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第6話 揺らぎ始める未来と、公爵の使者
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第6話 揺らぎ始める未来と、公爵の使者
アルト公爵邸からの帰り道、私は馬車の窓に映る自分の顔をじっと眺めていた。
(私……こんなに顔に出る人間でしたっけ?)
頬がうっすら赤い。
自覚するとますます熱くなってしまう。
(公爵様……あんな真っ直ぐな言葉を……)
心臓がまだ小刻みに跳ね続けている。
「失礼いたします、お嬢様。フローレス邸に戻りました」
「あ、ありがとう……」
馬車を降り、玄関へ向かうと――
まさに扉を開けたところで、父が飛び出してきた。
「アリアーナ! 大丈夫だったのか!?」
「え、ええ……?」
「昨晩から王都中が騒ぎになっている!
殿下の供述のせいで、お前の名誉が……いや、むしろ殿下が完全に泥を被って……!」
父は頭を抱えている。
(あらら……本当に大騒ぎになってるのね)
落ち着かせるため、私は父を応接室に誘った。
「昨日の婚約破棄は、当然のことですわ。
フローレス家の名誉に傷などつきません」
「むしろ……あれは殿下の失態だな……」
父は深いため息をついた。
「それにしても、お前が匿名で提出していた領地再生案……あれが王都の高官たちの間で高く評価されているとは。
父も今朝聞いて驚いたぞ」
「書くのが好きで……つい色々と」
「つい、で書ける内容ではない。
……正直、お前をあの殿下に任せていたのは失敗だったと思っている」
「お父様……」
父の言葉は優しく、私の胸を温かくした。
その時――執事が慌てた様子で入ってきた。
「奥様、旦那様……! 大変です!
王都から緊急の知らせが!」
「また殿下か……?」
「い、いえ……
“辺境公爵アルト様の使者がご到着”とのことです!」
「……は?」
父の目がまん丸になった。
私はというと――
胸が一瞬で跳ね上がる。
(こ、こんなに早く……!?)
案内された玄関ホールには、公爵家の紋章入りの黒馬車。
その前に、威厳ある騎士が立っていた。
「フローレス家当主、並びにアリアーナ嬢にお伝えします。
――アルト・ヴァレンシア公爵より、“本日のご挨拶の礼と、近日中の正式な訪問の予告”を承って参りました」
「せ、正式な……訪問……!?」
父が固まった。
そして使者は、丁寧に封蝋された手紙を差し出した。
私は震える手でそれを受け取り、そっと封を切る。
――中には、端正な筆跡が並んでいた。
> 『昨日のお時間、心より感謝する。
あなたと向き合う覚悟は、すでにできている。
正式にご家族へ挨拶がしたく、近日伺う。
アリアーナ嬢へ。どうか、ご準備を。
アルト・ヴァレンシア』
「っ……!」
(な、なにこれ……ほとんど……!
いや、まだ“求婚”とは書かれていないけれど……!)
背後で父が頭を抱えた。
「アリアーナ……お前……まさか……」
「ち、違います! 私、まだ何も……!」
使者は深々と頭を下げる。
「では、本日のところはこれにて。
公爵様は、アリアーナ嬢のお返事を急かすつもりはない、と仰っていました」
そして馬車が去っていく。
父はしばらく固まっていたが、ふいに私を見る。
「……アリアーナ、お前……
本当にとんでもない人物に目をつけられたな」
「ち、違いますわ! 私から何かしたわけじゃ……!」
「分かっておる。
それでも――“選ばれた”のは、お前だ」
父の言葉が胸に染みた。
しかし――
その時、屋敷中に響き渡るような叫び声が聞こえた。
「きゃああああああ!!」
何事かと振り返ると、メイドが駆け込んで叫ぶ。
「レオネル殿下が、王宮を抜け出してフローレス邸へ向かっていると……!」
「…………は?」
(え、なんで!?)
「“アリアーナと話す必要がある”と暴れているそうで……!」
私は目を見開いた。
(まさか……復縁を要求しに!?
やめて、本当にやめて……!!)
