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第二章 いじめ
いじめ③
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「この髪って地毛? 綺麗な色ね」
「あ、ありがとうございます。一応中学生なので髪は染めてないです」
「あら、中学生! どうりで若いと思ったわ。いいわねぇ、若いって」
「あ、アガツマさんも美人で羨ましいです」
「あら、その年でそんなこと言えちゃうの? 可愛いわね、桜ちゃんは。とってもいい子!」
ぶぉおおおお、と髪を乾かしてもらいながら桜はアガツマとそんな何気ない話をする。
こうして世間話を母親以外とするのが久しぶりな桜にとって、慣れないせいかぎこちなくはあったもののとても嬉しかった。
「でも、せっかく綺麗な髪なのに、随分と短いのね、もったいない」
「あ、それは……」
アガツマに指摘されて、桜はギュッと胸が苦しくなる。
現在の桜の髪の長さは顎くらいなのだが、これでもまだ伸びたほうではあるのだ。
というのも、この長さになってしまったのには訳があった。
__あら、東雲さんの頭にガムがついちゃってるわよ? 取ってあげる。
__あははは、ごめんなさい。取れないようだったから元から切っちゃったわ。
__短いのも似合う似合う。まるで猿……あぁ、ふふふ、私ったら口が滑っちゃったわ。
当時の仕打ちを思い出し、苦しくなってくる呼吸。
それを察したのか、アガツマが桜の背を優しく撫でた。
「ごめんなさいね、無遠慮なことを言ったわね。大丈夫?」
「あ、はい。すみません、気を遣わせてしまって」
「いいのよ、悪いのは私なのだから。それにそうやって悪くないのにすぐに謝らないの。むやみに謝るのは相手にとっても自分にとってもよくないことだからね。さて、乾いたわよ?」
「ありがとうございます」
桜にとって、自分で髪を乾かさないというのは久々なことだった。
最近美容院にも行けてなかったため、こうして他者に触れられるのはなんだかこそばゆかったが、アガツマに構ってもらえるのは姉ができたようで嬉しくもあった。
「あぁ、これが着替えね。……ちょっと地味ね。ごめんなさいね、こんなものしか用意してなくて」
「いえ! むしろわざわざ用意してもらってすみませんっ」
渡されたのは無地のスウェットだった。
色もグレーにベージュと実にシンプルなものだ。
サイズも桜用に合わせたのかピッタリで、わざわざ自分のために用意してくれたのかと思うと桜は申し訳なく感じる。
だが、アガツマのメガネには適っていなかったようで、「もっと可愛いものあったでしょうに、こういうとこセンスないんだから」と小さくぶつぶつと文句を言っていた。
「あの、でも私、今、お金持ってなくて」
「いいのよいいの。桜ちゃんは気にしないでちょうだい! 元はと言えば連れてきたあいつがいけないんだから」
「あの、あいつって?」
「桜ちゃんを連れてきたやつ」
アガツマはそう言うと、桜の手を掴む。
そして、「お風呂も上がったし、行きましょうか。ここは迷いやすいからしっかりついてきてちょうだい」と手を引いて案内してくれるのだった。
◇
「遅いよ、アガツマ」
「遅いよ、じゃないでしょう? 女の子は時間がかかるものなのよ! アズマと一緒にしないでくれる?」
「僕はオンナでも時間かからないし」
「そういうとこ! だから、アズマと一緒にしないでって言ってるの!」
アガツマに連れられて来られたのはバーカウンターみたいなとこだった。
桜も実際のバーカウンターは知らないが、テレビドラマで見た感じの雰囲気はこんなだったと思い出す。
そもそもここは不思議なところだった。
色々なものや場所が雑多に置かれていたりあったりして、この建物はどんだけ広いのかと想像もつかないほど大きい。
まるでどこかのテレビスタジオだ。
