ラノベでリアルに婚約破棄を描いてみたら、王家が傾いた

鷹 綾

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第二十九話 学ばぬ者たち

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第二十九話 学ばぬ者たち

 国が静まると、
 静けさを誤解する者が必ず現れる。

 王都から少し離れた北方の領地で、
 小さな動きが観測されたのは、条約公開から半月後だった。

「北辺の子爵数名が、非公式に集会を」

 宰相の報告に、新王は眉一つ動かさない。

「目的は?」

「“王権が弱体化した今、
 地方貴族の裁量を拡大すべきだ”と」

 新王は、短く息を吐いた。

「……またか」

 それは、南方諸国の探りとは違う。
 外は理解した。

 理解していないのは、内側の一部だった。

 評議会が、慎重に言葉を選ぶ。

「武装の兆候は?」

「ありません。
 ただの会合です」

「なら、問題ない」

 新王は、淡々と言った。

「――現時点では」

 それが、警告だった。

 一方、エノー公爵邸にも、同じ情報が届いていた。

「公爵家が動くべきでしょうか」

 侍女の問いに、イザベルは首を振る。

「いいえ。
 これは、公爵家の出番ではありません」

 むしろ――

「学ばぬ者が、どこまで学ばぬかを見る局面ですわ」

 彼らは、勘違いしている。

 境界線が引かれたことで、
 線の内側でなら、何をしても許されると思っている。

 だが、線とは、
 位置ではなく行為で踏み越えるものだ。

 修道院では、名を失った男が、その噂を聞き、静かに目を伏せた。

「……俺と同じだ」

 武器を持たず、
 反乱の意思も示さず、
 それでも「例外」を求める。

 彼は、鍬を強く握る。

「力を持つ者ほど、
 境界線が見えなくなる」

 王城では、新王が、北辺の集会に対する対応を決めていた。

「監視は続ける。
 だが、介入はしない」

 宰相が確認する。

「声明も出さず?」

「出さない」

 新王は、はっきりと言う。

「彼らが何を主張するかではなく、
 何をするかを見極める」

 それは、冷静で、残酷な判断だった。

 数日後。

 北辺の集会は、
 “地方自治拡大を求める嘆願書”という形で、
 正式に王城へ提出された。

 文面は丁寧で、反抗的ではない。

 だが、その中には、
 明確な一文が含まれていた。

 ――王権の最終裁可を、地方評議に委ねること。

 その瞬間、
 境界線は越えられた。

 王城の空気が、わずかに変わる。

 新王は、嘆願書を閉じ、静かに言った。

「却下だ」

 理由は、一つ。

「契約違反だ」

 それだけで十分だった。

 即日、勅令が出される。

 北辺の集会は解散命令。
 主導した子爵家三家は、
 評議参加資格を一時停止。

 財産没収も、投獄もない。

 だが、政治的影響力だけが、正確に削がれた。

 エノー公爵邸。

 イザベルは、その処置を聞き、頷いた。

「適切ですわ」

 甘くも、厳しすぎもしない。

 学ぶ機会を残し、
 同時に、越えてはならない線を示す。

「……理解するでしょうか」

 侍女の問いに、イザベルは答える。

「ええ。
 理解しなければ――」

 その先は、言わない。

 理解しない者がどうなるかは、
 もう、この国では周知の事実だからだ。

 修道院では、元王太子が、その報せを聞き、静かに呟いた。

「……俺は、学ばなかった」

 だから、すべてを失った。

 だが、彼らは、まだ失っていない。

 それが、最後の機会だ。

 王都の人々は、この件を大きな事件として語らない。

「却下されたらしいな」

「ああ。
 当たり前だろ」

 それだけだ。

 騒がれないことこそが、
 最大の抑止力になっている。

 イザベルは、窓辺で夕暮れを眺めながら思う。

 愚かさは、根絶できない。
 だが――

「通らなくは、できますわ」

 第二十九話は、
 この国が、
 学ばぬ者に対しても、
 感情ではなく制度で応えたことを描いていた。

 次に試されるのは、
 彼ら自身の理解力だ。
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