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第三話 記憶

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 どうやら私は前世の記憶を持ったまま転生したらしい。

 この世界は前世の世界とは違い、魔法のある世界で、かつて過ごした世界のように貴族制度は現存すれど、それ以外は言葉も世界も何もかもが違っていた。
 だから、いくら前世の記憶があると言えども私にとって初めてのものばかりで、どれもこれも新鮮に感じられる。

 今世では以前の家族とは違い、父のオスカーも母のメルルも私に優しく、姉のミランダも可愛がってくれて、以前の世界に比べたら天国のような場所だった。
 私は彼らにクラリスという名を与えられ、マルティーニ家の伯爵令嬢として、それはそれは慈しんで育てられた。

 全てが全て前世とは違って理想的な生活。

 だが、唯一前世との共通点があった。

「あぁ、クラリス。今日もなんて美しいの! せっかくですから、もっと美しく見えるように髪を結いましょう?」
「ほら、こっちの服もきっと似合うわよ。ぜひ着てみてちょうだい」
「嫌よ! 絶っ対に嫌! 私は地味な方が好きなの!!」

 十五歳になった今、今日も今日とて私は逃げ回る。
 なぜなら……

 (また私は美人に生まれてきてしまったから!!)

 バターブロンドにスカイブルーの瞳。
 高くスッと通った鼻筋にふっくらとした唇。
 睫毛も長く、色も薄くまるで陶磁器のようなきめ細やかさ。

 (自慢じゃないが、自他ともに認める美人として、私は再び生まれてきてしまったのだ……!)

 よりにもよって、なぜこんな美人で生まれてしまったのか。
 前世のことを思い出すだけで身震いをする。

 見た目がいいというだけで処刑されたかつての私。
 あの灼熱で身を焦がしたことを今でも鮮明に覚えている。

 だからこそ、今世こそは……

 (喪女として生きると決めたのだ……!!)

 今世こそ前世とは違って目立たず、引きこもり、己の力のみで生き抜いていき、生涯を全うすると生まれてすぐに誓ったのだ。

 そのためにはこの見目の良さを隠さねばならない。

 だから私は生まれてからずっと髪を伸ばし、ボサボサで服も目立たないような色や流行りとは違ったアースカラーのドレスばかりを着てきた。

 社交界にも出ずに引きこもり、男性からの誘いも尽く断り、この世で生きるために何が必要かをひたすら研究し、結果自分の力だけで生きていくために手に職をつけることに決めた。
 私の魔法の能力は比較的に高いそうで、母曰く、それだけ能力があれば高官として重用してもらえるかもしれないらしい。
 もし高官になれたなら、例え求婚されても仕事を理由に申し出を断ることができるそうで、家としての判断ではなく、自分で結婚の判断ができるのだ。

 もちろん、今のマルティーニ家に不満があるわけではない。
 だが、前世でのトラウマで売られるもしくはやむを得ない事情で嫁に出されるかもしれない可能性があることを考えると、そのリスクを避けられるのは私にとって願ったり叶ったりだった。

 前世では引っ込み思案で自分の意思をはっきり表示できなかった私は、今世では前世とは違い、いかに異性に見染められることなく喪女として生きられるかに注力し、そのための主張は何度もしてきた。

 そして今現在、母と姉から逃げ回っているのもそれが理由で、彼女達は私をどうにか着飾らせようとあの手この手を使ってくる。

 私だって前世のように見目がいいってだけであらゆる男性から求婚されるなどとは思ってもいないが、これはある意味トラウマであり、自意識過剰と言われようが絶対に嫌なものは嫌だったのだ。
 一応家族は私の意思を汲んではくれるものの、最低限の身嗜みはしなさいとここ最近は特に煩かった。
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