ラノベでリアルに婚約破棄を描いてみたら、王家が傾いた

鷹 綾

文字の大きさ
27 / 40

第二十七話 次の誤算

しおりを挟む
第二十七話 次の誤算

 平穏は、長く続くものではない。

 だがそれは、必ずしも破られるという意味ではない。
 試されるという意味だ。

 王城に、一通の報告が届いたのは、昼下がりだった。

「南方諸国の使節団が到着しました」

 宰相の言葉に、新王は顔を上げる。

「目的は?」

「通商条約の再交渉――と、表向きは」

 新王は、紙を受け取り、目を走らせる。

「“王太子廃嫡後の王権の安定性を確認したい”……
 ずいぶん正直だな」

 宰相が苦笑する。

「探りです。
 内紛が再燃する余地があるかどうか」

「当然だ」

 国が揺れた直後ほど、外は嗅ぎ回る。

 それは敵意ではない。
 ただの計算だ。

「会おう」

 新王は即断した。

「隠すことは何もない」

 一方、エノー公爵邸にも、似た報せが届いていた。

「南方の侯爵家から、非公式な接触です」

 イザベルは、書簡を一瞥する。

「……“王権が弱体化した今こそ、
 公爵家が実権を握るべきではないか”」

 侍女が眉をひそめる。

「失礼な……」

「いいえ」

 イザベルは、紙を畳む。

「誤算ですわ」

 彼らは理解していない。

 今回の一件で強くなったのは、
 公爵家でも、王家でもない。

 境界線そのものだ。

 公爵家が前に出れば、
 それは即座に「越境」と見なされる。

 この国は、もうその段階に来ている。

 修道院では、名を失った男が、使節団の話を耳にした。

「……外は、そう見るだろうな」

 混乱の後には、必ず“空白”を探す者が現れる。

 かつての自分も、
 その空白を、都合よく解釈していた。

 王城の謁見室。

 南方使節は、丁寧な礼を尽くしながら言った。

「王位継承の混乱が収束したこと、
 我々も喜ばしく思っております」

「感謝する」

 新王は、感情を乗せずに答える。

「それで?」

 使節は、間を置いた。

「貴国の統治体制は、
 以前より“合議的”になったと聞きます」

「事実だ」

「では、意思決定は遅くなったのでは?」

 新王は、首を振った。

「逆だ。
 遅れていたのは、責任の所在が曖昧だったからだ」

 使節は、一瞬、言葉を失う。

「現在は、
 誰が決め、誰が責任を取るかが明確だ。
 だから、速い」

 それは、誇張ではなかった。

 新王は続ける。

「不安定さを期待して来たのなら、
 その計算は外れている」

 使節は、慎重に言葉を選び直す。

「……失礼しました。
 では、通商条約の話を」

 話題は、そこで切り替わった。

 力比べは、終わっている。

 エノー公爵邸では、イザベルが返書を書いていた。

「公爵家が王権を補完する意図はありません。
 現在の秩序は、十分に機能しています」

 簡潔で、余地のない文面。

 送られた相手は、
 それ以上踏み込めないことを悟るだろう。

 夕暮れ。

 新王は、執務を終え、窓の外を見た。

「……次の誤算は、外から来るか」

 宰相が答える。

「ええ。
 ですが、今回は――」

「分かっている」

 新王は、静かに言う。

「内側が、もう揺れない」

 それが、最大の違いだ。

 イザベルもまた、同じことを考えていた。

 愚かな王太子は、
 自分だけが“例外”だと思い込んだ。

 次に現れる者は、
 “空白がある”と思い込むだろう。

 だが、そのどちらも誤算だ。

「……試されるのは、これからですわね」

 彼女は、そう呟きながらも、微笑んでいた。

 越えてはならない線を、
 この国は、もう知っている。

 ならば次は――
 その線を、外にどう示すか。

 第二十七話は、
 静かな平穏の裏で、
 次の局面が始まったことを告げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...