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第7話 殿下の乱入と、公爵の影
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第7話 殿下の乱入と、公爵の影
――フローレス邸・応接室。
「アリアーナ! アリアーナはいるか!!」
怒鳴り声と共に、扉が乱暴に開かれた。
レオネル殿下が、髪を乱し、半ば発狂じみた表情で立っていた。
メイドたちは悲鳴を上げて後ずさる。
父も目を剥く。
(えっ……本当に来ちゃったんですか……!?)
殿下は私を見るなり、涙を浮かべて走り寄ってきた。
「アリアーナ! 誤解だ!!
婚約破棄のことは……その……気の迷いだったんだ!!
私は……私はやり直したい!!」
殿下は私の手を取ろうと伸ばしてくる。
(……やめて)
私はすっと身を引いた。
「殿下。まずは落ち着いてくださいませ」
「落ち着けるわけがないだろう!?
王宮の皆が、お前の才覚を褒めるものだから……!
お前は私に必要な存在だったのだと、ようやく気づいたのだ!!」
(気づくの遅すぎません?)
私は深く一礼して、優雅に、そして冷たく言った。
「殿下。
――私には、もう“殿下のお側に戻る理由”がありませんわ」
「な……っ!? ど、どういう意味だ!?」
「私は婚約破棄を受け入れました。
殿下が勝手に決め、勝手に私を貶め、勝手に破棄した婚約を……今さら戻すなど、あり得ません」
殿下の顔が真っ青になる。
「ち、違うんだアリアーナ! もう二度とあんな失言はしない! ルチアのことも忘れる! お前が必要なんだ……!!」
「殿下」
私は強い声音で遮った。
「必要なのは“私”ではなく、“便利な婚約者候補”だった頃の私でしょう?
書類を読んでくれ、従順で、王子妃として扱いやすい……
そんな“都合のいい私”を求めていただけでしたわ」
殿下は言葉を詰まらせる。
(図星、ですよね……)
私はさらに畳みかけた。
「昨晩の殿下の発言、控室での醜態、そして今日の乱入。
――すべてが“殿下に相応しいのは私ではない”ことを証明しています」
「アリアーナ……! 頼む、戻ってきてくれ!!
でないと私は……!」
その時――。
重く、低い声 が玄関ホールを震わせた。
「――フローレス家に乱入とは。
王族としての品位はどこへ置いてきた?」
全員が振り向く。
黒い軍装、鋭い琥珀の瞳――
アルト・ヴァレンシア公爵。
「ア……アルト公爵……!?
ど、どうしてここに……!」
殿下が目を見開き、後ずさる。
アルト公爵はゆっくり歩み寄ってきて、
私を背後へかばうように立った。
(か、かばわれてる……!?)
「レオネル殿下。
あなたがどれほど騒ごうと……アリアーナ嬢の選択は変わらない」
「な、何を言う……!?」
「殿下は彼女を貶め、偽りの罪を着せ、最後は復縁強要。
王家の名を汚す行動だ」
「っ……!」
アルト公爵はさらに一歩、殿下へ踏み込んだ。
「アリアーナ嬢は――あなたのものではない」
その声は、まるで宣告だった。
この場の全員が息を呑む。
(かっ……格好良すぎません!?)
アルト公爵は振り返り、私にだけ向けて柔らかい声に変えた。
「アリアーナ嬢。ご心配をお掛けした」
「い、いえ……!」
「君が迷惑を被るのは、もう見過ごせない」
(あの…………これ、絶対もう求婚前提の保護では!?)
殿下は震え始めた。
「アリアーナ……本当に、俺ではなく……この男を……?」
私は、ゆっくりと、ためらいなく答えた。
「殿下。
――私は、殿下の隣に立つ未来をもう望んでおりませんわ」
その瞬間。
殿下の膝が床についた。
その顔は涙と汗でぐしゃぐしゃだ。
「アリアーナ……嫌だ……!!」
しかし私は、冷静に背を向けた。
「どうか王宮へお戻りください。
殿下が続けてここへ押しかけるようであれば――」
言いながら、私はアルト公爵をちらりと見る。
「公爵様が“相応の処置”を取られるそうですので」
アルト公爵はにっこりと微笑んだ。
ただし、まったく笑っていない瞳で。
「もちろんです。殿下。
……二度目はありませんよ?」
殿下は震えながら立ち上がり、逃げるように屋敷を出ていった。
静寂。
私は深く息を吐いた。
「……助けてくださり、ありがとうございます」
「礼はいらない。君を守るのは当然だ」
アルト公爵は言った。
「それに――」
「?」
「私は、殿下よりも先に“君の未来に手を伸ばした”つもりだ」
「……っ」
その言葉は、ありえないほど甘くて。
(なんでこんなに……心臓が……)
私は胸を押さえることで精一杯だった。
――フローレス邸・応接室。
「アリアーナ! アリアーナはいるか!!」
怒鳴り声と共に、扉が乱暴に開かれた。
レオネル殿下が、髪を乱し、半ば発狂じみた表情で立っていた。
メイドたちは悲鳴を上げて後ずさる。
父も目を剥く。
(えっ……本当に来ちゃったんですか……!?)
