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第二十二話 名を残す者、消える者
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第二十二話 名を残す者、消える者
王都の掲示板に、新たな勅令が張り出された。
人々は足を止めるが、ざわめかない。
もう、この国では「読んで理解する」ことが習慣になりつつあった。
内容は、簡潔だった。
――先の王太子マクシミリアンに関する処遇を、正式に確定する。
処刑ではない。
赦免でもない。
永久追放と、王族名簿からの完全抹消。
「……名を、消すのか」
誰かが小さく呟いた。
それは、この国において最も重い処罰だった。
存在を否定される。
歴史に残る失敗例としてすら、名を刻まれない。
王城の文書庫では、古い系譜録が開かれている。
「ここから、ここまで削除」
新王の指示に、書記官が一瞬だけ手を止めた。
「……完全に、ですか」
「完全に」
ためらいはない。
「彼は、王家を危険に晒した。
それ以上でも、それ以下でもない」
感情は、介在しない。
修道院では、同じ報せを、別の形で受け取っていた。
修道院長が、短く告げる。
「あなたは、本日より名を持たない」
マクシミリアンは、静かに頷いた。
「……承知しました」
声は、驚くほど穏やかだった。
怒りも、嘆きも、もう残っていない。
名を失うことは、
彼にとって、罰であると同時に、救いでもあった。
何者でもない者として、
初めて、責任から解放される。
だがそれは、自由ではない。
無関係になる権利を、永久に失うということだ。
一方、もう一つの名も、処理が進められていた。
ルクレツィア・ボルジア男爵令嬢。
裁判は、短かった。
教会の審問は、冷酷で、正確だった。
「王太子を誑かしたか否か」
「王位に関わる虚偽を語ったか」
「自らの身分を偽り、政治に介入したか」
彼女は、最後まで「善意」を主張した。
「愛しただけですわ」
その言葉に、司教は静かに答えた。
「愛は、罪を免責しない」
判決は、即日。
異端認定、財産没収、公開裁定。
処刑は、王都では行われない。
それが、新王の決定だった。
「見世物にする必要はない」
結果だけが、記録される。
人々は、彼女の最期を詳しく知らない。
知る必要もない。
悪女は、物語の中で処理される存在だ。
現実では、ただの事務だ。
エノー公爵邸。
イザベルは、報告書を読み終え、静かに閉じた。
「……終わりましたね」
侍女が、慎重に言う。
「はい」
彼女は、ため息すらつかない。
「誰かを断罪したいわけではありませんでした。
ただ、契約が破られ、秩序が乱れただけ」
その言葉は、冷たい。
だが、優しい。
誰の感情も、特別扱いしないという意味で。
窓の外では、子どもたちが遊んでいる。
王都は、もう騒がない。
新王は、日報に目を通しながら、最後に一行だけ書き加えた。
「本件、終結」
それだけで、十分だった。
名を残す者と、消える者。
英雄はいない。
恋も、救済も、語られない。
だが、国は続く。
それこそが、
イザベル・ド・エノーが守りたかったものだった。
そして彼女は、知っている。
名を消された者たちよりも、
名を使って愚行を正当化した者たちの方が、
よほど恐ろしいのだと。
だからこそ、この結末は、必要だった。
王都の掲示板に、新たな勅令が張り出された。
人々は足を止めるが、ざわめかない。
もう、この国では「読んで理解する」ことが習慣になりつつあった。
内容は、簡潔だった。
――先の王太子マクシミリアンに関する処遇を、正式に確定する。
処刑ではない。
赦免でもない。
永久追放と、王族名簿からの完全抹消。
「……名を、消すのか」
誰かが小さく呟いた。
それは、この国において最も重い処罰だった。
存在を否定される。
歴史に残る失敗例としてすら、名を刻まれない。
王城の文書庫では、古い系譜録が開かれている。
「ここから、ここまで削除」
新王の指示に、書記官が一瞬だけ手を止めた。
「……完全に、ですか」
「完全に」
ためらいはない。
「彼は、王家を危険に晒した。
それ以上でも、それ以下でもない」
感情は、介在しない。
修道院では、同じ報せを、別の形で受け取っていた。
修道院長が、短く告げる。
「あなたは、本日より名を持たない」
マクシミリアンは、静かに頷いた。
「……承知しました」
声は、驚くほど穏やかだった。
怒りも、嘆きも、もう残っていない。
名を失うことは、
彼にとって、罰であると同時に、救いでもあった。
何者でもない者として、
初めて、責任から解放される。
だがそれは、自由ではない。
無関係になる権利を、永久に失うということだ。
一方、もう一つの名も、処理が進められていた。
ルクレツィア・ボルジア男爵令嬢。
裁判は、短かった。
教会の審問は、冷酷で、正確だった。
「王太子を誑かしたか否か」
「王位に関わる虚偽を語ったか」
「自らの身分を偽り、政治に介入したか」
彼女は、最後まで「善意」を主張した。
「愛しただけですわ」
その言葉に、司教は静かに答えた。
「愛は、罪を免責しない」
判決は、即日。
異端認定、財産没収、公開裁定。
処刑は、王都では行われない。
それが、新王の決定だった。
「見世物にする必要はない」
結果だけが、記録される。
人々は、彼女の最期を詳しく知らない。
知る必要もない。
悪女は、物語の中で処理される存在だ。
現実では、ただの事務だ。
エノー公爵邸。
イザベルは、報告書を読み終え、静かに閉じた。
「……終わりましたね」
侍女が、慎重に言う。
「はい」
彼女は、ため息すらつかない。
「誰かを断罪したいわけではありませんでした。
ただ、契約が破られ、秩序が乱れただけ」
その言葉は、冷たい。
だが、優しい。
誰の感情も、特別扱いしないという意味で。
窓の外では、子どもたちが遊んでいる。
王都は、もう騒がない。
新王は、日報に目を通しながら、最後に一行だけ書き加えた。
「本件、終結」
それだけで、十分だった。
名を残す者と、消える者。
英雄はいない。
恋も、救済も、語られない。
だが、国は続く。
それこそが、
イザベル・ド・エノーが守りたかったものだった。
そして彼女は、知っている。
名を消された者たちよりも、
名を使って愚行を正当化した者たちの方が、
よほど恐ろしいのだと。
だからこそ、この結末は、必要だった。
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