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第百三話 穏やかな時間

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「NMAに入学して、初めこそ変わろうと思ったくせに過去に囚われたまま。結局また変われなかったと自分を恥じて学校生活を無為に過ごそうとしていたとき、クラリスに声をかけられたんだ。クラリスと関わっていくうちにだんだんと気持ちが変わってきて、人と関わるのが苦手だったはずが、クラリスと過ごすのは楽しくて、魔法や勉強も少しずつ興味を持てるようになっていった。それで、このままそれなりに勉強してそれなりの魔法を使えればそれでいいと思っていた。だが、オーガとの一件で、クラリスを守れなかった自分の無力さを思い知って絶望した。そして、己を恥じた。エディにも『変わるんじゃなかったのか!? お前はもっと凄いヤツのはずだろう!?』と言われて、そこで初めて俺はこのまま生温いままではダメだと気づいた。それからは猛勉強して、必死に今までのぶんを取り戻すように勉強した。今度こそ、クラリスを守れる存在になりたくて」
「それで、あのとき闇魔法が使えたの?」
「あぁ。まぁあれは一か八かってとこだったが、成功できてよかった」

 ふっと口元を緩めて笑う姿にドキンとときめく。

 元々アイザックは賢い人なのだろう。

 どうりで教えたら教えたぶんだけ吸収するはずである。

「そういえば、オーガのときに駆けつけてくれたけど、どうして私の居場所がわかったの?」
「あれは妖精に教えてもらった。母が妖精族のおかげか妖精は比較的俺と懇意にしてくれてな。クラリスが地下室に消えたのを見た妖精が慌てて俺に知らせてくれたんだ」
「そうだったのね。それなら、妖精にも感謝しないと」
「あぁ、そうだな」

 アイザックが色々なことを打ち明けてくれたことがなんだかとても嬉しかった。
 今までよりも精神的な距離がさらに近づいたような気がして、胸が温かくなる。

「話してくれてありがとう、アイザック」
「いや。俺がただ言いたかったんだ」
「それでも。私はアイザックの過去が知れて嬉しい」
「そうか」

 お互いに沈黙し合う。

 なんだか離れるのが名残惜しくて、私は何も言わずにアイザックと手を握り抱きしめられたまま。

(こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのに)

 そう思いながら身動ぐこともせずに彼の腕の中で大人しくしていた。
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