14 / 34
第一章 新人いびり
新人いびり⑬
しおりを挟む
「今日もお疲れさまでした! いよいよ明日はコンペ当日です! みなさん頑張りましょうね!!」
「はい、頑張りましょう!」
「うー、緊張してきたー!」
「ちょっとちょっと、まだ緊張するの早いから!」
「あははは」
終業時間前、それぞれ士気を高めるために清田を皮切りにメンバーがそれぞれ挨拶をする。
明日のプレゼンのためにみんなベストを尽くし、予算の作成から調達や搬送経路全てを今できる最高の状態で仕上げてきていた。
あとはコンペでのプレゼンさえしくじらなければきっと問題ないだろう、と誰もが確信する出来である。
「でも考えてみたらコンペとか初めてだったからついつい気合い入っちゃったけど、なんだかこうやって夢中になるっていうの楽しいっていうか、みんなで一緒に仕事をやるのが楽しいって初めて思えた気がする」
「わかるー! こうしてみんなで頑張るってなかなかなかったし」
「みんなで目標に向かって団結するって学生ぶりだったけど、みんなうちの商品好きなんだなってのも再認識できたわよね~」
「うんうん」
アズマがオーラを見る限り、みんな気分が高揚していた。
この雰囲気から察するに、仕事で初めてみんなで一緒に目標に向かって一致団結したのだろうということが容易に想像できる。
元々それぞれ働き方が違い、個人プレーが多かったカラスマ工業であったが、大多数は同じ感覚や感性を持った同類の集まりだったようで、一度結束するととても優秀であった。
メンバーはもちろんのこと、メンバー以外の社員ともチームプレーを発揮し、各々がどんな仕事をしてるのか、進捗はどうかと確認し合い、フォローしたりしてもらったりと順応に対応できていて、根津がいなくなっただけでこれほどスムーズにことが進むのかと誰もが思ったくらいだ。
(我ながらなんといい作戦だったのか。うんうん、僕ってだいぶ人間味が出てきたんじゃないかなぁ)
アズマはそんな自画自賛をしながら彼らの様子に満足する。
きっと今後もこの調子ならカラスマ工業は問題ないだろう。
烏丸自身もだいぶ顔出しをするようになったからかだいぶ打ち解けてきていて、風通しもよくなり、それぞれが意見を言い合い高め合えるよい関係性が築けていた。
自信家のアズマもまさかここまでとんとん拍子に自分の思惑通りに話が進むとは思わず、怖いくらいには全てが順調にことが進んでいる。
「そういえば田町課長は?」
「もうすぐ戻っては来るみたいだけど」
「前日くらいちゃんと挨拶してほしいよね」
「本当本当~。どこ行ってるんだか」
「てか、終業時間過ぎちゃったけどどうする? 待つ?」
「でもいつ帰ってくるんだろう?」
「うーん……」
チームの要であるはずの田町がいなくて、みんなどうしようかと考えあぐねているようだった。
結局彼はアズマに仕事を丸投げでいいとこ取りしかしなかった。
しかもこのところはずっとコンペのために取引先に回ると言い訳してずっと不在にしていることが多い。
それに対して周りは不満を募らせつつも田町がいないほうが仕事が捗るというのも事実なので、あえて田町に対し誰も言及してはこなかったのだが。
「あ、じゃあ僕待ってますよ」
「そう? でも、それなら残業扱いになっちゃうだろうし。吾妻くんだけ待たせるわけには……」
「実はこのあと烏丸社長からも進捗の確認をされてまして。それ以外はこのあと予定もないですし、一応明日の最終確認も直接田町課長にしたいですから、残らせてください。あぁ、そうそう、明日のコンペ終了後には打ち上げで社長がお寿司を振る舞ってくれるそうで、みんなお腹空かしておいてくれと言ってました」
「え、そうなの?」
「お寿司? やったー!」
「ごめんね、いつも吾妻くんばっかり気を遣わせちゃって」
「いえいえ、お気になさらず」
日頃ちょっとずつ魂を分けてもらってるんでお気になさらず、なんて言えるわけもなくアズマはニコニコと彼らを見送る。
(このまま直帰されても困るから、とりあえず呼び戻すか)
誰もいなくなったのを見計らうと、アズマは印を結び「戻れ」と言葉を吐いた。
すると、程なくしてふらふらと身嗜みが乱れた田町が戻ってくる。
アズマに操られているためまだ意識が戻っていないようだが、どうやら雰囲気的に先程までそういうことをしていたようだ。
(前日までお盛んとは、何を考えてるんだか。……あー、真野がキレてそう)
どうせまた明日はさらにキレるんだろうし今更もういいだろう、とそっちの処理は諦めて、アズマがパンパンと手を叩くとハッと我にかえる田町。
「はっ、え!? 会社!? どうして!??」
「田町課長、大丈夫ですか? 明日はコンペだからって最終確認に来たのでは?」
「は? あ、あぁ、そうだな。明日はコンペのプレゼンだったな」
慌てた様子ではあるものの、平静を装う田町。
記憶の混濁がありつつも、アズマの前では弱味を見せたくないようだった。
「はい。ですのでこれ、最終版の資料なので確認をよろしくお願いします。一応全部森本部長や烏丸社長含めて承認は得ていますが、チームリーダーは課長なので」
「ん? あぁ、わかった。だが、明日のプレゼンは吾妻くんがやるのでは? わざわざ俺に言う必要ないだろ?」
(いや、あなたはチームリーダーだろ。確認まで丸投げする気か?)