恐らくこの中で迷子になったら延々と彷徨っていたことかもしれない、と桜が思うくらいには広く、その辺のショッピングモールよりも広く感じた。
そして、連れられた先にいたのは一人の男性。
そういえば、この人……ビルの上の屋上で自分に声をかけてくれた人かな、と桜は思い出す。
あのときは暗くてよく見えないながらもカッコいいとは思ったが、改めてよく見るとさらにカッコよく見え、芸能人のようなイケメンを初めて間近で見た桜は、なんだかドギマギとしてしまう。
彼はアガツマの彼氏だろうか、それとも夫なのだろうか、と桜の好奇心が少しだけ疼くと同時に、この人が助けてくれてここまで連れてきてくれたのだろうか? でも、どうやって? という疑問も渦巻いた。
けれど、そんな疑問を口にしていいのかわからなくて、桜はグッと口を噤んだ。
「うんうん、顔色もよさそうだね。体調はどうだい?」
声をかけられるも、まさか自分に声をかけてきているとは思わず、ぼんやりとしているとアガツマにポンポンと肩を叩かれた。
「……桜に聞いているのよ?」
「へぁ!? わ、私ですか? 私は元気です!」
「ははは、可愛らしいね。無視されたかと思ってちょっと悲しくなったけど、もしかして緊張してる?」
「ひ! は、はい、ちょっと……」
桜が素直に白状すればアガツマは噴き出し、目の前の男性は不本意そうな表情をした。
「おかしいなぁ、アガツマには懐いているようなのに」
「日頃の行いでしょう? アズマは胡散臭く見えるから」
「失敬だなぁ、アガツマは。じゃあ、そうだ、この見た目が怖いのかな? ……では、見た目を変えようか」
(見た目を変える? ってどういうことだろう)
そんなことを言うなり、何やら手を動かし始めるアズマと呼ばれた男性。
一体、何が始まるのか、と桜は彼をぼんやりと見つめる。
そして、「変身」と口にすると、先程目の前にいた男性は突如桜と同じくらいの年頃の可愛らしい少女に変身し、桜は自分が白昼夢でも見ているのかと、目を白黒とさせるのだった。
「あ、ありがとうございます。一応中学生なので髪は染めてないです」
「あら、中学生! どうりで若いと思ったわ。いいわねぇ、若いって」
「あ、アガツマさんも美人で羨ましいです」
「あら、その年でそんなこと言えちゃうの? 可愛いわね、桜ちゃんは。とってもいい子!」
ぶぉおおおお、と髪を乾かしてもらいながら桜はアガツマとそんな何気ない話をする。
こうして世間話を母親以外とするのが久しぶりな桜にとって、慣れないせいかぎこちなくはあったもののとても嬉しかった。
「でも、せっかく綺麗な髪なのに、随分と短いのね、もったいない」
「あ、それは……」
アガツマに指摘されて、桜はギュッと胸が苦しくなる。
現在の桜の髪の長さは顎くらいなのだが、これでもまだ伸びたほうではあるのだ。
というのも、この長さになってしまったのには訳があった。
__あら、東雲さんの頭にガムがついちゃってるわよ? 取ってあげる。
__あははは、ごめんなさい。取れないようだったから元から切っちゃったわ。
__短いのも似合う似合う。まるで猿……あぁ、ふふふ、私ったら口が滑っちゃったわ。
当時の仕打ちを思い出し、苦しくなってくる呼吸。
それを察したのか、アガツマが桜の背を優しく撫でた。
「ごめんなさいね、無遠慮なことを言ったわね。大丈夫?」
「あ、はい。すみません、気を遣わせてしまって」
「いいのよ、悪いのは私なのだから。それにそうやって悪くないのにすぐに謝らないの。むやみに謝るのは相手にとっても自分にとってもよくないことだからね。さて、乾いたわよ?」
「ありがとうございます」
桜にとって、自分で髪を乾かさないというのは久々なことだった。
最近美容院にも行けてなかったため、こうして他者に触れられるのはなんだかこそばゆかったが、アガツマに構ってもらえるのは姉ができたようで嬉しくもあった。