殿下は私を見るなり、涙を浮かべて走り寄ってきた。
「アリアーナ! 誤解だ!!
婚約破棄のことは……その……気の迷いだったんだ!!
私は……私はやり直したい!!」
殿下は私の手を取ろうと伸ばしてくる。
(……やめて)
私はすっと身を引いた。
「殿下。まずは落ち着いてくださいませ」
「落ち着けるわけがないだろう!?
王宮の皆が、お前の才覚を褒めるものだから……!
お前は私に必要な存在だったのだと、ようやく気づいたのだ!!」
(気づくの遅すぎません?)
私は深く一礼して、優雅に、そして冷たく言った。
「殿下。
――私には、もう“殿下のお側に戻る理由”がありませんわ」
「な……っ!? ど、どういう意味だ!?」
「私は婚約破棄を受け入れました。
殿下が勝手に決め、勝手に私を貶め、勝手に破棄した婚約を……今さら戻すなど、あり得ません」
殿下の顔が真っ青になる。
「ち、違うんだアリアーナ! もう二度とあんな失言はしない! ルチアのことも忘れる! お前が必要なんだ……!!」
「殿下」
私は強い声音で遮った。
「必要なのは“私”ではなく、“便利な婚約者候補”だった頃の私でしょう?
書類を読んでくれ、従順で、王子妃として扱いやすい……
そんな“都合のいい私”を求めていただけでしたわ」
殿下は言葉を詰まらせる。
(図星、ですよね……)
私はさらに畳みかけた。
「昨晩の殿下の発言、控室での醜態、そして今日の乱入。
――すべてが“殿下に相応しいのは私ではない”ことを証明しています」
「アリアーナ……! 頼む、戻ってきてくれ!!
でないと私は……!」
その時――。
重く、低い声 が玄関ホールを震わせた。
「――フローレス家に乱入とは。
王族としての品位はどこへ置いてきた?」
全員が振り向く。
黒い軍装、鋭い琥珀の瞳――
アルト・ヴァレンシア公爵。
「ア……アルト公爵……!?
ど、どうしてここに……!」
殿下が目を見開き、後ずさる。
アルト公爵はゆっくり歩み寄ってきて、
私を背後へかばうように立った。
(か、かばわれてる……!?)
「レオネル殿下。
あなたがどれほど騒ごうと……アリアーナ嬢の選択は変わらない」
「な、何を言う……!?」
「殿下は彼女を貶め、偽りの罪を着せ、最後は復縁強要。
王家の名を汚す行動だ」
「っ……!」
アルト公爵はさらに一歩、殿下へ踏み込んだ。
「アリアーナ嬢は――あなたのものではない」
その声は、まるで宣告だった。
この場の全員が息を呑む。
(かっ……格好良すぎません!?)
アルト公爵は振り返り、私にだけ向けて柔らかい声に変えた。
「アリアーナ嬢。ご心配をお掛けした」
「い、いえ……!」
「君が迷惑を被るのは、もう見過ごせない」
(あの…………これ、絶対もう求婚前提の保護では!?)
殿下は震え始めた。
「アリアーナ……本当に、俺ではなく……この男を……?」
私は、ゆっくりと、ためらいなく答えた。
「殿下。
――私は、殿下の隣に立つ未来をもう望んでおりませんわ」
その瞬間。
殿下の膝が床についた。
その顔は涙と汗でぐしゃぐしゃだ。
「アリアーナ……嫌だ……!!」
しかし私は、冷静に背を向けた。
「どうか王宮へお戻りください。
殿下が続けてここへ押しかけるようであれば――」
言いながら、私はアルト公爵をちらりと見る。
「公爵様が“相応の処置”を取られるそうですので」
アルト公爵はにっこりと微笑んだ。
ただし、まったく笑っていない瞳で。
「もちろんです。殿下。
……二度目はありませんよ?」
殿下は震えながら立ち上がり、逃げるように屋敷を出ていった。
静寂。
私は深く息を吐いた。
「……助けてくださり、ありがとうございます」
「礼はいらない。君を守るのは当然だ」
アルト公爵は言った。
「それに――」
「?」
「私は、殿下よりも先に“君の未来に手を伸ばした”つもりだ」
「……っ」
その言葉は、ありえないほど甘くて。
(なんでこんなに……心臓が……)
私は胸を押さえることで精一杯だった。
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