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第二章 いじめ
いじめ⑦
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「ん……っ! あれ!? ここは、……家?」
ガバッと勢いよく起きると、そこは桜の家だった。
あれは夢だったのか、と桜が自分を見下ろすとそこには普段のパジャマとは違った見慣れないスウェット。
いや、見慣れないが見覚えのある服だった。
「夢じゃ、ない……?」
でもいつの間に家に帰ってきたんだろう、と思いながらぼんやりと桜は思考を巡らせるが、まるで思い出せない。
あれが夢なのか現実なのかはっきりしないものの、あまりゆっくり考えてる時間もなく、このままでは遅刻すると桜はのろのろと起き上がる。
リビングに行けば、母は夜勤だったせいか別室で寝ているようで「おはよう、桜。ご飯食べてからいってらっしゃい」という書き置きと共に食卓には朝食が用意されていた。
(ママ……)
仕事で忙しいのに毎朝必ず朝食を用意してくれる母に対して、桜は感情がぐちゃぐちゃになる。
嬉しいけど苦しい。
死にたくなるほどいじめはつらいのに、それを女手一つで自分のために身を粉にして働いている母に心配をかけたくなくて言い出せない桜。
知って欲しいけど、知られたくない。
それがどうしようもなくて、さらに桜を苦しめる。
本当は学校にも行きたくない、けれど母に心配されたくないから、と今日も朝食や身支度を済ませると、桜は気が滅入りながらも学校へと向かう。
(アズマさん、本当に学校に来るのかな。いや、やっぱりあれは夢だったのかも。でも、もし来たら、ちょっとはいじめが減るかな……?)
淡い期待をしつつも、それを自分で打ち消してはまたふとそんな期待をしてしまうジレンマ。
そんな気持ちを抱きながら、とぼとぼと学校に行く。
そしてあっという間に学校に着き、「はぁ」と一つ大きく溜め息を吐く桜。
校門の中に足を踏み入れるのは毎回億劫で、今すぐここに隕石が落ちたらだとか、疫病が流行って学級閉鎖になったらだとかそんな妄想をするも現実になるわけもなく、桜は詰まりそうになる息を必死で吐き出しながら校門をくぐった。
そして昇降口に入り、靴を回収して袋に入れる。
というのも、下足箱に入れると毎回なくなったり汚されたりズタズタに切り裂かれたりといくつも上履きや靴をダメにされたのでその自衛であった。
「あれ、東雲さんまだ生きてたの~?」
「こらこら、そんなことを言ってはダメよ。イジメだと思われちゃうでしょう?」
「そうねぇ、確かに」
くすくすとあからさまな嘲笑に身が竦む。
顔を上げるといつもの三人組が桜を遠くから見ていた。
「あら、靴を下駄箱に入れないの?」
「……っ」
「せっかくプレゼントを用意しておいたのに」
進路を塞ぐように三人に立たれて、桜は前に進めなくなる。
合間を縫っていこうにも威圧感が凄まじく、桜は立ち尽くすしかできなかった。
「ほら、下駄箱開けなさいって言ってるのよ」
「開けないの?」
「プレゼントあるって言ってるでしょ?」
肩を強く押されてよろめく桜。
開けたところでろくなものが入ってないのはわかりきっていた。
以前も虫やカエルの死骸や生ゴミなどが入れられていたことがあり、それを触ってしまったあとは給食がまともに喉が通らなくて大変だった。
その恐怖が呼び起こされて、桜は立ったままぶるぶると震える。
「あら、やだ。泣いてるの?」
「やめてよ、私達が悪いことしてるみたいじゃない」
「ねぇ? 東雲さん。……いいから、早く開けろって言ってんのよ……っ」
