ラノベでリアルに婚約破棄を描いてみたら、王家が傾いた

鷹 綾

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第二十一話 動き出す日常

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第二十一話 動き出す日常

 即位から七日が過ぎた。

 王都は、驚くほど静かだった。
 混乱も、祝賀もない。

 だが、それは停滞ではない。
 日常が、きちんと動き出している証だった。

 新王の執務は、朝から始まる。

 最初に手を付けたのは、派手な改革ではない。
 積み上がった未決裁の書類だった。

「……この件、なぜ三年も保留に?」

 宰相が答える。

「前王の代から、判断が先送りにされていました。
 どこかの家の感情を刺激すると、面倒になる、と」

 新王は、眉をひそめた。

「契約違反は、感情以前の問題だ。
 処理しよう」

 それだけ言って、署名する。

 誰かを喜ばせる決断ではない。
 だが、誰も反論できない。

 王の仕事は、喝采を集めることではなく、
 滞っていた歯車を回すことだと、誰もが理解し始めていた。

 一方、評議会も動いていた。

「婚約条約の見直し案ですが……」

「曖昧な条文は、削除する」

 新王の指示は、一貫している。

「誤解の余地がある言葉は、争いの種になる」

 それは、イザベルが一貫して主張してきた姿勢でもあった。

 エノー公爵邸では、彼女が書簡の山に向き合っている。

「地方貴族からの問い合わせが、増えています」

 侍女の報告に、イザベルは頷いた。

「当然です。
 “次は自分かもしれない”と思えば、人は学びます」

 彼女は、返書を書きながら言う。

「感情を否定しているのではありません。
 ただ、感情だけで決めてはいけない、というだけ」

 その文面は、冷たいほど理路整然としていた。
 だが、それこそが、今の王国に必要な言葉だった。

 修道院では、時間の流れが変わらない。

 マクシミリアンは、鐘の音に合わせて作業をし、祈り、眠る。

「……国は、滅びなかったのだな」

 独り言のように呟く。

 彼が望んだ形ではない。
 だが、国は続いている。

 それが、彼にとって最も受け入れ難い事実だった。

 王城では、新王が初めて単独で使者を迎えていた。

「公爵家連合からの要望です」

 宰相が差し出す文書に、彼は目を通す。

「……妥当だ」

 即答だった。

 使者が、わずかに驚いた表情を見せる。

「協議の必要は?」

「必要ない。
 条約に沿っている」

 それだけで、話は終わる。

 交渉ではない。
 確認だ。

 夜。

 イザベルは、窓辺で王都の灯りを見つめていた。

「……動いていますね」

 侍女の言葉に、彼女は微笑む。

「ええ。
 だから、わたくしは一歩、引いていられる」

 王が理解しているなら、
 公爵令嬢が前に出る必要はない。

 それが、最も健全な関係だ。

 遠く、王城の明かりが揺れる。

 そこでは、新王が一つ一つ、
 目立たない決裁を積み重ねている。

 英雄譚は、生まれない。
 恋愛の逸話も、語られない。

 だが、この静けさこそが、
 この国が選び取った未来だった。

 婚約破棄から始まった騒動は、
 ここでようやく、日常へと還った。

 そしてイザベルは知っている。

 本当に強い国とは、
 何も起こらない日が、
 淡々と続いていく国なのだと。

 その当たり前を守るために、
 どれほど多くの愚かさが切り捨てられたか――
 それを、忘れない者がいる限り、
 この国は、もう揺るがない。
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