エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾

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第3話 南方は、甘い宝庫でした

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第3話 南方は、甘い宝庫でした

 

「……暑いですわね」

エオリア・フロステリアは、南方の森を前に、率直な感想を漏らした。

追放先として与えられたこの地は、高温多湿。
王都の貴族たちが嫌う条件を、すべて満たしている。

「農地としては不向き。魔導陣も安定しづらい。だから“未開地”……ですか」

だが、エオリアの視線は、足元の土と、周囲の木々に向いていた。

(……でも、この湿度。この気温。この土壌……)

胸の奥に、ひっかかる感覚がある。

 



 

森の奥へ進むにつれ、エオリアは違和感を確信へと変えていった。

「……この実」

木の幹にぶら下がる、楕円形の果実。
厚い殻に包まれ、独特の香りを放っている。

割ってみると、中には白い果肉と、整然と並ぶ豆。

「……カカオ、ですわね」

王都では高級嗜好品。
輸入に頼り、限られた量しか流通しない貴重品。

それが――

「……あちらにも。こちらにも……」

周囲を見渡せば、同じ木が無数に生えている。

しかも、放置されたまま。

「……なるほど」

ここが未開地と呼ばれた理由が、ようやく理解できた。

この国では、
カカオ=贅沢品=王都向け
という固定観念があった。

「こんな場所で育つはずがない」と、誰も調査しなかった。

高温多湿で、人が住みにくい土地。
だからこそ、価値を見落とされた。

「……思い込みというのは、怖いものですわね」

 



 

屋敷へ戻ったエオリアは、さっそく試すことにした。

収穫したカカオ豆を洗浄し、発酵、乾燥、焙煎。
工程はすべて、彼女の魔法で補助する。

「……問題ありませんわね」

品質は、王都で流通していたものと遜色ない。
むしろ、鮮度が高い分、香りが強い。

「輸入する理由が、どこにもありませんわ」

――つまり。

原料は、無尽蔵。

 



 

そこで、エオリアは考えた。

(……せっかくなら、作りたいだけ作ってしまいましょう)

自分が食べるために。
自分が美味しいと思うものを、納得するまで。

彼女は魔導工房に、大型の魔法陣を構築した。

発酵、乾燥、焙煎、粉砕、撹拌、成形。
すべてを一つの流れに統合した――

《全自動チョコレート製造魔法》。

「……これで、わたくしは味にだけ集中できますわね」

止めるつもりは、最初からなかった。

 



 

完成後。

エオリアは、最初の一枚を手に取った。

「……いただきます」

ゆっくりと味わう。

香り、口溶け、後味。
納得するまで、時間をかけて。

――そのあいだも。

魔法陣は、黙々と働き続けていた。

 



 

再び工房を覗いたとき。

「……あら」

箱が、増えている。

(……そうでしたわね。全自動、でしたもの)

一枚を味わっているあいだに、十枚。
十枚を味わえば、百枚。

原料は森に無尽蔵。
魔力は余っている。

「……これは、食べきれませんわね」

困った様子は、まるでない。

「仕方ありませんわ。残りは……」

少し考え、

「売るか、配るか……どちらかですわね」

それは、
儲けるためでも、国を救うためでもない。

ただ――

「わたくしが美味しいものを食べたいだけ、ですもの」

その結果、余っただけ。

南方が“未開地”と呼ばれた理由は、
この日をもって、静かに終わりを告げた。


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