腹を蹴られて尻餅をつく桜。
顔を上げるとまた蹴られそうで、ずっと俯いていると不意にカシャカシャとカメラのシャッター音が聞こえる。
桜だけでなく彼女達にも聞こえたのだろう、「ちょっと、誰!?」「カメラ撮ったのあんた?」と桜の背後にいる人物に声をかけていた。
「えぇ。だって、今どきこんなリアルなイジメとか初めて見ちゃったから。田舎の学校ってまだこんな低レベルなイジメとかあるのね」
くすくすと笑う声に聞き覚えがあって顔を上げると、そこには見覚えのある美少女が立っていた。
「わ、私達はイジメしてたわけじゃないわよ! ねぇ、南」
「そうよ、そうよ。きーちゃんもニッシーもちょっと遊んでただけだし」
「そうそう。ってか、あんた何でスマホ持ってるのよ!」
「わたしはちゃんと届けを出しているから大丈夫。なんなら先生に聞いていただいても結構よ?」
「そもそもあんた誰よ!」
「せっかちな人ね。このあときちんと挨拶するから、それまで待てないのかしら。貴女、大丈夫?」
「ちっ、行こう、みんな」
手を差し出されて桜がその手を掴んで引き起こされると、彼女達三人組は文句を言いながらも引き下がっていった。
「あの、アズマさん……ですよね?」
「どう? 女子学生らしい?」
「はい。って、違くて……えと、本物?」
昨日と見た目は一緒なのに雰囲気が全然違っていて、桜はどうにも昨日のアズマと同一人物だとは思えなかった。
「そうよ。ふふ、そう思ってもらえるってことは頑張ったかいがあったわ。昨夜はアガツマにビシバシとしごかれまくったのよ、わたし。その成果が出てよかったわ」
ふふふ、と上品に笑うアズマ。
話の内容的に同一人物であることはなんとなく理解できたが、まさか本当に来てもらえるとは思わなくて桜は混乱した。
「さて、あんまりグズグズしてたら遅れちゃう、でしょう?」
「え、あ、はい」
「じゃあ、教室案内してもらえる? あぁ、その前に職員室に行くのがいいんですっけ?」
「あ、じゃあ職員室に案内します。……あの、アズマさん……さっきはどうもありがとうございました」
桜が感謝すると「いいのよ、これくらい」とふんわりとした表情で微笑まれる。
その笑みで、さっきまで過度に感じていた緊張がちょっとだけ解れるのだった。
ガバッと勢いよく起きると、そこは桜の家だった。
あれは夢だったのか、と桜が自分を見下ろすとそこには普段のパジャマとは違った見慣れないスウェット。
いや、見慣れないが見覚えのある服だった。
「夢じゃ、ない……?」
でもいつの間に家に帰ってきたんだろう、と思いながらぼんやりと桜は思考を巡らせるが、まるで思い出せない。
あれが夢なのか現実なのかはっきりしないものの、あまりゆっくり考えてる時間もなく、このままでは遅刻すると桜はのろのろと起き上がる。
リビングに行けば、母は夜勤だったせいか別室で寝ているようで「おはよう、桜。ご飯食べてからいってらっしゃい」という書き置きと共に食卓には朝食が用意されていた。
(ママ……)
仕事で忙しいのに毎朝必ず朝食を用意してくれる母に対して、桜は感情がぐちゃぐちゃになる。
嬉しいけど苦しい。
死にたくなるほどいじめはつらいのに、それを女手一つで自分のために身を粉にして働いている母に心配をかけたくなくて言い出せない桜。
知って欲しいけど、知られたくない。
それがどうしようもなくて、さらに桜を苦しめる。
本当は学校にも行きたくない、けれど母に心配されたくないから、と今日も朝食や身支度を済ませると、桜は気が滅入りながらも学校へと向かう。
(アズマさん、本当に学校に来るのかな。いや、やっぱりあれは夢だったのかも。でも、もし来たら、ちょっとはいじめが減るかな……?)