自分の役割を忘れているのか、それすらも放棄しようとしているのか。
アズマもまさかここまで愚かだとは、と呆れつつも、「その前提ですが、念のため」と軽く釘を刺すと、眉間に皺を寄せて不機嫌を露わにする田町。
そして、「ドンっ」という音と共に田町はアズマに壁ドンで凄んでくる。
「は? お前、俺に指図するつもりか?」
(うわーお、これがリアル壁ドン。うーん、これ、女子にするやつでは? てか、醜い顔を近づけるのやめてくれないかなぁ)
凄んでくるのはいいが、正直身なりが乱れたままの中年のおっさんにされてもキモいだけだな、と思う。
だが、ここでそんな素振りを見せるわけにもいかないので「いえ、そんなつもりでは」とアズマはわざと怖がっているように装った。
「根津がいなくなったからって調子こいてんじゃねぇぞ?」
「す、すみません」
「ふんっ、とにかく明日はしっかりやれよ? わかったな」
「はい、わかりました」
アズマのしおらしい態度に満足したのか、田町は言いたいことだけ言って満足すると、そのまま事務所を出て行く。
それをアズマは見送ると、「最後のチャンスをふいにしたのは大きいですよ。ふふ、田町課長も明日を楽しみにしてくださいね」とニヤリと笑うのだった。
「はい、頑張りましょう!」
「うー、緊張してきたー!」
「ちょっとちょっと、まだ緊張するの早いから!」
「あははは」
終業時間前、それぞれ士気を高めるために清田を皮切りにメンバーがそれぞれ挨拶をする。
明日のプレゼンのためにみんなベストを尽くし、予算の作成から調達や搬送経路全てを今できる最高の状態で仕上げてきていた。
あとはコンペでのプレゼンさえしくじらなければきっと問題ないだろう、と誰もが確信する出来である。
「でも考えてみたらコンペとか初めてだったからついつい気合い入っちゃったけど、なんだかこうやって夢中になるっていうの楽しいっていうか、みんなで一緒に仕事をやるのが楽しいって初めて思えた気がする」
「わかるー! こうしてみんなで頑張るってなかなかなかったし」
「みんなで目標に向かって団結するって学生ぶりだったけど、みんなうちの商品好きなんだなってのも再認識できたわよね~」
「うんうん」
アズマがオーラを見る限り、みんな気分が高揚していた。
この雰囲気から察するに、仕事で初めてみんなで一緒に目標に向かって一致団結したのだろうということが容易に想像できる。
元々それぞれ働き方が違い、個人プレーが多かったカラスマ工業であったが、大多数は同じ感覚や感性を持った同類の集まりだったようで、一度結束するととても優秀であった。
メンバーはもちろんのこと、メンバー以外の社員ともチームプレーを発揮し、各々がどんな仕事をしてるのか、進捗はどうかと確認し合い、フォローしたりしてもらったりと順応に対応できていて、根津がいなくなっただけでこれほどスムーズにことが進むのかと誰もが思ったくらいだ。
(我ながらなんといい作戦だったのか。うんうん、僕ってだいぶ人間味が出てきたんじゃないかなぁ)
アズマはそんな自画自賛をしながら彼らの様子に満足する。
きっと今後もこの調子ならカラスマ工業は問題ないだろう。
烏丸自身もだいぶ顔出しをするようになったからかだいぶ打ち解けてきていて、風通しもよくなり、それぞれが意見を言い合い高め合えるよい関係性が築けていた。
自信家のアズマもまさかここまでとんとん拍子に自分の思惑通りに話が進むとは思わず、怖いくらいには全てが順調にことが進んでいる。
「そういえば田町課長は?」
「もうすぐ戻っては来るみたいだけど」
「前日くらいちゃんと挨拶してほしいよね」
「本当本当~。どこ行ってるんだか」
「てか、終業時間過ぎちゃったけどどうする? 待つ?」
「でもいつ帰ってくるんだろう?」
「うーん……」
チームの要であるはずの田町がいなくて、みんなどうしようかと考えあぐねているようだった。