嵐のような婚約破棄の翌日。
アリアーナの周囲は、さらに大きな波へ呑まれようとしていた。
---
アルト公爵邸からの帰り道、私は馬車の窓に映る自分の顔をじっと眺めていた。
(私……こんなに顔に出る人間でしたっけ?)
頬がうっすら赤い。
自覚するとますます熱くなってしまう。
(公爵様……あんな真っ直ぐな言葉を……)
心臓がまだ小刻みに跳ね続けている。
「失礼いたします、お嬢様。フローレス邸に戻りました」
「あ、ありがとう……」
馬車を降り、玄関へ向かうと――
まさに扉を開けたところで、父が飛び出してきた。
「アリアーナ! 大丈夫だったのか!?」
「え、ええ……?」
「昨晩から王都中が騒ぎになっている!
殿下の供述のせいで、お前の名誉が……いや、むしろ殿下が完全に泥を被って……!」
父は頭を抱えている。
(あらら……本当に大騒ぎになってるのね)
落ち着かせるため、私は父を応接室に誘った。
「昨日の婚約破棄は、当然のことですわ。
フローレス家の名誉に傷などつきません」
「むしろ……あれは殿下の失態だな……」
父は深いため息をついた。
「それにしても、お前が匿名で提出していた領地再生案……あれが王都の高官たちの間で高く評価されているとは。
父も今朝聞いて驚いたぞ」
「書くのが好きで……つい色々と」
「つい、で書ける内容ではない。
……正直、お前をあの殿下に任せていたのは失敗だったと思っている」
「お父様……」
父の言葉は優しく、私の胸を温かくした。
その時――執事が慌てた様子で入ってきた。
「奥様、旦那様……! 大変です!
王都から緊急の知らせが!」
「また殿下か……?」
「い、いえ……
“辺境公爵アルト様の使者がご到着”とのことです!」
「……は?」
父の目がまん丸になった。
私はというと――
胸が一瞬で跳ね上がる。
(こ、こんなに早く……!?)
案内された玄関ホールには、公爵家の紋章入りの黒馬車。
その前に、威厳ある騎士が立っていた。
「フローレス家当主、並びにアリアーナ嬢にお伝えします。
――アルト・ヴァレンシア公爵より、“本日のご挨拶の礼と、近日中の正式な訪問の予告”を承って参りました」
「せ、正式な……訪問……!?」
父が固まった。
そして使者は、丁寧に封蝋された手紙を差し出した。
私は震える手でそれを受け取り、そっと封を切る。
――中には、端正な筆跡が並んでいた。
> 『昨日のお時間、心より感謝する。
あなたと向き合う覚悟は、すでにできている。
正式にご家族へ挨拶がしたく、近日伺う。
アリアーナ嬢へ。どうか、ご準備を。
アルト・ヴァレンシア』
「っ……!」
(な、なにこれ……ほとんど……!
いや、まだ“求婚”とは書かれていないけれど……!)
背後で父が頭を抱えた。
「アリアーナ……お前……まさか……」
「ち、違います! 私、まだ何も……!」
使者は深々と頭を下げる。
「では、本日のところはこれにて。
公爵様は、アリアーナ嬢のお返事を急かすつもりはない、と仰っていました」
そして馬車が去っていく。
父はしばらく固まっていたが、ふいに私を見る。
「……アリアーナ、お前……
本当にとんでもない人物に目をつけられたな」
「ち、違いますわ! 私から何かしたわけじゃ……!」
「分かっておる。
それでも――“選ばれた”のは、お前だ」
父の言葉が胸に染みた。
しかし――
その時、屋敷中に響き渡るような叫び声が聞こえた。
「きゃああああああ!!」
何事かと振り返ると、メイドが駆け込んで叫ぶ。
「レオネル殿下が、王宮を抜け出してフローレス邸へ向かっていると……!」
「…………は?」
(え、なんで!?)
「“アリアーナと話す必要がある”と暴れているそうで……!」
私は目を見開いた。
(まさか……復縁を要求しに!?
やめて、本当にやめて……!!)
嵐のような婚約破棄の翌日。
アリアーナの周囲は、さらに大きな波へ呑まれようとしていた。
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