しているとヒートアップする言い合いの中に「この人奥さんじゃないでしょーー!? 誰よ、この女!!」というワードを拾って「もしかして……」とアガツマを見れば、「さすがアズマ、バレちゃった?」と悪びれもせずに白状するアガツマ。
ニヤニヤする彼女になんというか、まさかここまで大サービスしてくれるとは思わず、アズマは素直に感心した。
「え、アガツマいつの間に田町と接触したの?」
「ふふ、田町ったら出会い系アプリ登録してたから、ネタ稼げると思ってね」
「あー、それでこれ。随分と荒れてるなぁ」
__ここどう見てもラブホでしょ!? そういうことしたんじゃないって言うなら何しに来たって言うのよォーーーー!!!
未だ続く真野のシャウトに呆れつつ、奥さんと子供がいてさらに奥さんは妊娠中、そして不倫相手がいるにも関わらず、まだ浮気相手を探しているという事実に、よくそんな体力があるなぁ、と呆れを通り越して脱帽するアズマ。
「ってアガツマ、田町とどこまでしたの? もしかして……」
「やだぁ~、こんなヤツ相手にしないわよ。適当に記憶いじって、データだけ盗んだだけ」
「記憶いじって大丈夫だったのかい?」
「えぇ、相手は私と甘い夜を過ごしたつもりになって勝手に盛り上がって勝手に果ててたから大丈夫」
「うわぁー……えげつない」
「え、何よ、ちょっと引かないでよ」
さすがにそれはどうなのか、と想像するとちょっと同情してしまうアズマ。
アガツマは焦ったように、「冗談よ、冗談」と言い繕っているがどう見ても本気だっただろう。
(それにしてもかれこれ十分以上怒鳴りっぱなしだけど、真野大丈夫か?)
未だにギャーギャーと煩い音声データを聞きながら、随分とここまで怒れるなとある意味呆れてしまう。
そもそも自分だって浮気相手だろうに、自分だけは特別とでも思っているのだろうか、とアズマは不思議で仕方なかった。
「てかさっきから真野怒りっぱなしだけど、こういうのって割り切った関係ってやつじゃないの?」
「うーん、田町はそのつもりだったみたいだけど、彼女は違ってたってことじゃない?」
「なるほど、意見の相違ってやつということか」
「んー、どうでしょうね。元々田町は真野が勘違いするように都合のいいことだいぶ言ってたみたいだし。夫婦関係は終わってるとか、愛してるのはキミだけ、みたいな?」
「あー……」
(それは修羅場になるやつって僕でも知ってるぞ)
アズマも少なからずこういう不倫関係の依頼も受けたことがあるのでこういう思考には心当たりはあるが、いかんせん何度経験しても理解できないものではあった。
(そもそもずっと恋愛したけりゃ結婚しなきゃいいのに、不思議な生き物だなぁ)
こういった人間が存在するおかげで自分が生き永らえている自覚はあるものの、つくづく人間とは面白い。
「ちなみに私も言われたわよ。愛してるだの、キミの全てに夢中だの、キミ以外は他に何もいらないだの、よく日本人が吐けるなっていうような愛の言葉のオンパレード。そしてその辺もぜーんぶ録音して保管済み。時が来たらちゃんと送りつける予定よ」
「うわぁ……さらに修羅場が」
「ふふふ、これでもう魂はぐっちゃぐちゃになること間違いなしでしょうね」
「なるほど、その感じだと相当引っ掻き回したようだね」
これは真野のリミッターが外れるのも時間の問題だろう。
いつ鬼化してもおかしくないくらいには真野は相当狂ってきてるはずだ。
現に音声データにさえ恨みつらみがオーラとして現れていて、爆発寸前といった状態である。
「でも、もうすぐフィナーレでしょう?」
「まぁね。そのつもり」
「あー、この最高の魂が食べられると思うと昂るわぁ~」
ふふふ、と恍惚の笑みを浮かべるアガツマ。
今日は機嫌がよさそうで何よりだと思いながら、アズマはあることを思い出す。
「そういえば、田町が査定にケチつけてるらしいけど、理由知ってる?」
「あー、確かその辺りもデータ引っ張ってきてたと思うわよ」
「ありがとう。確認しておくよ。……では、そろそろ仕上げといこうか」
「はいはい。いよいよ明後日が決行日でしょう? うーん、楽しみ!」
いよいよコンペの日程は明後日。
明日はその前に色々仕込んでおく必要がある。
そして、アズマが最後通告をする日でもあった。
「さて、最後に改心するか否か」
(ま、無理だろうけど)