淡い期待をしつつも、それを自分で打ち消してはまたふとそんな期待をしてしまうジレンマ。
そんな気持ちを抱きながら、とぼとぼと学校に行く。
そしてあっという間に学校に着き、「はぁ」と一つ大きく溜め息を吐く桜。
校門の中に足を踏み入れるのは毎回億劫で、今すぐここに隕石が落ちたらだとか、疫病が流行って学級閉鎖になったらだとかそんな妄想をするも現実になるわけもなく、桜は詰まりそうになる息を必死で吐き出しながら校門をくぐった。
そして昇降口に入り、靴を回収して袋に入れる。
というのも、下足箱に入れると毎回なくなったり汚されたりズタズタに切り裂かれたりといくつも上履きや靴をダメにされたのでその自衛であった。
「あれ、東雲さんまだ生きてたの~?」
「こらこら、そんなことを言ってはダメよ。イジメだと思われちゃうでしょう?」
「そうねぇ、確かに」
くすくすとあからさまな嘲笑に身が竦む。
顔を上げるといつもの三人組が桜を遠くから見ていた。
「あら、靴を下駄箱に入れないの?」
「……っ」
「せっかくプレゼントを用意しておいたのに」
進路を塞ぐように三人に立たれて、桜は前に進めなくなる。
合間を縫っていこうにも威圧感が凄まじく、桜は立ち尽くすしかできなかった。
「ほら、下駄箱開けなさいって言ってるのよ」
「開けないの?」
「プレゼントあるって言ってるでしょ?」
肩を強く押されてよろめく桜。
開けたところでろくなものが入ってないのはわかりきっていた。
以前も虫やカエルの死骸や生ゴミなどが入れられていたことがあり、それを触ってしまったあとは給食がまともに喉が通らなくて大変だった。
その恐怖が呼び起こされて、桜は立ったままぶるぶると震える。
「あら、やだ。泣いてるの?」
「やめてよ、私達が悪いことしてるみたいじゃない」
「ねぇ? 東雲さん。……いいから、早く開けろって言ってんのよ……っ」
腹を蹴られて尻餅をつく桜。
顔を上げるとまた蹴られそうで、ずっと俯いていると不意にカシャカシャとカメラのシャッター音が聞こえる。
桜だけでなく彼女達にも聞こえたのだろう、「ちょっと、誰!?」「カメラ撮ったのあんた?」と桜の背後にいる人物に声をかけていた。
「えぇ。だって、今どきこんなリアルなイジメとか初めて見ちゃったから。田舎の学校ってまだこんな低レベルなイジメとかあるのね」
くすくすと笑う声に聞き覚えがあって顔を上げると、そこには見覚えのある美少女が立っていた。
「わ、私達はイジメしてたわけじゃないわよ! ねぇ、南」
「そうよ、そうよ。きーちゃんもニッシーもちょっと遊んでただけだし」
「そうそう。ってか、あんた何でスマホ持ってるのよ!」
「わたしはちゃんと届けを出しているから大丈夫。なんなら先生に聞いていただいても結構よ?」
「そもそもあんた誰よ!」
「せっかちな人ね。このあときちんと挨拶するから、それまで待てないのかしら。貴女、大丈夫?」
「ちっ、行こう、みんな」
手を差し出されて桜がその手を掴んで引き起こされると、彼女達三人組は文句を言いながらも引き下がっていった。
「あの、アズマさん……ですよね?」
「どう? 女子学生らしい?」
「はい。って、違くて……えと、本物?」
昨日と見た目は一緒なのに雰囲気が全然違っていて、桜はどうにも昨日のアズマと同一人物だとは思えなかった。
「そうよ。ふふ、そう思ってもらえるってことは頑張ったかいがあったわ。昨夜はアガツマにビシバシとしごかれまくったのよ、わたし。その成果が出てよかったわ」
ふふふ、と上品に笑うアズマ。
話の内容的に同一人物であることはなんとなく理解できたが、まさか本当に来てもらえるとは思わなくて桜は混乱した。
「さて、あんまりグズグズしてたら遅れちゃう、でしょう?」
「え、あ、はい」
「じゃあ、教室案内してもらえる? あぁ、その前に職員室に行くのがいいんですっけ?」
「あ、じゃあ職員室に案内します。……あの、アズマさん……さっきはどうもありがとうございました」
桜が感謝すると「いいのよ、これくらい」とふんわりとした表情で微笑まれる。
その笑みで、さっきまで過度に感じていた緊張がちょっとだけ解れるのだった。
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