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第37話 責任の置き場所
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第37話 責任の置き場所
南部の避難勧告から、一週間。
被害は出なかった。
それでも――波紋は、確実に残っていた。
「顧問殿、正式な抗議文です」
補佐官が差し出した封筒は、厚い。
「差出人は?」 「三名。いずれも上級官僚です」
ルビー・エルヴェールは、封を切らずに言った。
「内容は、分かっています」
――権限の逸脱。
――判断の独断。
――前例軽視。
(避難勧告が外れたことが、
“弱点”になった)
午後、臨時の審議会が開かれた。
「結果が出なかった以上、
あの判断は過剰だったのではないか」
「責任の所在が、
あまりに曖昧だ」
視線が、再びルビーに集まる。
「顧問殿」
年配の官僚が、静かに言った。
「あなたは、“責任は自分が取る”とおっしゃった」
「では、具体的に――
何をもって責任を取るのです?」
空気が張り詰める。
ルビーは、ゆっくりと立ち上がった。
「責任には、二種類あります」
「結果責任と、
説明責任です」
「今回、結果は出ませんでした」 「被害はなかった」
「ですが、それは“失敗”ではありません」
「説明責任は、
今、ここで果たします」
彼女は、準備していた資料を広げた。
「判断に用いた情報」 「時間制約」 「想定リスク」
「すべて、共有します」
数字。
時系列。
判断分岐点。
誰が見ても、
“その時点では、動く合理性があった”。
だが、反論は出る。
「それでも、
顧問の判断が前面に出すぎている」
ルビーは、静かに頷いた。
「ええ。だから――」
「仕組みを変えます」
ざわめき。
「緊急時の判断は、
個人名ではなく、
役割名義で行います」
「責任者は一人」 「ですが、判断根拠は複数人で確認」
「“誰がやったか”ではなく、
“なぜそうしたか”が残る形です」
沈黙。
「責任を、
一人に集中させすぎると、
人は動けなくなる」
「分散させすぎると、
誰も引き受けなくなる」
「だから、
置き場所を決めるのです」
会議は、長引いた。
だが、最終的に――
新たな指針は、承認された。
夜。
王宮の回廊で、
レオニードが言った。
「批判は、まだ続くぞ」 「ええ」
「それでも、
今日は一歩進んだ」
「責任を“曖昧にしない形”を、
初めて示した」
ルビーは、立ち止まり、
小さく息を吐いた。
(責任は、
誰かを縛るためのものじゃない)
(動ける場所を、
示すためのもの)
執務室に戻り、
彼女は新しい文書に目を通す。
> 『緊急判断における責任配分指針(案)』
それは、
個人の勇気に頼らないための設計図だった。
ルビー・エルヴェールは、ペンを取り、
最後に一文を加えた。
> 『責任とは、
失敗の罰ではなく、
行動の保証である』
改革は、ここまで来た。
次に問われるのは――
この仕組みを、誰が守るのか。
人が替わっても、
立場が変わっても。
責任の置き場所が、
揺らがないかどうか。
試練は、
まだ終わっていなかった。
南部の避難勧告から、一週間。
被害は出なかった。
それでも――波紋は、確実に残っていた。
「顧問殿、正式な抗議文です」
補佐官が差し出した封筒は、厚い。
「差出人は?」 「三名。いずれも上級官僚です」
ルビー・エルヴェールは、封を切らずに言った。
「内容は、分かっています」
――権限の逸脱。
――判断の独断。
――前例軽視。
(避難勧告が外れたことが、
“弱点”になった)
午後、臨時の審議会が開かれた。
「結果が出なかった以上、
あの判断は過剰だったのではないか」
「責任の所在が、
あまりに曖昧だ」
視線が、再びルビーに集まる。
「顧問殿」
年配の官僚が、静かに言った。
「あなたは、“責任は自分が取る”とおっしゃった」
「では、具体的に――
何をもって責任を取るのです?」
空気が張り詰める。
ルビーは、ゆっくりと立ち上がった。
「責任には、二種類あります」
「結果責任と、
説明責任です」
「今回、結果は出ませんでした」 「被害はなかった」
「ですが、それは“失敗”ではありません」
「説明責任は、
今、ここで果たします」
彼女は、準備していた資料を広げた。
「判断に用いた情報」 「時間制約」 「想定リスク」
「すべて、共有します」
数字。
時系列。
判断分岐点。
誰が見ても、
“その時点では、動く合理性があった”。
だが、反論は出る。
「それでも、
顧問の判断が前面に出すぎている」
ルビーは、静かに頷いた。
「ええ。だから――」
「仕組みを変えます」
ざわめき。
「緊急時の判断は、
個人名ではなく、
役割名義で行います」
「責任者は一人」 「ですが、判断根拠は複数人で確認」
「“誰がやったか”ではなく、
“なぜそうしたか”が残る形です」
沈黙。
「責任を、
一人に集中させすぎると、
人は動けなくなる」
「分散させすぎると、
誰も引き受けなくなる」
「だから、
置き場所を決めるのです」
会議は、長引いた。
だが、最終的に――
新たな指針は、承認された。
夜。
王宮の回廊で、
レオニードが言った。
「批判は、まだ続くぞ」 「ええ」
「それでも、
今日は一歩進んだ」
「責任を“曖昧にしない形”を、
初めて示した」
ルビーは、立ち止まり、
小さく息を吐いた。
(責任は、
誰かを縛るためのものじゃない)
(動ける場所を、
示すためのもの)
執務室に戻り、
彼女は新しい文書に目を通す。
> 『緊急判断における責任配分指針(案)』
それは、
個人の勇気に頼らないための設計図だった。
ルビー・エルヴェールは、ペンを取り、
最後に一文を加えた。
> 『責任とは、
失敗の罰ではなく、
行動の保証である』
改革は、ここまで来た。
次に問われるのは――
この仕組みを、誰が守るのか。
人が替わっても、
立場が変わっても。
責任の置き場所が、
揺らがないかどうか。
試練は、
まだ終わっていなかった。
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