ここまで役満なのも珍しい、と思いつつアズマは下準備を念入りにする。
明日はいよいよ無双執行までの猶予最終日だ。
ここは腕の見せどころだとアズマも気合いが入った。
「私は改心しないほうに賭けるわ」
「うーん、それじゃあ賭けにならないなぁ」
お互いにクスクスと笑い合う二人。
その空気は人あらざる者らしく、狂気に満ちていた。
ことり、と机に置かれる物体。
アガツマはご機嫌なのかにっこり笑うと、そのままアズマの向かいの席に腰掛けた。
「うん? 何これ、ボイスレコーダー?」
「えぇ。この前美味しい魂いただいたから、ちょっとしたサービス」
アズマが再生ボタンを押すと、再生するなり男女の言い争う声。
普段と違う声とは言えど、聞き慣れた声にアズマはすぐに発声者が誰かわかった。
「これって、田町と真野?」
「大正解~! 結構面白いとこ撮れてるから、よく内容聞いてちょうだい」
アガツマに言われて音声に耳を傾ける。
__どういうことよっ!
__誤解だっ! お願いだからそんなキンキン喚かないでくれ。彼女とは別にそういうわけじゃ……っ
__そういうわけじゃなかったら、どういうわけなのよォーーーーー!!
「なんかすごいことになってるね。これって、あの……シャウトって言うんだっけ?」
「遠からず、近からず? もうケモノよケモノ。終始真野が咆哮してる状態」
「ここまで人間って叫べるものなんだねぇ」
呑気に感心しているとヒートアップする言い合いの中に「この人奥さんじゃないでしょーー!? 誰よ、この女!!」というワードを拾って「もしかして……」とアガツマを見れば、「さすがアズマ、バレちゃった?」と悪びれもせずに白状するアガツマ。
ニヤニヤする彼女になんというか、まさかここまで大サービスしてくれるとは思わず、アズマは素直に感心した。
「え、アガツマいつの間に田町と接触したの?」
「ふふ、田町ったら出会い系アプリ登録してたから、ネタ稼げると思ってね」
「あー、それでこれ。随分と荒れてるなぁ」
__ここどう見てもラブホでしょ!? そういうことしたんじゃないって言うなら何しに来たって言うのよォーーーー!!!
未だ続く真野のシャウトに呆れつつ、奥さんと子供がいてさらに奥さんは妊娠中、そして不倫相手がいるにも関わらず、まだ浮気相手を探しているという事実に、よくそんな体力があるなぁ、と呆れを通り越して脱帽するアズマ。
「ってアガツマ、田町とどこまでしたの? もしかして……」
「やだぁ~、こんなヤツ相手にしないわよ。適当に記憶いじって、データだけ盗んだだけ」
「記憶いじって大丈夫だったのかい?」
「えぇ、相手は私と甘い夜を過ごしたつもりになって勝手に盛り上がって勝手に果ててたから大丈夫」
「うわぁー……えげつない」
「え、何よ、ちょっと引かないでよ」
さすがにそれはどうなのか、と想像するとちょっと同情してしまうアズマ。
アガツマは焦ったように、「冗談よ、冗談」と言い繕っているがどう見ても本気だっただろう。
(それにしてもかれこれ十分以上怒鳴りっぱなしだけど、真野大丈夫か?)
未だにギャーギャーと煩い音声データを聞きながら、随分とここまで怒れるなとある意味呆れてしまう。
そもそも自分だって浮気相手だろうに、自分だけは特別とでも思っているのだろうか、とアズマは不思議で仕方なかった。
「てかさっきから真野怒りっぱなしだけど、こういうのって割り切った関係ってやつじゃないの?」
「うーん、田町はそのつもりだったみたいだけど、彼女は違ってたってことじゃない?」
「なるほど、意見の相違ってやつということか」
「んー、どうでしょうね。元々田町は真野が勘違いするように都合のいいことだいぶ言ってたみたいだし。夫婦関係は終わってるとか、愛してるのはキミだけ、みたいな?」
「あー……」
(それは修羅場になるやつって僕でも知ってるぞ)
アズマも少なからずこういう不倫関係の依頼も受けたことがあるのでこういう思考には心当たりはあるが、いかんせん何度経験しても理解できないものではあった。
(そもそもずっと恋愛したけりゃ結婚しなきゃいいのに、不思議な生き物だなぁ)
こういった人間が存在するおかげで自分が生き永らえている自覚はあるものの、つくづく人間とは面白い。
「ちなみに私も言われたわよ。愛してるだの、キミの全てに夢中だの、キミ以外は他に何もいらないだの、よく日本人が吐けるなっていうような愛の言葉のオンパレード。そしてその辺もぜーんぶ録音して保管済み。時が来たらちゃんと送りつける予定よ」
「うわぁ……さらに修羅場が」
「ふふふ、これでもう魂はぐっちゃぐちゃになること間違いなしでしょうね」
「なるほど、その感じだと相当引っ掻き回したようだね」
これは真野のリミッターが外れるのも時間の問題だろう。
いつ鬼化してもおかしくないくらいには真野は相当狂ってきてるはずだ。
現に音声データにさえ恨みつらみがオーラとして現れていて、爆発寸前といった状態である。
「でも、もうすぐフィナーレでしょう?」
「まぁね。そのつもり」
「あー、この最高の魂が食べられると思うと昂るわぁ~」
ふふふ、と恍惚の笑みを浮かべるアガツマ。
今日は機嫌がよさそうで何よりだと思いながら、アズマはあることを思い出す。
「そういえば、田町が査定にケチつけてるらしいけど、理由知ってる?」
「あー、確かその辺りもデータ引っ張ってきてたと思うわよ」
「ありがとう。確認しておくよ。……では、そろそろ仕上げといこうか」
「はいはい。いよいよ明後日が決行日でしょう? うーん、楽しみ!」
いよいよコンペの日程は明後日。
明日はその前に色々仕込んでおく必要がある。
そして、アズマが最後通告をする日でもあった。
「さて、最後に改心するか否か」
(ま、無理だろうけど)
ここまで役満なのも珍しい、と思いつつアズマは下準備を念入りにする。
明日はいよいよ無双執行までの猶予最終日だ。
ここは腕の見せどころだとアズマも気合いが入った。
「私は改心しないほうに賭けるわ」
「うーん、それじゃあ賭けにならないなぁ」
お互いにクスクスと笑い合う二人。
その空気は人あらざる者らしく、狂気に満ちていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる