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第8話 何もしないのに、勝手に整っていく
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第8話 何もしないのに、勝手に整っていく
朝。
エオリア・フロステリアは、いつもより少し遅く起きた。
「……よく寝ましたわ」
それだけで、今日の予定はほぼ終わりだった。
全自動チョコレート製造魔法は、すでに夜明け前から稼働している。
カカオの選別、焙煎、精錬、成形、冷却――すべて、彼女が眠っている間に完了していた。
彼女が起きた頃には、厨房の奥の保管庫に、今日の分がすでに整然と積み上がっている。
「……今日も、少し多いですわね」
それ以上の感想はなかった。
◆
朝食後。
エレナが帳面を抱えて現れる。
「お嬢様、昨日の販売ですが……」
「売れました?」
「はい。時間ぴったりに来て、時間ぴったりに終わりました」
「それは、よかったですわ」
「……あと、行列が自然に一列になっていました」
エオリアは、少しだけ眉を上げた。
「管理は、していませんわよね?」
「はい。でも……」
エレナは言いにくそうに続ける。
「前日に来た方が、“ここは静かに待つ場所だ”と、後ろの人に伝えていたようで……」
「……伝達?」
「はい。誰に頼まれたわけでもなく」
エオリアは、少し考えたあと、結論を出した。
「……便利ですわね」
それだけだった。
◆
昼前。
屋敷の前には、今日も人が集まっていた。
だが、騒がしくはない。
声を荒げる者もいない。
割り込みも、揉め事もない。
ただ、時間まで静かに待ち、
時間になったら淡々と買い、
終わったら、何事もなかったかのように去っていく。
エオリアは窓から一瞥し、すぐに視線を戻した。
「……人間、慣れるものですわね」
「慣れたというより……“学習した”感じです」
「どちらでも、構いませんわ」
彼女にとって重要なのは、
・騒がれない
・急かされない
・説明しなくていい
それだけだった。
◆
午後。
エオリアは、出来たてのチョコを一つ割り、ゆっくり味わっていた。
「……今日は、これが一番ですわね」
満足した表情で、残りを皿に戻す。
当然、残りは大量にある。
「……また余りますわね」
「はい」
「……まぁ、いいでしょう」
それ以上、考えない。
余るのは、前提。
作りたいから作る。
食べたいから味見する。
それで余った分が、外に流れる。
順序は、最初から最後まで一貫している。
◆
夕方。
エレナが、少し困った顔で戻ってきた。
「お嬢様……最近、“買えなかった人”が、文句を言わなくなりました」
「……良いことでは?」
「はい。ただ……」
「ただ?」
「“今日は買えなかったから、明日でいい”と言って、素直に帰る人が増えていまして……」
エオリアは、しばし沈黙した。
「……毎日、同じ量を出していることは、伝わっているのですね」
「はい。“焦る必要がない”と、皆さん理解しているようです」
「それは……」
一瞬だけ考えてから、静かに言う。
「……楽ですわね」
競争がない。
焦燥がない。
奪い合いもない。
ただ、欲しい人が、欲しいときに来る。
彼女が意図したわけではない。
だが、結果として――
「……静かですもの」
◆
夜。
エオリアは、ソファに身を沈めながら、今日の最後の一口を口に入れた。
「……やはり、最初の配合が一番落ち着きますわ」
満足。
それで、今日は終わり。
彼女は知らない。
彼女が“何もしない”ことで、
・行列が整い
・転売が消え
・過剰な欲望が冷め
この場所が、奇妙なほど穏やかな空間になっていることを。
だが、知る必要もなかった。
「……明日は、少しミルクを増やしましょう」
世界がどう変わろうと、
彼女が考えることは、いつも同じ。
――自分が、美味しいと思えるかどうか。
それだけを基準に、
全自動の魔法は、今日も静かに回り続けていた。
朝。
エオリア・フロステリアは、いつもより少し遅く起きた。
「……よく寝ましたわ」
それだけで、今日の予定はほぼ終わりだった。
全自動チョコレート製造魔法は、すでに夜明け前から稼働している。
カカオの選別、焙煎、精錬、成形、冷却――すべて、彼女が眠っている間に完了していた。
彼女が起きた頃には、厨房の奥の保管庫に、今日の分がすでに整然と積み上がっている。
「……今日も、少し多いですわね」
それ以上の感想はなかった。
◆
朝食後。
エレナが帳面を抱えて現れる。
「お嬢様、昨日の販売ですが……」
「売れました?」
「はい。時間ぴったりに来て、時間ぴったりに終わりました」
「それは、よかったですわ」
「……あと、行列が自然に一列になっていました」
エオリアは、少しだけ眉を上げた。
「管理は、していませんわよね?」
「はい。でも……」
エレナは言いにくそうに続ける。
「前日に来た方が、“ここは静かに待つ場所だ”と、後ろの人に伝えていたようで……」
「……伝達?」
「はい。誰に頼まれたわけでもなく」
エオリアは、少し考えたあと、結論を出した。
「……便利ですわね」
それだけだった。
◆
昼前。
屋敷の前には、今日も人が集まっていた。
だが、騒がしくはない。
声を荒げる者もいない。
割り込みも、揉め事もない。
ただ、時間まで静かに待ち、
時間になったら淡々と買い、
終わったら、何事もなかったかのように去っていく。
エオリアは窓から一瞥し、すぐに視線を戻した。
「……人間、慣れるものですわね」
「慣れたというより……“学習した”感じです」
「どちらでも、構いませんわ」
彼女にとって重要なのは、
・騒がれない
・急かされない
・説明しなくていい
それだけだった。
◆
午後。
エオリアは、出来たてのチョコを一つ割り、ゆっくり味わっていた。
「……今日は、これが一番ですわね」
満足した表情で、残りを皿に戻す。
当然、残りは大量にある。
「……また余りますわね」
「はい」
「……まぁ、いいでしょう」
それ以上、考えない。
余るのは、前提。
作りたいから作る。
食べたいから味見する。
それで余った分が、外に流れる。
順序は、最初から最後まで一貫している。
◆
夕方。
エレナが、少し困った顔で戻ってきた。
「お嬢様……最近、“買えなかった人”が、文句を言わなくなりました」
「……良いことでは?」
「はい。ただ……」
「ただ?」
「“今日は買えなかったから、明日でいい”と言って、素直に帰る人が増えていまして……」
エオリアは、しばし沈黙した。
「……毎日、同じ量を出していることは、伝わっているのですね」
「はい。“焦る必要がない”と、皆さん理解しているようです」
「それは……」
一瞬だけ考えてから、静かに言う。
「……楽ですわね」
競争がない。
焦燥がない。
奪い合いもない。
ただ、欲しい人が、欲しいときに来る。
彼女が意図したわけではない。
だが、結果として――
「……静かですもの」
◆
夜。
エオリアは、ソファに身を沈めながら、今日の最後の一口を口に入れた。
「……やはり、最初の配合が一番落ち着きますわ」
満足。
それで、今日は終わり。
彼女は知らない。
彼女が“何もしない”ことで、
・行列が整い
・転売が消え
・過剰な欲望が冷め
この場所が、奇妙なほど穏やかな空間になっていることを。
だが、知る必要もなかった。
「……明日は、少しミルクを増やしましょう」
世界がどう変わろうと、
彼女が考えることは、いつも同じ。
――自分が、美味しいと思えるかどうか。
それだけを基準に、
全自動の魔法は、今日も静かに回り続けていた。
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