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第15話 選ばれる側ではなく、選ぶ側へ
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第15話 選ばれる側ではなく、選ぶ側へ
朝の迎賓館は、いつもより静かだった。
廊下を歩く足音も控えめで、どこか張りつめた気配がない。
私は窓辺に立ち、街を見下ろしていた。
人々は変わらず動き、働き、生活を続けている。
私が何者であろうと、この街は何も変わらない。
それが、心地よかった。
机に戻ると、昨日カイルから渡された書類が置かれている。
正式な役職の打診。
条件、権限、責任範囲が簡潔にまとめられていた。
王国で、もし同じものを渡されていたら。
私は迷わず受け入れていただろう。
あの場所では、選択肢など最初から存在しなかった。
王太子妃になるか、ならないか。
それだけだった。
(……今は違いますわね)
私は椅子に腰を下ろし、書類を閉じた。
選ばれる側ではなく、選ぶ側。
それが、今の私の立場だ。
午前中、カイルに呼ばれ、執務室を訪れた。
「お時間、よろしいでしょうか」
「ええ」
彼は机の前に立つ私に、すぐ本題を切り出す。
「昨日の件ですが。
返答は、急がせるつもりはありません」
「ありがとうございます」
「ただ、率直な意見を聞きたい。
あなたは、何を懸念していますか」
私は、少し考えてから口を開いた。
「肩書きが欲しいわけではありません」
「承知しています」
「ただ……同じことを繰り返したくないのです」
カイルは黙って聞いている。
「王国では、役職が増えるたびに、責任だけが重くなりました。
裁量は与えられず、結果だけを求められる」
私は、視線を落とさずに続けた。
「ここでは違うと分かっています。
ですが、形だけ整えられるのは、もう嫌なのです」
少しの沈黙。
やがて、カイルは頷いた。
「……それは、当然の不安です」
彼は書類を手に取り、指で示す。
「ですから、この役職には明確な権限を付けました。
調整だけでなく、判断も任せる」
「もし、判断が誤っていたら」
「その責任は、私が負います」
はっきりとした言葉だった。
「あなた一人に、背負わせるつもりはありません」
胸の奥で、何かが静かにほどけた。
王国では、一度も聞いたことのない言葉だ。
「……それでも」
私は、最後の確認をする。
「私が、ここを去る選択をしたら?」
「止めません」
即答だった。
「あなたを必要とする場所は、ここだけではない。
それを、理解しています」
私は、思わず小さく笑った。
「ずいぶん、潔いですね」
「仕事は、縛るものではありませんから」
その考え方自体が、私には新鮮だった。
午後、私はいつも通り執務室に戻り、案件の確認を続けた。
地方都市の税収推移。
輸送計画の再編案。
いずれも、私の意見を前提に動き始めている。
それを見て、私は改めて感じた。
もう、私は“補助役”ではない。
意見を出し、判断を下し、結果に責任を持つ。
だが、その責任は、一人で抱えるものではない。
夕方、評議会から連絡が入った。
「本日の協議で、正式な決定がなされました」
内容は、明確だった。
私に、一定期間の任期付きで、政策調整官の役職を付与する。
評価は成果に基づき、任期終了後に更新の可否を判断する。
私は、少しだけ目を閉じた。
強制ではない。
選択肢は、常に私の手の中にある。
夜、迎賓館の庭を歩きながら、私は空を見上げた。
星は、王国で見ていたものと同じだ。
けれど、意味はまるで違う。
(……選ばれる人生は、もう終わり)
婚約者として選ばれ、
王太子妃として選ばれ、
役割を押しつけられる人生。
それは、終わった。
これからは、私が選ぶ。
どこで働くか。
誰と組むか。
いつ、立ち止まるか。
同じ頃、王宮では、王太子レオナルトが一人、書簡を握りしめていた。
そこに書かれているのは、隣国の政策決定と、新たな担当者の名。
もう、曖昧な表現はなかった。
「……選ばれなかったのは、私の方か」
その呟きは、誰にも届かない。
私は、迎賓館の扉の前で立ち止まり、静かに決めた。
椅子に座るかどうか。
それは、他人が決めることではない。
私は、選ぶ側だ。
その自覚を胸に、
新しい一歩を踏み出す準反を、