結局彼はアズマに仕事を丸投げでいいとこ取りしかしなかった。
しかもこのところはずっとコンペのために取引先に回ると言い訳してずっと不在にしていることが多い。
それに対して周りは不満を募らせつつも田町がいないほうが仕事が捗るというのも事実なので、あえて田町に対し誰も言及してはこなかったのだが。
「あ、じゃあ僕待ってますよ」
「そう? でも、それなら残業扱いになっちゃうだろうし。吾妻くんだけ待たせるわけには……」
「実はこのあと烏丸社長からも進捗の確認をされてまして。それ以外はこのあと予定もないですし、一応明日の最終確認も直接田町課長にしたいですから、残らせてください。あぁ、そうそう、明日のコンペ終了後には打ち上げで社長がお寿司を振る舞ってくれるそうで、みんなお腹空かしておいてくれと言ってました」
「え、そうなの?」
「お寿司? やったー!」
「ごめんね、いつも吾妻くんばっかり気を遣わせちゃって」
「いえいえ、お気になさらず」
日頃ちょっとずつ魂を分けてもらってるんでお気になさらず、なんて言えるわけもなくアズマはニコニコと彼らを見送る。
(このまま直帰されても困るから、とりあえず呼び戻すか)
誰もいなくなったのを見計らうと、アズマは印を結び「戻れ」と言葉を吐いた。
すると、程なくしてふらふらと身嗜みが乱れた田町が戻ってくる。
アズマに操られているためまだ意識が戻っていないようだが、どうやら雰囲気的に先程までそういうことをしていたようだ。
(前日までお盛んとは、何を考えてるんだか。……あー、真野がキレてそう)
どうせまた明日はさらにキレるんだろうし今更もういいだろう、とそっちの処理は諦めて、アズマがパンパンと手を叩くとハッと我にかえる田町。
「はっ、え!? 会社!? どうして!??」
「田町課長、大丈夫ですか? 明日はコンペだからって最終確認に来たのでは?」
「は? あ、あぁ、そうだな。明日はコンペのプレゼンだったな」
慌てた様子ではあるものの、平静を装う田町。
記憶の混濁がありつつも、アズマの前では弱味を見せたくないようだった。
「はい。ですのでこれ、最終版の資料なので確認をよろしくお願いします。一応全部森本部長や烏丸社長含めて承認は得ていますが、チームリーダーは課長なので」
「ん? あぁ、わかった。だが、明日のプレゼンは吾妻くんがやるのでは? わざわざ俺に言う必要ないだろ?」
(いや、あなたはチームリーダーだろ。確認まで丸投げする気か?)
自分の役割を忘れているのか、それすらも放棄しようとしているのか。
アズマもまさかここまで愚かだとは、と呆れつつも、「その前提ですが、念のため」と軽く釘を刺すと、眉間に皺を寄せて不機嫌を露わにする田町。
そして、「ドンっ」という音と共に田町はアズマに壁ドンで凄んでくる。
「は? お前、俺に指図するつもりか?」
(うわーお、これがリアル壁ドン。うーん、これ、女子にするやつでは? てか、醜い顔を近づけるのやめてくれないかなぁ)
凄んでくるのはいいが、正直身なりが乱れたままの中年のおっさんにされてもキモいだけだな、と思う。
だが、ここでそんな素振りを見せるわけにもいかないので「いえ、そんなつもりでは」とアズマはわざと怖がっているように装った。
「根津がいなくなったからって調子こいてんじゃねぇぞ?」
「す、すみません」
「ふんっ、とにかく明日はしっかりやれよ? わかったな」
「はい、わかりました」
アズマのしおらしい態度に満足したのか、田町は言いたいことだけ言って満足すると、そのまま事務所を出て行く。
それをアズマは見送ると、「最後のチャンスをふいにしたのは大きいですよ。ふふ、田町課長も明日を楽しみにしてくださいね」とニヤリと笑うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる