エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾

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第7話 説明しないだけで、勝手に深読みされました

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第7話 説明しないだけで、勝手に深読みされました

 販売開始から三日。

 エオリア・フロステリアは、いつも通り厨房の椅子に座り、紅茶を飲みながらチョコレートを味わっていた。

「……少しカカオが強いですわね。明日は配合を一段階落としましょう」

 それだけ考えていれば、本来は十分だった。

 しかし、その日の午後。
 エレナが、妙に疲れた顔で戻ってきた。

「お嬢様……外が、少し騒がしいです」

「……行列ですか?」

「いえ。今日は静かです。ですが……」

 言い淀むエレナに、エオリアは視線だけ向けた。

「“条件の意味”について、憶測が広がっているようで……」

 エオリアは、ぴたりと手を止めた。

「……説明は、していませんわよね?」

「はい。条件だけ、掲示しています」

「では、問題ありませんわ」

 即断だった。

 だが、問題は“外”で起きていた。

 



 

 屋敷の外、通り沿いの茶屋では、いつの間にか議論が起きていた。

「一人一回、量無制限……あれ、どう考えても意味深じゃない?」

「普通、逆だろ? 一人一箱とかさ」

「“何度も並ぶな”ってことじゃないか?」

「いや、違う。あれは――選別だ」

 声を潜めて、誰かが言った。

「覚悟がある者だけ、まとめて買えって意味だろ?」

「……は?」

「覚悟だよ。欲しいなら、責任持って持っていけ、ってことだ」

 周囲が、妙に納得したような顔になる。

「確かに……中途半端に買うな、って感じはする」

「じゃあ、少量しか買わない人は……?」

「“本気じゃない”って判断されるんじゃないか?」

 どこからどう見ても、深読みだった。

 



 

 その日の販売。

 条件は変わらない。
 説明も、当然しない。

 だが、来る人の様子が、明らかに変わっていた。

 皆、妙に真剣な顔をしている。

「……五箱で、よろしいですか?」

「……ええ」

「……覚悟、足りないと思われませんか?」

 エレナは一瞬、返答に詰まりかけたが、横からエオリアが淡々と答えた。

「思いませんわ」

「……!」

 質問対応はしない、と書いてある。
 だが、否定することまでは禁じていない。

 その一言で、客は赤面し、慌てて去っていった。

 別の者は、箱を十も抱えながら、緊張した面持ちで言った。

「……これだけ買えば、“選ばれた側”でしょうか?」

「存じませんわ」

 エオリアは、心底どうでもよさそうに答える。

「ただ、減ってくれるのは助かります」

 その返答は、理解されなかった。

 むしろ――

「減らす……? 供給調整……?」

「やはり、市場を見ている……」

 勝手に解釈されていく。

 



 

 その夜。

 エレナは、ついに我慢できずに聞いた。

「お嬢様……誤解、されていると思います」

「そうですの?」

「かなり……。“哲学がある”“人を試している”“商才がある”と……」

 エオリアは、しばらく考えたあと、静かに言った。

「……困ります?」

「いえ……特には……」

「では、放っておきましょう」

 彼女は紅茶を飲み干す。

「私は、説明するために作っているのではありませんの」

「……はい」

「自分が美味しいものを食べたい。ただ、それだけですわ」

 その結果、余る。
 余るから、出す。
 行列が嫌だから、条件を付ける。

 それ以上の意味は、ない。

「人が勝手に意味を付けるのは、止められませんもの」

 エオリアは、淡々と結論づけた。

「……それに」

 最後に、ぽつりと。

「理解されないほうが、楽ですわ」

 



 

 翌日。

 また新しい噂が流れていた。

「説明しないのが、“格”らしい」

「質問しない者だけが、真価を理解できるんだとか」

「やっぱり、普通の聖女じゃない……」

 屋敷の中で、その声を聞きながら、エオリアは新しい配合表を眺めていた。

「……今日は少し甘さを戻しましょう」

 外の評価など、どうでもいい。

 彼女の世界は、
 自分の舌と、静かな時間と、
 勝手に増えていくチョコレートだけで、十分だった。

 説明しない。
 弁解しない。
 迎合しない。

 その沈黙が、また一つ、
 余計な意味を生み出していくとも知らずに――。

 エオリアは、今日も、何もしないまま、
 自分のためだけに、チョコを味わっていた。
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