婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾

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第28話 評価されるということ

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第28話 評価されるということ

 現場が動き始めてから、一週間。

 報告書の束は、以前より少しだけ厚みを増していた。
 だがその内容は――明らかに変わっている。

 

「……“判断理由”が、ちゃんと文章になっていますね」

 補佐官が、感心したように言った。

「ええ」

 ルビー・エルヴェールは、静かに頷く。

「数字だけでなく、“なぜそう考えたか”が書かれています」

 

 そこには、迷いも、逡巡も、現場の事情もあった。
 完璧ではない。
 だが――誠実だった。

 

(人は、評価されると変わる)

 

 午後、王宮内で新たな議論が起きていた。

「判断の質に差が出始めています」

 監査官の一人が言う。

「同じ権限を与えても、
 明らかに“考えている者”と“形だけ書いている者”がいる」

 

 別の貴族が、眉をひそめる。

「それは、不公平ではないか?」 「能力差を、公式に認めるということになる」

 

 空気が、少し重くなる。

 

 ルビーは、そこで口を開いた。

「不公平、ではありませんわ」

 

 視線が集まる。

 

「これまでも、能力差は存在していました」 「ただ、“見えないふり”をしていただけです」

 

「結果だけを評価すれば、
 運のいい者と、真面目な者の差は消えます」

 

「ですが今は――」

 

 彼女は、言葉を選ぶ。

「考えた過程が、見えるようになった」

 

 沈黙。

 

「それを評価しない方が、不公平です」

 

 その日の夕方。

 ルビーは、王太子レオニードと向かい合っていた。

「“評価基準”を作りたい、という話か」

「はい」

 

「結果だけではなく、
 判断の妥当性、情報収集の姿勢、
 記録の誠実さを含めた評価を」

 

 レオニードは、少し考え込む。

「反発は大きいぞ」 「承知していますわ」

 

「“頑張ったつもり”の人ほど、
 評価されなかった時に怒りますから」

 

 それでも。

 

「やる価値はある」 「ええ」

 

「評価されると分かれば、人は学びます」 「評価されないと分かれば、やめます」

 

 レオニードは、小さく笑った。

「ずいぶん割り切っているな」 「制度は、感情を救えませんもの」

 

 数日後。

 試験的な評価指針が、内部向けに通達された。

> ・判断理由が具体的であること
・想定される影響を複数挙げていること
・結果が想定と異なった場合の検証が行われていること



 

 それは、罰の基準ではない。
 成長の指標だった。

 

 当然、反応は様々だった。

「面倒が増えた」 「書類仕事ばかりだ」

 

 だが一方で――

 

「次は、もう少し整理して書いてみよう」 「前回より、マシになっていると思う」

 

 そんな声も、確実に増えていた。

 

 夜。

 ルビーは、静かな執務室で、一通の報告書を読み返していた。

 地方の若い官僚によるものだ。
 文章は拙い。
 だが、最後にこう書かれていた。

> 『今回の判断は不安でしたが、
考えたことを評価してもらえると知り、
初めて“仕事をしている”実感がありました』



 

 ルビーは、そっと目を伏せた。

(それでいいのですわ)

 

 評価とは、
 選別のためだけのものではない。

 

 人に――
 立ち上がる理由を与えるものだ。

 

 彼女は、静かにペンを置いた。

 制度は、少しずつ形を変えながら、
 人を映す鏡になり始めていた。

 そしてそれは、
 次の段階への、確かな足音でもあった。
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