静かに整えていた。
朝の迎賓館は、いつもより静かだった。
廊下を歩く足音も控えめで、どこか張りつめた気配がない。
私は窓辺に立ち、街を見下ろしていた。
人々は変わらず動き、働き、生活を続けている。
私が何者であろうと、この街は何も変わらない。
それが、心地よかった。
机に戻ると、昨日カイルから渡された書類が置かれている。
正式な役職の打診。
条件、権限、責任範囲が簡潔にまとめられていた。
王国で、もし同じものを渡されていたら。
私は迷わず受け入れていただろう。
あの場所では、選択肢など最初から存在しなかった。
王太子妃になるか、ならないか。
それだけだった。
(……今は違いますわね)
私は椅子に腰を下ろし、書類を閉じた。
選ばれる側ではなく、選ぶ側。
それが、今の私の立場だ。
午前中、カイルに呼ばれ、執務室を訪れた。
「お時間、よろしいでしょうか」
「ええ」
彼は机の前に立つ私に、すぐ本題を切り出す。
「昨日の件ですが。
返答は、急がせるつもりはありません」
「ありがとうございます」
「ただ、率直な意見を聞きたい。
あなたは、何を懸念していますか」
私は、少し考えてから口を開いた。
「肩書きが欲しいわけではありません」
「承知しています」
「ただ……同じことを繰り返したくないのです」
カイルは黙って聞いている。
「王国では、役職が増えるたびに、責任だけが重くなりました。
裁量は与えられず、結果だけを求められる」
私は、視線を落とさずに続けた。
「ここでは違うと分かっています。
ですが、形だけ整えられるのは、もう嫌なのです」
少しの沈黙。
やがて、カイルは頷いた。
「……それは、当然の不安です」
彼は書類を手に取り、指で示す。
「ですから、この役職には明確な権限を付けました。
調整だけでなく、判断も任せる」
「もし、判断が誤っていたら」
「その責任は、私が負います」
はっきりとした言葉だった。
「あなた一人に、背負わせるつもりはありません」
胸の奥で、何かが静かにほどけた。
王国では、一度も聞いたことのない言葉だ。
「……それでも」
私は、最後の確認をする。
「私が、ここを去る選択をしたら?」
「止めません」
即答だった。
「あなたを必要とする場所は、ここだけではない。
それを、理解しています」
私は、思わず小さく笑った。
「ずいぶん、潔いですね」
「仕事は、縛るものではありませんから」
その考え方自体が、私には新鮮だった。
午後、私はいつも通り執務室に戻り、案件の確認を続けた。
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いずれも、私の意見を前提に動き始めている。
それを見て、私は改めて感じた。
もう、私は“補助役”ではない。
意見を出し、判断を下し、結果に責任を持つ。
だが、その責任は、一人で抱えるものではない。
夕方、評議会から連絡が入った。
「本日の協議で、正式な決定がなされました」
内容は、明確だった。
私に、一定期間の任期付きで、政策調整官の役職を付与する。
評価は成果に基づき、任期終了後に更新の可否を判断する。
私は、少しだけ目を閉じた。
強制ではない。
選択肢は、常に私の手の中にある。
夜、迎賓館の庭を歩きながら、私は空を見上げた。
星は、王国で見ていたものと同じだ。
けれど、意味はまるで違う。
(……選ばれる人生は、もう終わり)
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役割を押しつけられる人生。
それは、終わった。
これからは、私が選ぶ。
どこで働くか。
誰と組むか。
いつ、立ち止まるか。
同じ頃、王宮では、王太子レオナルトが一人、書簡を握りしめていた。
そこに書かれているのは、隣国の政策決定と、新たな担当者の名。
もう、曖昧な表現はなかった。
「……選ばれなかったのは、私の方か」
その呟きは、誰にも届かない。
私は、迎賓館の扉の前で立ち止まり、静かに決めた。
椅子に座るかどうか。
それは、他人が決めることではない。
私は、選ぶ側だ。
その自覚を胸に、
新しい一歩を踏み出す準反を、
静かに整えていた。
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