「あぁ、これが着替えね。……ちょっと地味ね。ごめんなさいね、こんなものしか用意してなくて」
「いえ! むしろわざわざ用意してもらってすみませんっ」
渡されたのは無地のスウェットだった。
色もグレーにベージュと実にシンプルなものだ。
サイズも桜用に合わせたのかピッタリで、わざわざ自分のために用意してくれたのかと思うと桜は申し訳なく感じる。
だが、アガツマのメガネには適っていなかったようで、「もっと可愛いものあったでしょうに、こういうとこセンスないんだから」と小さくぶつぶつと文句を言っていた。
「あの、でも私、今、お金持ってなくて」
「いいのよいいの。桜ちゃんは気にしないでちょうだい! 元はと言えば連れてきたあいつがいけないんだから」
「あの、あいつって?」
「桜ちゃんを連れてきたやつ」
アガツマはそう言うと、桜の手を掴む。
そして、「お風呂も上がったし、行きましょうか。ここは迷いやすいからしっかりついてきてちょうだい」と手を引いて案内してくれるのだった。
◇
「遅いよ、アガツマ」
「遅いよ、じゃないでしょう? 女の子は時間がかかるものなのよ! アズマと一緒にしないでくれる?」
「僕はオンナでも時間かからないし」
「そういうとこ! だから、アズマと一緒にしないでって言ってるの!」
アガツマに連れられて来られたのはバーカウンターみたいなとこだった。
桜も実際のバーカウンターは知らないが、テレビドラマで見た感じの雰囲気はこんなだったと思い出す。
そもそもここは不思議なところだった。
色々なものや場所が雑多に置かれていたりあったりして、この建物はどんだけ広いのかと想像もつかないほど大きい。
まるでどこかのテレビスタジオだ。
恐らくこの中で迷子になったら延々と彷徨っていたことかもしれない、と桜が思うくらいには広く、その辺のショッピングモールよりも広く感じた。
そして、連れられた先にいたのは一人の男性。
そういえば、この人……ビルの上の屋上で自分に声をかけてくれた人かな、と桜は思い出す。
あのときは暗くてよく見えないながらもカッコいいとは思ったが、改めてよく見るとさらにカッコよく見え、芸能人のようなイケメンを初めて間近で見た桜は、なんだかドギマギとしてしまう。
彼はアガツマの彼氏だろうか、それとも夫なのだろうか、と桜の好奇心が少しだけ疼くと同時に、この人が助けてくれてここまで連れてきてくれたのだろうか? でも、どうやって? という疑問も渦巻いた。
けれど、そんな疑問を口にしていいのかわからなくて、桜はグッと口を噤んだ。
「うんうん、顔色もよさそうだね。体調はどうだい?」
声をかけられるも、まさか自分に声をかけてきているとは思わず、ぼんやりとしているとアガツマにポンポンと肩を叩かれた。
「……桜に聞いているのよ?」
「へぁ!? わ、私ですか? 私は元気です!」
「ははは、可愛らしいね。無視されたかと思ってちょっと悲しくなったけど、もしかして緊張してる?」
「ひ! は、はい、ちょっと……」
桜が素直に白状すればアガツマは噴き出し、目の前の男性は不本意そうな表情をした。
「おかしいなぁ、アガツマには懐いているようなのに」
「日頃の行いでしょう? アズマは胡散臭く見えるから」
「失敬だなぁ、アガツマは。じゃあ、そうだ、この見た目が怖いのかな? ……では、見た目を変えようか」
(見た目を変える? ってどういうことだろう)
そんなことを言うなり、何やら手を動かし始めるアズマと呼ばれた男性。
一体、何が始まるのか、と桜は彼をぼんやりと見つめる。
そして、「変身」と口にすると、先程目の前にいた男性は突如桜と同じくらいの年頃の可愛らしい少女に変身し、桜は自分が白昼夢でも見ているのかと、目を白黒とさせるのだった。
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