婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾

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第38話 守る者の覚悟

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第38話 守る者の覚悟

 新たな責任配分指針が公布されてから、二週間。

 王宮は、再び動き始めていた。
 決裁は流れ、現場判断も滞らない。

 だが――
 静かな場所で、別の力が動いていた。

 

「……顧問殿」

 夜更け、執務室を訪れたのは、王宮法務官の一人だった。

「非公式の情報です」 「構いませんわ。どうぞ」

 

「新指針に対し、
 “次の体制で撤回すべきだ”という動きがあります」

 

 ルビーは、表情を変えなかった。

「理由は?」 「“現政権の色が強すぎる”と」

 

(予想通りですわね)

 

 制度が根付く前に、
 “一時的なもの”へと押し戻そうとする。

 

「中心人物は?」 「複数です。
 ですが共通しているのは――」

 

「“今は従うが、
 次で変えればいい”という姿勢です」

 

 法務官は、言葉を選びながら続けた。

「彼らは、制度そのものより、
 あなた個人を問題視しています」

 

 沈黙。

 

「顧問殿がいなくなれば、
 自然に消える制度だ、と」

 

 ルビーは、ゆっくりと息を吸った。

「……それは、
 半分は正しいですわね」

 

「半分、ですか?」 「ええ」

 

「私がいるから、
 今は保たれている部分もある」

 

「ですが――」

 

 彼女は、静かに立ち上がった。

「だからこそ、
 私が守らねばなりません」

 

 翌日。

 ルビーは、王太子レオニードに一つの提案をした。

 

「制度の“守り手”を決めたいのです」 「守り手?」 「ええ」

 

「運用責任者ではありません」 「批判が出た時、
 矢面に立つ役割でもない」

 

「制度を、
 変えさせない人たちです」

 

 彼女は、名簿を差し出した。

「現場責任者」 「中堅官僚」 「評価制度に関わった教育担当」

 

「立場も、派閥も、異なる者を選びました」

 

「彼らに、
 “制度維持誓約”を結ばせます」

 

 レオニードは、眉をひそめる。

「反発が出るぞ」 「承知しています」

 

「ですが、
 これは権力ではありません」

 

「覚悟の共有です」

 

 数日後。

 非公開の集まりが開かれた。

 

「制度を守る、とは何ですか?」

 ある官僚が、率直に問う。

 

「失敗しても、
 逃げないことです」

 

 ルビーは、即答した。

 

「責任を、
 誰か一人に押し付けないこと」

 

「そして――」

 

「便利になった瞬間に、
 疑うことです」

 

 会場は、静まり返る。

 

「制度は、
 使いやすくなった時に、
 一番壊れやすい」

 

「だから、
 守る人が必要なのです」

 

 その場にいた者たちは、
 それぞれの立場で、
 重いものを受け取った。

 

 夜。

 ルビーは、一人、執務室で書簡を書いていた。

 宛先は、王宮保管庫。

> 『本制度は、
特定の個人の裁量に依存しない。
依存していると感じられた時点で、
それは是正対象である』



 

 署名は、
 ルビー・エルヴェール。

 

 だがその下には、
 すでにいくつもの名前が並んでいた。

 

(……これでいい)

 

 守る者が、
 増えれば増えるほど。

 

 彼女は、
 不要になっていく。

 

 それは、
 改革者として、
 最も誇るべき未来だった。

 

 ルビー・エルヴェールは、
 静かに灯りを落とす。

 次に問われるのは――
 自分が去る覚悟があるかどうか。

 制度が生き残るために、
 誰が、前に立たなくなるべきか。

 

 物語は、
 終わりへ向かう準備を、
 確実に進めていた。
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